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最初の国産RPGは「キャンパスライフ」だったのか?後編(妄想編)

前回は後半脱線しすぎました。今回はあくまでも「キャンパスライフ」がTRPGだったかどうかの検証に撤します。「マクロスライフ」がTRPGじゃないのなら、キャンパスライフも違うんじゃね?と言わず、もう少しお付き合いください。


「キャンパスライフ」とは何か

本邦初の「ロールプレイ」の概念を持つゲーム

タクテクス誌の1号から3号まででは、巻末のお知らせやQ&A、サークル紹介などをまとめた「クリークシュピール通り」というコーナーを設けていた。その2号(1982年3月号:実質2月発売)で紹介されたのが、慶應HQの「キャンパスライフ」である。

ここには、コンポーネントとおぼしき写真とゲームの概要(文面上、慶應HQのメンバーの原稿をそのまま掲載していると思われる)が記載されていたが、ここには明確に「今、アメリカで流行している『ロールプレイ』の概念と『ビジネスゲーム』の方式を取り入れています」と書かれており、この「ロールプレイ」という言葉だけで言えば、同年のS-Fマガジン4月号の安田均氏のコラムを1か月先行している(内容的にはS-Fマガジンのほうが圧倒的に深いが)。

「スペースフォールド」に書かれたキャンパスライフ

何度も書くが、現状知ることが出来る「キャンパスライフ」の情報は非常に少ない。ネット上にごく少数ある情報も、下記のホビージャパン誌の抜粋でしかなくそれ以上の情報は発見できなかった。もう一つは、前回のマクロスライフの記事で紹介した、多摩豊氏のデザイナーズノートのみである。下記に、ニュアンスをくみ取るため引用する。

(前略)この「マクロスライフ」は、題を見ればわかる通り、あの幻の「キャンパス・ライフ」と発想を同じくするゲームです。(中略)さっそく、村樫先生に電話を入れたところ、快よく了解していただけたので、このゲームの発想をお貸しいただいた訳です。
ゲームシステムは、「キャンパス・ライフ」をさらに簡単にしたもので、プレイヤーの選択の幅はさらに少なくなりましたが、その分、プレイしやすいはずです。(後略)

1983年ツクダ「スペースフォールド」マニュアル15ページ(多摩豊)
太字はNote著者(私)によるもの

幻のゲーム

いくつか重要なコメントのみ検証する。「あの幻の」ということは、「キャンパスライフ」は当時(1983年末)既に名前だけが知られているものの入手困難なゲームだったと認識されていたということだろう。なお、名前が知られていたという認識は、タクテクスの記事を念頭においてのものだったと思われる。

そして繰り返し、「発想」を借用したと書かれている。これは、システムをそのまま流用したわけではなく、あくまでもその大まかな構造を援用したと考えるべきだろう。つまり、キャンパスライフとマクロスライフは同一のものではなかったということである。

さらに、プレイヤーの選択肢を少なくし簡単にしたと書かれている。逆に言えば、キャンパスライフには、プレイヤーが取れる選択肢がもっと多かったという事だろう。そしてもう一つ重要なことは、プレイヤーに全面的な自由度があるTRPG的なゲームではなかったことを間接的に示唆していると思われる。

「キャンパスライフ」のゲーム概要(妄想)

ホビージャパン タクテクス2号(1982年3月発刊)P.90
一部個人情報にモザイクを入れた

「キャンバスライフ」の構成要素

上記、マクロスライフデザイナーズノートと、タクテクス2号の記事から、「キャンパスライフの実像を再構築していきたいと思う。

まず、記事からキーワードを抜き出してみたい。

  • ガールフレンド、お金、クラブ、成績をバランスよくこなす

  • アルバイトと時間割を設定

  • 自動車事故、友人の訪問、親役満にフリコミ(麻雀で負ける)等のアクシデント

  • 試験、(クラブの)合宿、旅行、ゼミ、文化祭、就職等のイベント

  • 女性との付き合い

が、ゲームの構成要素として挙げられている。

お金と時間のリソース管理

ここから類推されるのは、ゲームシステムの根幹は、金と気力と時間のリソース管理である。これを用いて、ガールフレンドやクラブ活動、成績で勝利点を積み重ねていくシステムではなかったのだろうか?マクロスライフは、この中の、ガールフレンド部分のみを抜き出したものだと推察される

想定されるシステムは、プレイヤーは大学生なのでまずは履修登録を行う。そして空き時間にアルバイトを入れる。残り時間でナンパやデートだけでなく、クラブ活動や友人づきあいを行う。授業は(マクロスライフと同様に)サボることができるが、その場合成績に影響し試験に落ちるかも知れない。だが、お金が少なくなった時は、授業をサボってバイトのシフトを増やすなどを行うかジレンマが発生する。

イベントとアクシデント、女性との付き合い

マクロスライフにはイベントはほとんどなく、アクシデントはスクランブル発進ぐらいであったが、このゲームでは、上記に記載したような様々なイベントやアクシデントが発生したのだろう。おそらくは、イベントはある程度時期(ターン)が特定でき、お金や気力、成績を準備しておける(しなければならない)が、アクシデントはランダムに発生するシステムだったのだろう。

女性との付き合いは、詳しく書いてないがマクロスライフ的に、お金と時間を費やして女性を落としていく方式だったのだと思われる。これも合宿で恋人を奪われるようなイベントがあるようなので、より複雑だったのかも知れない。

「ビジネスゲーム」とは何か?

そして、本文には「ビジネスゲームの方式を取り入れています」と書かれている通り、プレイシステムはそれに準じたものだったと推察できる。

ここでいうビジネスゲームとは、70年代以前に米国で流行した、経営戦略の策定をトレーニングするものである。60年代以前は審判を、70年代以後はメインフレームコンピュータを用いるものだった。審判(又はコンピュータ)は、現在の経営状態の詳細な資料を提示する。プレイヤーはチームに分かれ(多くの場合CEOやCFOなどの役割を持ち)そのデータを分析し短中期的なアクションを策定して、審判に渡す。プレイヤーチーム全員のデータが集まったら、審判がそれを分析し結果をフィードバックする。これを繰り返して事業(又は収益)をどれだけ拡大できるかを争う。プレイ途中には、アクシデントとして為替変動や他国での戦争、原油価格の高騰等が提示されるが、それに対処しもしくは予測して、経営戦略を練らなければならない。こんなゲームである。

ChatGPT5.6にて作成

「ビジネスゲームの方式を取り入れた」とは?

当然ながら、ビジネスの研修で使うようなビジネスゲームをそのまま持ち込むことはできない。原文にもあるとおり「方式」を取り入れたという事は、自分のアクションプランを審判=ゲームマスターに申告し、全員のアクションを集めてから、フィードバックすることを繰り返すようなゲームシステムだったのかも知れない。そもそものビジネスゲームが、CEOやCFOに扮するロールプレイ的要素を強く持ったゲームだったのだから、親和性は高かっただろう。

「キャンパスライフ」はRPGだったのか?

米国での先行例はなかったのか?

日本のTRPGが、米国のそれからの翻案と模倣によって形成されたのは疑いのない事実である。そして、慶應HQは、当然D&D以外のTRPGに触れていたし、海外のプレイバイメールゲームすら情報を知っていた可能性がある。

1980年以前の、WikipediaとRPGeekをかなり詳細に検索したが、残念ながら、このような冒険要素を伴わない、生活だけをシミュレーションするようなTRPGは見つけられなかった。唯一存在したのはあの”Dallas”であり、戦闘や冒険を伴わないRPGという点で画期的だったのだが(そう考えると、 ”Dallas”って偉大だよね!)、システム上キャンパスライフとの類似点はどこにもなく、日本に上陸していた可能性が高いものの(日本語マニュアルのないパッケージの複数の目撃例がある)関連はないだろう

それ以外だと、日本への上陸が明らかで(高梨俊一「日本現代卓上遊戯史紀聞3」など)、戦闘よりも会話が主体であったGDWの”En Garde!”(1975年)は若干該当するかもしれない。このゲームはフェンシングの知識によって勝敗が決すると高梨氏が言っているとおり、ルールの大半は三銃士の世界の接近戦闘なのだが、社交クラブへの参加や、愛人との交際、賭博などを月単位に送る、キャンパスライフに見られたような生活のシミュレーションが既にルール化されていた。何らかの影響があったのかもしれないが想像の域を出ない。グレッグ・コスティキャンもプレイしていたという "Slobbovia" や "Elsinore" といった、外交PBMは戦闘よりも会話やコミュニケーションが重視されたが、これらはキャンパスライフとはほど遠く、やはり影響した可能性は低いと思われる。

結局、「キャンパスライフ」はRPGだったのか?

もし、米国での先行例があればそれを元に深堀できたのだが、先に述べた通りなかった。キャンパスライフは純粋なオリジナルであり、本文にも「今までのゲームとはほとんど違い」と書かれている通り、極めて独創的な作品であった。

だが、残念ながら現在でいうところの、TRPGではなかったと思われる。理由としては、マクロスライフでの結論と同じであるが、プレイヤー側が取れるアクションがルールでガチガチに縛られていただろうこと、イベントやアクシデントを含めて、ゲームマスターがシナリオを作成したりプレイの流れをコントロールするようなシステムではなかったと推察されるからである。

もちろんこれは推測に推測を重ねた結論ではあるが、現在ではこれ以上の深堀は困難であり、今後オークション等で実物が出てきたりしない限りは検証困難であることをご容赦頂きたい。

とはいえ、まだ日本ではロールプレイングゲームという言葉自体がほとんどない状態で、ここまでの域に到達していたことは高く評価されるべきだろう。「幻の」(=入手困難)であったがゆえ、フォロワーが「マクロスライフ」以外に現れなかったことが残念でならない。


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