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なぜ大企業の新規事業は進まなくなるのか――「それぞれの正解」を、目指す未来につなぎ直す

WEALTHY CONNECT代表の澤田隆幸です。

大企業の新規事業に関わっていると、不思議な状況に出会うことがあります。

技術はある。予算もある。優秀な人材もいる。
経営からの期待もある。
それなのに、事業がなかなか前に進まない。

最初は勢いよく始まったプロジェクトが、検討を重ねるほど会議や資料が増えいつの間にか、
「次に何を決めれば前に進むのか」
が分からなくなっていく。

特に、安全性や科学的根拠、専門家との連携など多くの論点が重なるヘルスケアの新規事業では、こうしたことが起こりやすいように感じています。

なぜなのでしょうか。

私はその理由のひとつは、大企業には「複数の正解」が存在するからだと考えています。


1.新規事業は、なぜ途中から動かなくなるのか

新規事業の初期には、比較的シンプルな問いがあります。

「この技術を使って何ができるだろう」
「この市場には可能性がありそうだ」
「このテーマで新しい事業をつくれないか」

まだ何も決まっていないからこそ、自由に可能性を語ることができます。しかし、事業化が進むにつれて、関わる人が増えていきます。

研究開発、事業開発、マーケティング、営業、品質、法務、経営。
ヘルスケアであれば、さらに医療従事者や研究者、医療機関、販売パートナーなど、社外の専門家も関わります。

そして、それぞれの立場から当然の問いが投げかけられます。

本当に効果があるのか?
安全性は担保できるのか?
市場や収益性はあるのか?
自社が取り組む意義は何か?
誰が買うのか?
どうやって届けるのか?

どれも必要な問いです。
新規事業を進める上での問題は、問いが多いことではありません。

それぞれの問いに、それぞれ異なる「正しさ」があることです。

研究開発には、科学的な妥当性を確認し、技術を磨くという正解の目指し方があります。
経営には、市場規模や成長性を見極め、自社が投資する意味や収益性を判断するという正解の目指し方があります。
品質や法務には守るべき基準があり、マーケティングには市場や顧客を理解する役割があり、営業には顧客へ価値を届ける役割があります。
それぞれが見ているものは、基本的に間違っていません。

むしろ、高い専門性を持つ人たちが、それぞれの責任を果たそうとするからこそ、大企業の事業は成り立っています。
特にヘルスケアでは、安全性や科学的根拠への慎重さは不可欠です。

だから、
「大企業は意思決定が遅い」
「もっとスピードを上げればいい」
というだけでは、問題の本質を捉えられません。

難しいのは、それぞれの正解を、何を基準にひとつの事業へ束ねるかなのです。


2.技術の正解と、事業の正解は同じではない

この問題が最初に表れやすいのが、技術と事業の関係です。
ヘルスケアの新規事業では、研究や技術を起点としてプロジェクトが始まることも少なくありません。

優れた素材がある。
新しい測定技術がある。
独自の研究成果がある。

当然、
「この技術をどう事業化するか」
を考えます。

しかし、
「この技術で何ができるか」
という問いと、
「誰の、どのような状態を、どう変えたいのか」
という問いは似ているようで違います。

技術起点のまま事業を考え続けると、「こんな機能がある」「この指標に作用する」「こうしたエビデンスがある」という説明は増えていきます。
しかし、それだけでは人々にとっての価値は明確になりません。

「なぜ今、ヘルスケアにブランディングが必要なのか」でも書いたように、技術が持つ専門的な価値と、人々が求める「より良い状態」の間には、しばしば距離があります。

事業化とは、技術を完成させることだけではなく、その距離を埋めていくことでもあります。

そこで多くの新規事業で行われるのが、顧客ヒアリングやPoCです。


3.PoCも社内議論も、「判断軸」がなければ終わらない

PoCや顧客ヒアリングは、新規事業に欠かせません。
実際に顧客へ話を聞き、試してもらい、反応を見る。机上で議論するより、はるかに多くのことが分かります。

しかし一方で、
「まずはヒアリングしましょう」
「もう少しサンプルを集めましょう」
「次は違う顧客でも検証しましょう」
と、検証そのものが目的になってしまうことがあります。

顧客の反応が良ければ、「まだサンプル数が少ない」
反応が悪ければ、「ターゲットが違ったのかもしれない」
どちらの場合でも、検証を続ける理由をつくることができます。

そして、顧客から得られる情報が増えるほど、それをどう事業へ反映するかという社内の議論も増えていきます。
市場規模、競合、ポジショニング、ビジネスモデル、KPI。
どれも必要です。

しかし、判断するための情報は増えているのに、何を基準に判断するのかが曖昧なままでは、事業は前に進みません。

この問題は、商品が形になり、実際に市場へ届けようとしたとき、さらに鮮明になります。


4.そして「営業」が最後にやってくる

こうした状態で商品やサービスがある程度形になると、次に始まるのが、

「では、どう販売するか」

という議論です。
ここで営業部門や販売パートナーが登場します。

そして実際に顧客へ提案しようとすると、それまで見えていなかった問題が一気に表面化します。

誰に話せばいいのか?
何と言えば興味を持ってもらえるのか?
既存の商品と何が違うと言えるのか?
そもそも、顧客はこの課題にお金を払いたいと思っているのか?

これらは「販売段階になったから発生した問題」ではありません。
本来は、事業をつくる最初の段階から考えておくべき問いです。

営業は、出来上がった商品を最後に売るためだけの機能ではありません。
市場と事業をつなぐ接点でもあります。だから、営業や顧客との接点は、より早い段階から新規事業の中に入れていく必要があります。

ただし、顧客の声に事業を合わせ続ければよいわけでもありません。

ここまでのプロセスで具体化された研究成果も、経営判断も、営業現場の反応も、顧客の声も、すべては目指す未来を具体化していくための材料です。

では、それらの「正解」を、何を基準につなぎ直せばいいのでしょうか。


5.必要なのは、「それぞれの正解」を目指す未来につなぎ直すこと

大企業の新規事業が進まなくなるのは、能力が足りないからではありません。
むしろ逆です。

高い専門性を持った人たちが集まり、それぞれの立場から正しく考えているからこそ、事業全体をひとつの方向へ動かすことが難しくなります。

必要なのは、どれかひとつの正解を選び、他を捨てることではありません。大切なのは、それらを束ねるもう一段上の軸を持つことです。

「その事業は、どのような社会を目指して取り組むものなのか」
「その社会を実現するために、誰にどのような価値を届けるのか」
「そのために、自社が持つどのような強みを活かし、どのような価値を新たにつくっていくのか」
「そして、その未来が実現したとき、自分たちは社会からどのような存在として認識されていたいのか」

こうした「目指す未来」と「自分たちのありたい姿」を定め、それを事業に関わる人たちの判断軸として共有していくこと、それこそが事業開発の軸となるべきと私たちは考えます。

ロゴや言葉をつくることが、ブランディングなのではありません。
研究、経営、商品開発、マーケティング、営業といった異なる専門性が、同じ未来へ向かうための軸をつくること。
それがブランディングに立脚した事業開発です。

その軸から顧客への価値を考え、実際に社会へ届ける。
そこで起きた反応を、再び技術や事業へ還していく。
そしてまた、目指す未来に照らして次の判断をする。

新規事業とは、この循環をつくり続ける活動なのではないかと考えています。


新規事業を、専門性がつながる場所へ

大企業には多くの技術があります。
多くの専門家がいます。
長年積み上げてきた信頼や、顧客との関係もあります。
それらは新規事業にとって大きな可能性です。

新規事業が進まなくなるのは、「正解がない」からではありません。

たくさんの正解を、目指す未来へつなぎ直すことが難しいからです。

その未来が共有されたとき、研究も、事業開発も、マーケティングも、営業も、それぞれの専門性を失うことなく、同じ方向へ力を発揮できる。
顧客も含めてそれぞれの知識や経験が、目指す未来を実現するためにつながっていく。

そのつながりが生まれたとき、大企業が持つ技術や専門性は、これまで以上に大きな力となって社会へ届いていくのではないでしょうか。

そのような未来を楽しみに、これからも新規事業に関わるさまざまな専門性をつなぎ、まだ社会に届いていない可能性を形にしていきたいと思います。


次回について

次回は、「営業を最後にすると失敗する理由」
について書いてみようと思います。

営業を、完成した商品を売るための「最後の工程」ではなく、
市場と事業をつなぎ、新規事業そのものをつくる活動として考えてみたいと思います。

新規事業やヘルスケア事業開発に関する考え方を、今後も少しずつ書いていきます。
ご興味があれば、次回も覗いていただけたら嬉しいです。


WEALTHY CONNECT(ウェルシーコネクト)について
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https://wealthyconnect.jp

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