【短編 童話】第十章『おかしなジンジャーブレッドマン』| 落ちこぼれ魔女ターナ
街角の小さなパン屋さん
「ありがとうございました」
鈴の音の転がるような愛らしい声。
深々と頭を下げるシエラに
その老婦人は満足げに頷いて
シエラの店をあとにした。
此処は公園通り、
魔女シエラの占い館。
シエラがひとりで切り盛りする
小さなお店である。
常連客の他にも、今の老婦人のように
不意に訪れる一見さんにも、
愛想がいいと評判で
しかも占いがよく当たるとも噂される。
なかなかの繁盛ぶりである。
「今日は、もういいかな」
お店の表口に施錠すると、
売り上げの精算を済ませ
シエラは裏口から出ていく。
街灯の青いガスの炎が照らし出す
通りの雑踏をすり抜けて歩いていく。
街灯の灯る石畳を通り抜けると、
小さなパン屋が見えてきた。
ここら辺りでは珍しい
フワフワの白パンが有名なパン屋さん。
親友のターナが勤めるお店。
『フランツの白パン』。
朝早くから夕方の今の時間でも、
まだ明かりが灯り店先は明るい。
扉を開けると真鍮製のドアベルが
カランコロンと心地よく鳴り響き、
店の奥、商品を棚に並べていたターナ、
そして店主のフランツさんが振り向き
入って来たシエラを見た。
「こんばんは!」
明るいシエラの声にターナと
フランツさんは笑顔で迎える。
そして店の奥、窯の片付けに勤しむ
ケンが顔を見せた。
商品棚の上に置かれたレジ。
その横に並んだビスケットなど、
つまむ程度の気軽な菓子類のなか。
ひときわ異彩を放つ
ジンジャーブレッドマンがいた。
手(?)を振って
陽気なパントマイムで
シエラにアピールしている。
白いアイシングの襟に
マジパンの蝶ネクタイ、
ボタン代わりの三つのアラザン。
なかなかにオシャレな装いだった。

「こんばんは! どうだった?
ターナの働き具合は?」
愛想よく尋ねるシエラに
ジンジャーブレッドマンは
戯けてターナの働き具合を
真似してみせた。
「フフフ、そう。そうなの」
と笑みを浮かべるシエラ。
「全くもう! 失礼なんだから!」
真似された当のターナはややご立腹。
「ハハハ。
いやはや、もう彼は立派な
吾が店のマスコットになってるよ」
そしてフランツさんが
ターナに声をかける。
「ターナ。今日はもういいよ。
おつかれさま」
その気遣いに感謝して
帽子とエプロンを脱ぐターナ。
「おつかれさまでした」
「おつかれさまー!」
店の奥からケンの声が聞こえる。
「ありがとうございます。
フランツさん」
シエラはお礼を言って
ターナに声をかける。
「寄ってくんでしょ?
新年のお祝いにシャンパンを開けよう。
冷やしてあるよ」
「うん!」
そして連れ立って出ていこうと
ドアノブに手を掛けるシエラとターナ。
ジンジャーブレッドマンは
手を振り見送る。
そこへターナが急に振り向き
人差し指でジンジャーブレッドマンを
指差してひと言。
「ズキューン!!」
ジンジャーブレッドマンは
苦しそうに胸を押さえて
その場にへたり込んだ。
大笑いのフランツさんとシエラ。
ターナはカウボーイスタイルで
指先をフッと吹く。
「ジンジャー?
踊るんなら、誘ってね?」
とクールにキメて店を出ていった。
うずくまっていた
ジンジャーブレッドマンが
喜色満面で顔を上げると、
ケンがひと言。
「おーい。
仕事はまだあるよー」
肩すかしを喰らい、
恨めしげなジト目でケンを見る。
ハァ〜ァとため息(?)をついて、
仕事を続けるジンジャーブレッドマンだった。
<#3 The Empress>
つづく
Ella Fitzgerald, Louis Armstrong - Cheek To Cheek
次回 第十一章 辺境伯のお誘いとアルカ
