薬が届く“当たり前”はどう作られているのか ― 医薬品卸の仕事

こんにちは。薬学部職員のやくグリーンです。
前回の病院薬剤師の記事に続き、今回は卸の仕事を深堀りしてみようと思います。

うすうす感じてはおりましたが、いろいろ調べてみて卸の仕事の大変さと必要不可欠さについて理解が深まり、尊敬と感謝の気持ちになりました。

メインは薬学生に説明するつもりで書いていますが、もしかしたら現役薬剤師さんにとっても普段とは違う見え方があるかも、ということでよければ最後まで読んでください!

※一応、わたしなりのリサーチを元にした内容ですが、(元半導体営業の)わたしの主観や想像も入っていることをお含みおきのうえ読んでもらえると有難いです。


1.卸の基本機能


とても単純化してしまうと、

・製薬メーカーから医薬品を仕入れて
・医療機関・薬局に届ける

ということですが、
もう一段深く捉えるなら

・メーカーから医療機関・薬局へのサプライチェーンを担う
(全国の細かい供給網、医薬品特有の品質管理・トレーサビリティ・保管ノウハウ)
・在庫を持つことで需給のズレを吸収する(緩衝材)
・需要と供給に関する情報を、医療機関・薬局、製薬メーカー双方に届ける

って感じですよね。
これらの役割を次から詳しくみていきます。


2.モノの流れ


当然、

製薬メーカー → 卸 → 医療機関・薬局

という流れで医薬品が供給されるわけですが、需給の緩衝材の役割を果たすために卸は在庫を持たなければなりません。
その在庫運用がざっくり以下の通りです。

・絶対切らせない緊急度の高い薬(基幹薬)
  在庫:厚め(数週間〜1か月以上持つことも)
  理由:切らしたら信用が飛ぶ

・そこそこ動く薬(よく出るが代替えがある)
  在庫:数日〜1〜2週間
  理由:リスクを見極めつつ回転在庫保有

・ほぼ出ない薬(希少疾患の薬、特殊な薬)
  在庫:基本持たない(受注をもらってから発注をかける)
  理由:期限切れリスクが重い

(補足)
比較として例えば半導体であれば使用期限の管理は割と柔軟(メーカー保証期限は一応あるけど、顧客の判断で期限切れを使うこともままある)のに対し、医薬品はまさに命に係わるものなので期限管理が厳密であり、期限切れは即廃棄。
また、半導体は顧客との合意が更新されない限り価格は据え置きだけど、医薬品は年1回(またはそれ以上?)の頻度で薬価改定という強制値下げイベント(無慈悲)がある。
ということで、経営上のリスクが重いので無尽蔵に在庫できるわけでもない。患者さんの命と健康を害するリスク、廃棄=経営上の損失リスク、両方を見極めながら在庫のバランスをとっている。

ちなみに、今回調べるまでわたしは知らなかったのですが、受注と発注の頻度は以下です。

・医療機関・薬局からの受注/納品
 →週に数回~毎日(平時のリードタイム:当日or翌日)

・メーカーへの発注/入荷
 →毎日~週次(平時のリードタイム:1~3日)

半導体の場合は、種類にもよりますが、半年前くらいから需要予測の情報交換をしつつ3か月後の必要分を毎月末に発注、みたいなイメージ。医薬品のスピード感がかなり早くて驚きました。(まあ当然か。)

あと、薬剤師さんは普通に知っていることだと思いますが、
あるメーカーの製品は、卸A社も卸B社もCもDも扱っています。だから医療機関・薬局は、あるメーカーの製品を、複数の卸から買っています。(半導体は商流一本。)


3.アロケーション(=どこにどれだけ配分するかの調整)の仕組み


人の命に係わる医薬品において「アロケーション(配分)」なんて表現は良くないと思う(半導体でさえお客さんに対してうっかりこの言葉を使ってしまうとめちゃくちゃ怒られる)けど、医薬品の供給が不足している昨今において実際に配分はなされているし、なされざるを得ない。

原則としては命や健康面の緊急ニーズに応えられるよう考慮されて配分されているわけですが、実際どんな雰囲気なのか、以下にレイヤーごとに整理します。

1)製薬メーカーから複数の卸への配分
基本は全国でどれだけそのメーカー製品の販売に貢献しているか、つまり取引規模で概ね決まる。
その他の要素としては
・重点顧客(大学病院、大規模病院、影響力のある医療機関)と太い関係があるか
・質の高い情報を持っているか(需要予測の精度・鮮度、他社品の需要動向など)
・販売姿勢(無理に病院・薬局に押し込んでないか、適正使用を守っているか。問題を起こすとメーカーが炎上する。)
・プロモーション貢献(MR→医師の提案活動支援、他社品や自社旧製品から自社新製品への切り替え貢献など)
・長年の関係性、信頼、トラブル対応実績など

2)卸(本部)から卸(営業所)への配分
エリア内の需要の規模(病院・薬局や患者の数)や重点顧客の存在などを考慮しながら、基本は本部がルールに沿って配分。

3)営業所内の担当者(営業マン)別の配分
基本は担当している取引規模などに応じてルールに沿って配分。先輩後輩間の「貸し借り」などもあり?(半導体あるある)

4)営業マンの裁量の中での顧客別配分
・医療的な緊急案件はもちろん優先。
・取引規模、シェア
・日頃の関係(いろんなメーカー・卸の需要動向情報交換ができるとか、古い在庫引き取ってくれるとか、卸にとっては嬉しい。)
・というか基本モノがあるなら全顧客の要望に応じて毎日都度都度対応。

半導体はそこまで小回り利かないというか、たとえ物理的にできてもそこまで引き受けない。これは外から見えている以上に大変と思われ、敬意が湧いてきます。


4.価格決定の仕組み


1)メーカーと卸の間での取引価格

・あるメーカーの一つの製品で、卸A社と卸B社とで実質単価に違いがある(販売量の違い、取引先に大口顧客があるかどうかの違い、など)
・一つの製品において、卸A社の購入価格はどの向け先においても同じ価格。(X病院向けでもY薬局向けでもメーカーからは同じ単価で仕入れ。※半導体は向け先別に仕入れ値が違う、つまりメーカーも向け先顧客ごとの販売単価を知っている。)

2)卸と医療機関の間での取引価格
・大病院とか大手チェーンのような取引規模の大きな顧客ほど安くなる(まあ当然といえば当然)。
規模以外の要素としては
・その卸A社から買うシェアが高いかどうか。卸A社としては他の顧客より高いシェアで自社と取引してくれる顧客に対して安く値付けしやすい。
・取引の手間のかからない顧客ほど安く値付けしやすい。(まとめ発注・まとめ納品で少頻度に協力してくれるとか、返品することも少ないとか、緊急対応が少ないとか)
・長年の取引実績、良好な関係、需要などについて耳寄りな情報をくれる、卸のお願いも可能な範囲で聞いてくれるなどの顧客は、そうでない場合より安く値付けされる可能性が高くなる。

とは言え、医薬品は半導体と異なり自由価格ではないうえに、公定価格と実勢価格の差も年々狭まっており、医療機関や薬局にとっての仕入れ値は差がつきにくくなっている。

そしてそれは、卸にとっての利幅が狭まっているということでもある。
いろいろなリスクを負って手間もかけて医薬品の流通を守ってくれる存在が、ビジネスとして正当な対価を得られる世の中であり続けてほしい。(医薬品流通はインフラかビジネスかどっちなんだい問題。)


5.卸で働く薬剤師


1)管理薬剤師(営業所・物流拠点)

・医薬品の適正管理(温度・期限・保管)
・法令対応(薬機法、GMP/GDP的な観点)
・記録・監査対応

2)DI・学術(情報提供)
・薬の問い合わせ対応
・添付文書・安全性情報の解釈
・営業への知識支援

3)営業支援(専門性が必要な場面)
・薬剤部との面談に同行
・高度な質問対応
・新薬導入時の補足説明

4)安全管理・品質保証
・回収対応(リコール)
・品質情報の管理
・適正流通の維持
・トラブル発生時の原因確認と是正対応

実のところ、1)の管理薬剤師以外に「卸に薬剤師必要?」ってわたしは思ってしまった。
だって、病院や薬局の薬剤師さんなどが薬について何か確認したいことがあれば

・メーカーに直接問い合わせる
・自分でm3.comで調べちゃう

で事足りるんじゃね?と思う。
でも、そうもいかない場合があった。

・メーカーが答えられるのは自社品のことのみ。他社品への代替え可否など、卸であればメーカー横断的な回答ができる。

・m3でも薬そのものについての回答はできる。でも、その薬の入手性などの現場事情も踏まえた回答は卸の人間でないとできない。

それに、一番身近な存在として込み入った相談も一元的に受け止められる、ということが卸の付加価値にもなる。

でもしかし、そのくらいのことならベテランの気の利いた営業マンなら答えられるんじゃね?とも思った。(実際、半導体の仕事をしていた時のわたしは、バリバリの文系人間(文学部社会福祉学科卒)だけどそれなりに技術的な会話をお客とすることが求められていたし。)

しかし医薬品はそうはいかない。
ある程度のことまでは営業マンが現場感覚で答えられるものもあるかもしれないけど、この患者背景で代替えしていいか?とか、相互作用は?とか、エビデンスは?とかってなると、人の命に係わる責任として営業回答ではNGであり、薬剤師の本領発揮である。

要するに、卸で働く薬剤師の役割は、薬学の知識と、医薬品の流通の知識と、調整力をかけあわせて、営業とも連携しながら、患者や顧客の困りごとの解消を図ること、とわたしは理解しました。

また、営業マンが主に扱っているのがモノと金、薬剤師が主に扱っているのが情報。モノと情報の一致がなされていてはじめて安全が成立するという意味で、営業マンも薬剤師もどちらも卸にとって必要不可欠な職種だし密な連携をしているのだと理解しました。


6.おわりに


今回の記事は、いつものような薬学部職員モードではなく、完全な元半導体営業モードの記事になってしまった。
それはさておき、医薬品卸に関していろいろ調べて思ったのは、

・(めちゃくちゃ当たり前だけど)やっぱ医薬品の物流はヤマトや佐川や日本郵政とかとは全然違う、特有のサービスとリスク管理がある。
・特に一般生活者だと、普段気に留めないけど、かなりの重要度で社会を支えている。
・薬剤師の付加価値の活かし方として、こんな仕事もあるのか!

ということでした。

日常の当たり前を支えるって責任重大なのに見えにくい。卸さん、まじ感謝です。

今回も読んでくださりありがとうございました!

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