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【小説】蒼き肉球(第4話)




これまでのあらすじ

少年リンは、掌の中央が深い青に染まる珍しい肉球を持つ。王のバカ息子による「肉球狩り」で目をつけられるが、なぜか解放され、その夜城に招かれる。昼間とは別人のような王子は「探していた」と告げ、ドスを見た。翌日、王子はバカを装いつつ、夜には正体を明かし、戦士ガイと謎の女スイと共にリンを連れて城を脱出しようとする。裏切り者ドスの襲撃を退けた際、リンの肉球が青く光るのを目にし、ドスは王子が彼を逃がそうとした理由を悟る。一行はいったん町に戻り、リンの母サチの家に三日間身を潜め、束の間の団らんを過ごした後、それぞれの過去を語り合い、再び町を出発した。

第4話 王の日誌


王は、毎夜欠かさず一冊の帳面に筆を執る。

 それは公にされることのない、ごく私的な業務日誌であった。その日にあった出来事、生じた問題、そしてそれをいかにして解決すべきかを、誰に相談するでもなく、ただ自らの手で書き記す。文字は常に簡潔で、無駄がなく、一日あたりおよそ四百字にも満たない。だが、その短い記述の裏には、王がその日一日、何を見て、何を疑い、何を判じたかが、余すところなく刻み込まれていた。

 以下は、その日誌の抜粋である。

【球月十二日】

 バカ息子が肉球狩りを始めた。愚かな遊びのようにしか見えぬが、放っておく。あれが好き放題に動くことで、余の目の届かぬ隅々にまで手が伸びる。それでよい。願わくば、あの「探し物」がその網に引っかかってくれれば重畳である。近衛の装備、東門の二名にわずかな緩みあり。靴紐が片方だけ結び直された跡。夜勤明けを疑うべし。夕餉の魚、塩が強すぎる。厨房に一言。

【球月十三日】

 町で一人の子どもを差し出し、また放免にしたとの報あり。詳細の報告はまだ上がってこない。何を見て、何ゆえ放したのか、あれ自身の口から聞かねば分からぬ。城壁から見える海の色が、昨日よりわずかに沈んでいる。潮目が変わったか。近衛長の礼が、心なしか浅い。何か隠しておるな。夜、あの「探し物」の件、いまだ手がかりなし。焦らず待つ。

【球月十四日】

 バカ息子の姿が見えぬ。供の二名も同様。近衛の詰所に問うたが、誰も明確に答えられぬ。城内の空気に、わずかな乱れあり。表向きは何も変わらぬように取り繕われているが、余の目は誤魔化せぬ。近衛副隊長ドスの姿もまた見えぬ。両者が同時に消えたことに、意味がないはずはない。だが騒がぬ。騒げば、隠れているものはますます深く潜る。

【球月十五日】

 バカ息子、いまだ戻らず。ドスもまた同様。報告はいまだ上がらぬ。あれがバカのふりをしておることは、余は薄々気づいておる。だが確証はない。あれの母は、若い頃より腹の内を見せぬ質であった。血は争えぬということか。しかし、もしあれが真に何かを企てておるならば――余の前に姿を見せぬまま、事を進めることなど許さぬ。厨房、魚の塩加減、改善見られた。良し。


そうして、五日目の朝のことである。

 謁見の間に、近衛副隊長ドスが姿を現した。額には玉のような汗が浮かび、膝は震えていた。王の前に進み出ると、ドスは深々と頭を垂れ、床にこすりつけんばかりの姿勢で言葉を絞り出した。

「王よ、申し上げます。王子殿下が、行方知れずとなっております……! 私の落ち度にございます、どうかお許しを……!」

 ドスは、額に汗をにじませながら、これまでの経緯を訥々と語った。王子が夜な夜な城を抜け出していたらしいこと、それに気づきながらも、対応が遅れたこと。すべては自らの怠慢であると、幾度も詫びを重ねた。だが、その口から、王子暗殺を企てたことも、リンという少年の青い肉球のことも、語られることは一切なかった。

 王は玉座から、その様子を一言も発さぬまま、ただじっと見下ろしていた。ドスの言葉が途切れると、ようやく口を開いた。

「――ドス。汝の落ち度、軽くはない。しかるべき罰を与える」

 その声には、いかなる感情も滲んでいなかった。王はドスに、しばらくの謹慎と、俸禄の一部召し上げを言い渡した。位を落とすことはしなかった。ドスは何度も礼を述べながら、逃げるように謁見の間を後にした。

 その後ろ姿を見送りながら、王の胸の内には、ごくわずかな――しかし拭いきれぬ違和感が残っていた。

 王子とドスが、時を同じくして姿を消してから、すでに幾日も経っている。にもかかわらず、この報告が上がってきたのは、たった今なのだ。もしドスが本当に王子の失踪に狼狽していたのなら、もっと早くに報告があってしかるべきではないか。この間、いったい何をしていたのか。

 王はそれを、口にはしなかった。表情ひとつ変えることなく、ただ静かに、傍らに控える腹心の一人を呼び寄せた。

「ドスを、しばらく見ておけ」

 短くそれだけを命じると、王はなぜそうするのかを説明しなかった。腹心もまた、あえて理由を尋ねようとはせず、ただ深く頭を垂れて、その場を辞した。

 その夜、王はまた一人、帳面に向かい、筆を執った。

【球月十六日】

 ドス、遅れて王子失踪の報告に来る。詫びを重ねるのみで、要領を得ず。時期に、わずかな不審あり。詳細は追って調べさせる。バカ息子、まだ姿を見せぬ。あれが何を企てておるにせよ――余の目の届かぬところで、事が動き始めておる。

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