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殊志同帰_C-4 Prologue:軽いノリで呂布軍団生き残りオリTRPG

>経權緊張、軍務官と政務官


「今の言葉だが——」
前衛から持ち場まで下がる馬上で掛けられた高順の声に、素早く周囲に目を走らせる。

吸収した土着集団を部隊に割り振ったはいいが、一度は逃げたのに戻ってきた者、その逆、あちらの林に荷駄を隠してあると言い出す者などもいて、受け入れ側の歩兵隊の処理にはまだしばらく手間取りそうだ。

わずかな空隙。——いまの自分は、先ほどの交渉を無傷で成功させたばかりだ。いわば「王楷」という名のご祝儀相場。ここで踏み込まねば次はない。

「はい。おうかがいしましょう」
馬を止めると、王楷はそらすことなく、高順の目をまっすぐに見据えた。

「貴殿は先ほど、『武門の不文律すら超えてあらゆる地域が戦火に炙られ』と言ったな」
「なるほど、そこですね」
素直に認めたが、内心では舌打ちをしていた。
(……これは、系統立てた軍事教育を受けているな)

この思考と気風、顔立ち、長身は、司隷――いや、涼州系の可能性もある。だが確証はない。判断保留。
許汜は「あれは単純な正義の人だろ」などと言っていたが、とんでもない。
発火点こそそうかもしれない。しかし、この手ざわりは正規軍人のそれだ。規律と法を徹底的に叩き込まれた人間の、一番めんどうくさい突っ込みが来るぞ。

「牧野、城濮、鄢陵……兵という凶事を―」
「いや! 待った!」

王楷は手をかざして続く言葉を遮った。極めて無礼な所作! だが、高順は不快感を表さない。むしろ、次の一言を待っている。

うん。ですね。
そこまで分かっている人ですよね。

軍務と政務の摩擦は、役割分担だけではない。この時代の実務そのものが、経(常道)と權(非常措置)の緊張を抱えていた。

これはもう、駆け引きは悪手だ。いま学んだばかりだ。戦場では即断即決即行こそが全て。ここで腹を割るしかない。

「……ご無礼致した。お互い、ここからの掛け合いは分かっている。形ばかりの礼なら無駄です」
「話が早くて助かる」

高順が、横にいた秦宜禄に目を遣って先に行かせた。下がりしなに宜禄がそれとなく隊列を押して、順楷二騎の周りにぽっかりと空間ができる。

「端的に。我々は兗州という生活盤面で蜂起した。これが常道を外れる非道であることは百も承知。常道では届かない。だから權に踏み込んだ。それで、ここまで燃える」
高順が返す。
「これ以上戦火を広げれば、貴公らとて破滅は免れない。勝算は」
「朝廷の権威。
呂将軍が朝命によって得た官爵、その格式は破格だ。事後追認あればそれで終わる」
「その前提条件だ」
「曹操を殺す」
「濮陽にそれを求める根拠は」

――頭が熱い。とんでもない疾走感だ。赤子のように無防備な自分の言葉に冷や汗が出る。……しかし、ここで押す!

「東郡は公台君の故郷です」

初めて高順の表情が揺れた。が、さらに引かずに言葉を重ねた。
「我々は本気です。そこだけご理解いただければ今は十分です」

高順が目線で示した。時間切れだ。
秦宜禄が押した列がだらだらと元に戻り始めている。歩兵隊のとりまとめも終わった様子だ。どちらからともなく、再び馬を進めながら、低く、短く続ける。

「……必ず呂将軍を頂点か?」
「ええ。我々はただ能力を縦横に振るいたい。武門の本懐と本質は同じだ」
「それは本懐とは呼ばない」
「さぞご不快でしょう。呂将軍の無垢な残忍さとは根本的に異なる。我々は身勝手な思想犯だ。それも承知」
「私は、将軍のために必要なことが行える」
「こちらも同様です」

高順は口を引き結ぶと、今度こそ話を切り上げた。
「受け入れられるかどうかは別だ」
「よろしいと思います。それこそが貴殿の美徳だ」


兗州さえとれば、なんとでもなる




>後詰精騎たち



「おい文遠、ちょっと後ろ遊騎行ってこい」
「っす!」

何かが起きたのか。進軍が止まって、もう四半刻になる。
左翼の歩兵隊がざわついているようだが、後詰めからは状況がちょっとよくわからなかった。

このところ、足元の地面が急になくなったような、うすら寒いくるしさが時々込み上げてくる。ただ、何がそこまでくるしいのかは、自分でも判らなかった。――最近、こういう「判らないこと」が増えている。
とにかく、今は成廉から索敵を命じられた。それは判る。明解だ。
なんで将軍扱いになった自分が行かされるのかには不服はあるが、嫌ではない。迷いを振り払うかのように馬腹を蹴って、遊騎へと駆け出した。

馬蹄の振動に、もやもやしていた肚がかき回される。
嫌なものが剥がれ落ちていくようで心地よい。
ほんの数呼吸分を駆けただけでも、そこはもう、歩兵や輜重の鈍足に合わせた行軍も、雑多な出身地の兵たちが放つ耳慣れない方言も、切れ目なく続くこまごまとした諍いの声も無い、しん、とした広い天地だった。


部下に馬具を遣ってしまったので裸馬だが、それも特に問題はない。
予備の矢などの荷を結ぶために普段は鞍だけは置いていたが、むしろ鞍なしの方が乗りやすいまであった。脚全体に直接伝わってくる大きな動物の体温と筋肉の動き、容赦なく照り付ける真っ白な日差し、左右に飛び去っていく景色。その中で、深く、深く、呼吸をする。



「っす! なんもなかったでーす」
「おう。ごくろう」

遊騎から戻り、後詰精騎の上将に当たる成廉に、報告のため騎馬を寄せる。
そういえば、最近はこうして仲間と馬をぴったり並べることも少なくなった。……自分の部隊があるもんな。

「これ。 索敵成果物のバッタです(笑)」
「いらんわww 捨てろwww」

ひとしきり笑い合っていると、前方から伝令の小者が回ってきた。現地兵との合流完了、出発準備の令、それに予定到着時刻の再調整を触れて回っている。応、と応じる。

「バッタはもう捨てとけw よし文遠、持ち場に…」
「……あのな!成廉! 俺っ…!」

唐突に、騎乗していた馬の尻を成廉に思いっきり蹴り飛ばされた。
鞍が無い上に、右手はバッタ、左手も槍で塞がっている。脚だけで強引に馬を立て直すのに、優に二十歩も逸馬させられる。


「じゃれてくるのはいい。兵卒の前で取り乱すな」

いつの間にか馬を寄せてきていた成廉は、穏やかに笑っていた。
俺の馬を蹴るなよという反射的な怒りと、兵たちの耳目の届かない所まで一瞬で蹴り飛ばしてもらえた配慮への感謝。二つの感情が同時に爆発して、顔に血が上っていく。
でも、いま聞かないと。もう出発してしまう。

「濮陽に向かうんだよな。なんで濮陽に行くことになったんだろう」

ようやく出てきた言葉は、自分自身でもあまりにもとりとめがなかった。
それでも成廉は俺を莫迦にしたりせず、からっと笑って答えてくれた。


なんだ坊主。おまえそんなことで悩んでたのか(笑)

そんなもん、誰にもわかってないんだから気にすんな。




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