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1on1とは、「訊く」を文化にすること #115

人は、一人で成せることに限界があります。
だからこそ、私たちは、目的を共有する人たちと組織をつくります。

その組織としての可能性を最大化させるために、インクルーシブな組織づくりに取り組んでいます。
インクルーシブ組織とは、多様な価値観や経験、能力を持つ一人ひとりが尊重され、組織の一員として意思決定や活動に参加し、それぞれの力を発揮できる状態を指します。

そのために取り組むのが、まず、組織の目的である経営理念の実装です。
次に組織全体で経営理念に対する貢献意欲を高める意味でも、現場と経営の価値観の共有が大切となります。
更に現場を機能させるには、互いに声を出し合えるコミュニケーション環境が必要となります。

■ 声を出す。声を聴く。声をカタチにする。

私たちは、社内のコミュニケーション環境を高めるために、スローガンを掲げています。

「声を出す。声を聴く(訊く)。声をカタチにする。」

私は、コミュニケーションの目的は、単に「情報を共有すること」ではないと考えています。
組織の声を、カタチにすること。
それこそが、コミュニケーションの大きな目的の一つです。

ただし、ここには一つ、大切な前提があります。
「社員の声なら、何でもカタチにすればいい」ということではありません。

組織には、目的があります。
その目的を示すものが、私たちにとっては経営理念です。
だからこそ、社員一人ひとりの声を大切にしながらも、その声をカタチにするかどうかは、経営理念に照らして考えなければなりません。
理念に沿った声であれば、できる限りカタチにする。

一方で、組織の目的から逸脱する声については、残念ながら、そのままカタチにすることはできません。

だからこそ、「声を出す、声を聴く(訊く)、声をカタチにする」という循環が重要なのだと捉えています。

■ 1on1ミーティングを文化にする

このスローガンを実践する上で、まず、社員が声を出せる環境づくりが大切です。
しかし、それができたとしても、継続的に声を出せる環境には、「声を聴く(訊く)」仕組みが必要だと考えています。

そして、その実践の場として、1on1ミーティングを定着させたいと考えています。
1on1ミーティングとは、一般的には上司と部下が一対一で定期的に対話する場です。

その起源については諸説ありますが、シリコンバレーの企業文化の中で広がり、GoogleやIntelなどの企業でも取り入れられてきたとされています。

背景には、優秀な人材を確保し、定着させるための人材マネジメントという側面もありました。
日本企業では、2012年にヤフーが1on1を導入したことをきっかけに広く知られるようになり、その後、多くの企業に広がっていきました。

しかし、私は1on1を単なる人材マネジメントの手法として捉えていません。
1on1は、「訊く」を実践するための場です。

通常の上司と部下の縦のコミュニケーションでは、どうしても上司から部下への指示や確認が中心になりがちです。
それに対して1on1では、上司が一方的に話すのではなく、部下の話に耳を傾ける。

そして必要であれば、「何を考えているのか」、「何に困っているのか」、「本当はどうしたいのか」などを問いかけることで、表面的な言葉だけで判断せず、その背景まで理解しようとする。
それが「訊く」ということだと思っています。

■ 1on1を機能させる環境

私は、あえて「聴く」だけではなく、「訊く」と表現しています。
「聴く」は、相手の話に耳を傾けること。
一方、「訊く」には、自分から問いかけ、相手の思いや考えを理解しにいくという意味があります。

1on1において大切なのは、ただ黙って話を聞くことではありません。
相手のこと、考えていること、困っていることなどを知ろうとする姿勢を持って、問いかけることです。

だから私は、1on1を通常の面談とは違うものとして捉えています。
評価する場でも、指示する場でもありません。
ましてや、業務の進捗確認だけをする場でもありません。
相手の声を聴き、訊き、理解するための時間。
それが1on1だと思っています。

そのためには、部下が安心して話せる環境が欠かせません。
そして、上司には徹底して「聴く」姿勢が求められます。
部下から求められない限り、上司から答えを与えない。
求められない限り、アドバイスもしない。
まずは、相手の話を聴く。
必要であれば、問いかける。
そして、相手が自分自身で考え、言葉にすることを支える。
それが1on1における上司の役割だと思います。

一方、部下は、遠慮や躊躇をする必要はありません。
職場の状況について、仕事について、自分自身について、自分の意見や理想についてを、できるだけ自由に話してもらうのが、1on1の出発点です。

ただし、ここで終わってはいけません。
話を聴いてもらったで終わってしまえば、1on1は単なるその場限りのヒアリングとなってしまいます。

大切なのは、その声をどうカタチにするかです。
制度を変える、仕事の進め方を変える、支援策を打ち出すなど様々です。
もちろん、すぐにはカタチにできないこともあります。
その場合には、「なぜ変えられないのか」を伝えることも、声をカタチにすることの一つだと思います。

重要なのは、「自分が話したことが、組織の中でちゃんと扱われた」という実感を持ってもらうことです。
声を出しても何も変わらない、何を言っても聞いてもらえないなどと感じる経験が積み重なれば、人はやがて声を出さなくなります。
逆に、声を出すことで、聴いてもらえて、それがカタチになることを知れば、また声を出してくれるはずです。

そして、この循環が生まれれば、コミュニケーションは組織の力になっていきます。

■「現場を知る」ことと「組織を尊重する」こと

しかしながら、自省すべきことがあります。

私は、社内で経営理念を実装させ、その貢献意欲を高める意味でも、自分の目で、耳で、身体で、直に知ることこそ経営のあり方だと信じています。

その思いから、現場社員との1on1ミーティングを積極的に実施してきました。
しかし、そこで一つの問題が起きました。
当社は、ヒエラルキー型の組織です。
私と現場社員との間には、マネジャーがいます。
にもかかわらず、私が現場社員と直接1on1をすることで、組織コミュニケーションの空洞化を生んでしまいました。

現場社員は、本音を私に直接伝えるようになる。
一方で、中間のマネジャーはその情報の循環から外れていってしまったのです。

私としては、良かれと思って実施していた1on1でした。
しかし結果として、マネジャーの役割を弱めてしまったのです。
これは、私自身にとって大きな反省でした。

フラットな組織であれば、経営トップが現場と直接対話することは自然でしょう。
しかし、ヒエラルキー型の組織には、その組織構造があります。
その中で1on1を機能させるのであれば、基本はあくまで、「直属の上司と部下」なのだと思います。
その土台があってこそ、経営トップが現場の声を聴くことにも意味があるのだと学びました。

■ 1on1を「制度」ではなく「文化」に

実施する頻度を定めただけでは、1on1は文化にはなりません。

1on1の目的は、決して、社員満足度を上げることではないと考えています。
経営の観点では、本人が自分の仕事と成長について考え、自律的に行動できる状態をつくること。
そしてマネジメントの観点では、社員の自律性を高め、成果につなげるために、管理職自身が「どう人を動かすか」を考える場であると考えます。

大切なのは、1on1という制度を導入することではなく、「訊く」という行動を、組織の当たり前にすることです。

そして、「声を出していい」、「声を聴いてもらえる」、「声を訊いてもらえる」、「声がカタチになる」という経験を、一人ひとりが積み重ねていくことです。

1on1は、そのための一つの手段です。

目指しているのは、1on1を実施する組織ではありません。
一人ひとりが声を持ち、その声が尊重され、対話を通じて組織の意思決定や行動につながっていく組織。
私は、それこそがインクルーシブな組織の一つの姿なのだと思っています。

声を出す。声を聴く(訊く)。声をカタチにする。

これからも、この循環を、制度ではなく、文化として根づかせていきたいと思います。

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