【短編 童話】第十三章『復活祭の飛梅』| 落ちこぼれ魔女ターナ
生まれ変わり宣言
今年は春分後の満月が
四月一日に巡ってきた為、
その次の日曜日が復活祭となる。
そして、その日は悪魔への
報告を兼ねた宴が行われる。
もっとも最近では、専ら悪魔の代わりに
担ぎ出されるのは黒山羊テュポーン。
悪魔に似ているからという理由だけで。
それはともかく、その復活祭の前日
ターナの家の窓を叩く音。
そこに一羽のコウノトリの宅配便。
「お届けものでーす!」
冬の名残りに吐く息はまだ白く濁る。
包みを開けてみると、そこにひとつ
枯れた木の枝があった。
「これは……?」
ターナも戸惑いを隠せない。
「日本の筑前国からでーす!」
「そう。ご苦労さま」
日本と言えば、
知り合いの心当たりは彼女しかいない。
筑前国、太宰府天満宮の御神木飛梅だった。
コウノトリが運んでくれたけど
日本からではふた月ほど掛かろう。
飛梅の花が綻ぶのは
一月頃の早くからと聞いていた。
でもわざわざ届けてくれたのかと
ターナは旧知のお友だちに感謝した。
残念なことに枝は見る影もなく
枯れて無残な姿をさらしている。
憐れに思ったターナは
庭に穴を掘ると、その枝を埋めて
御神木に祈った。
ありがとう、の感謝を込めて。
次の日、復活祭の日。
丸みをおびた月が欠け始めた頃に、
『大サバト』が行なわれるブロークラへ
親友シエラとともに魔法の絨毯で向かう。
テュポーンは祭壇に
大きな身体をしゃっちょこばって
鎮座させられていた。
長いモルガナの挨拶。
朗々と語るモルガナ。
だが、宴に浮ついた魔女たちは
聞いちゃいない。
乾杯の音頭を今か今かと待ちわびている。
モルガナもその雰囲気を悟り、
まだ続けるつもりだった挨拶を
早々に切り上げた。
そして乾杯の音頭を皮切りに
復活祭の大サバトが始まった。
今の世は大サバトと言っても
要するに魔女の宴会である。
ターナは豪勢な料理に囲まれ愉悦に浸り、
葡萄酒や蜂蜜酒を浴びるように飲んだ。
シエラやテュポーンが心配するなか
しこたま飲んで酔った勢いに任せ
大きな声を出して宣言する。
「私は一流の魔女になる!!」
冷やかす廻りの魔女に目もくれず
モルガナを名指しでまた言い放つ。
「見てらっしゃい! モルガナ!!」
「酒ぐせ悪かったのね。この娘……」
「キャハハハ!」
勝ち誇ったように笑うターナ。
黙々と葡萄酒を飲んでいたモルガナは
ターナの酔いっぷりに若干、呆れつつも
独りで杯を傾ける自分と、
仲間に囲まれてはしゃぐターナとの落差を、
改めて思い知らされていた。
ターナはテーブルに突っ伏すと
酩酊したまま「ガー! ゴー!」と、
大きないびきで爆睡して
それ以降、声をかけても
うんともすんとも言わない。
そして一夜が明けて。
ターナはシエラに担がれ
明け方に自宅へと帰って来た。
シエラに甲斐甲斐しく世話されて
寝床に就いて、あとは
午後遅くまでぐっすりと眠った。
やがて目を覚ましたターナは
シャワーを浴びて、サッパリとして
遅い昼食兼おやつを食べた。
夕べの大サバトのことを
すっかり覚えてない。
「私は一流の魔女になる!!」
と云ってたよ、との書き置きが
テーブルの上にあった。
シエラからだった。
……。
酔ってモルガナに絡み、嫌がられ
帰りはシエラが送ってくれたのか。
日頃落ちこぼれの自覚あるターナは
二人に謝らなきゃと反省しきり。
閑話休題、
食後に紅茶を飲んで寛いでいると
誰かに呼ばれているような気配。
振り返って窓の外を見る。
庭の一角が眩い白い光を放っている。
「……あれは?」
昨日、御神木飛梅の枝を埋めた辺り。
あわてて駆け寄り土を掘り返す。
出てきた飛梅の枝が
橙色の斜陽のなかで
神々しい銀色に輝いている。
もう枯れたと思っていた白梅が
復活して綻ばせていた。
花びらはまだ冷たい春風に揺れていた。
感動して目を潤ませるターナ。
『東風吹かば にほひをこせよ 梅の花
主なしとて 春な忘れそ』
飛梅の誠意と友情に溢れる白梅の枝を
目の前に据えて合掌し、祈りを捧げた。
廻りに誰もいないのを確かめてそっと呟いた。
「……今度こそ、がんばろう……見守っててね」
一方、湖の魔女モルガナ。
自らの魔女としての誇りに
忸怩たる思いがあった。
魔力の強さは自他ともに認めるところ。
ただ、いつも孤高の翳りがつきまとう。
「なんとかしなくては」
三百年を生きた魔女は
ヴァルプルギスの夜に
おのれの誇りを賭ける
決意をかためた。
ターナは知らない。
酔った勢いで言ったターナの科白。
偉大なる、湖の魔女の二つ名を持つ魔女は
深く傷ついていた。
<#13 Death>
つづく
Secret Garden - Prayer
次回 第十四章 晴れの日 太陽に向かって
