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SPIを破綻させたRPG「ダラス」とは?


そもそも「ダラス」って何?

現在、テレビドラマ「ダラス」について知っている日本人がどれだけいるのだろうか?少なくとも私の知識では、アメリカで大ヒットし何十年にもわたって放映されたが、日本では全くヒットせず打ち切られたテレビドラマシリーズ、という認識に過ぎない。あらかじめ告白しておくと、ドラマ本編はこの記事を書くために調べはしたが、本編はほぼ見ていないことをご了承頂きたい。

物語は、テキサス州ダラス郊外に邸宅を構える大富豪ユーイング家と、過去ユーイング(父)に騙されたバーンズ家を軸に描かれる愛憎劇(メロドラマ)である。当初は対立する両家の子供同士が恋愛したことによる騒動が、その後はユーイング家の長男であるJ.R.(パッケージ中央のカウボーイハットを被った男)の奔放な私生活と裏切り、狡猾なビジネスを中心に物語が進む。J.R.は登場人物ほぼ全てから恨まれており、第三シーズンの終わりに狙撃されるが(辛うじて助かる)、この犯人を隠すクリフハンガーにより視聴率は頂点に達した。SPIのこのTRPGは、その人気絶頂期に発売されたため、大いに期待されたのだが…

ロールプレイイングゲーム「ダラス」

キャラクター設定

このゲームはTRPGであるからキャラクター生成から始めないければいけない。このゲームでは、先のユーイングJ.R.含めて9人の主要キャラクターから選ぶことが出来るし、別のキャラクターを設定することも出来る(ただしキャラメイクのルールはない。一応ステータスを決めるための指針のようなものは書かれているが、全て自分で背景設定含め創作しなければならない)。

各キャラクターは、パワー、説得、強制、誘惑、調査、幸運の6つのパラメーターと特殊能力(例えばJ.R.の母親はJ.R.からの「誘惑」を無効に出来るなど)を持つ。パワーは、このゲームにおける活動ポイントであり、幸運は対抗ダイスロール値である。

プレイの流れ

ゲームはディレクターと呼ばれるゲームマスターによって進められる。ディレクターはシナリオに沿って、まずはシーンと呼ばれる舞台設定(ユーイング家のサロンなど)を指し示す。ここにはプレイヤー以外に、NPCとなるサブキャラクター、またはキャラクターと同様のステータスを持つ「オーガニゼーション」(例えば新しい「石油採掘権」など)が配置される。各プレイヤーはそれらを「コントロール」するように行動する。

例えば、J.R.が対立する弁護士NPCを「コントロール」するために「説得」のダイスロールを行い、成功したら弁護士の幸運値で対抗ダイスロールする。それに失敗すればその後弁護士NPCはJ.R.の味方になる。こういうプレイを繰り返していき、ディレクターが決めた時間制限に達するまで続けて、次のシーンに進む。プレイヤーとディレクターは、これらの無機質な行為に対して話を肉付けしストーリーテリングしなければならない。

【J.R.】弁護士君、そういえば君は最近、ダウンタウンでよく女性と会っているそうだね?
【GM】脅しですか?弁護士はそんな手には乗りませんよ(弁護士NPCの「強制」防御力が高く勝ち目がない)。
【J.R.】脅しじゃなく、説得だよ。そうだ、僕の秘書が、こんな写真をもっていたんだがね(先に「コントロール」していた「弁護士と女性の浮気写真」を見せる)
【GM】ど、どうしてこれを…
【J.R.】まあ、僕はどっちでもいいんだけどね(説得のダイスロール、浮気写真による修正-2、成功)
【GM】し、しかし弁護士として依頼人を裏切ることは…(幸運値で対抗ダイスロール、失敗)
【J.R.】分かってくれて嬉しいよ。弁護士君!

このような感じでプレイを続けるそうである…
”Dallas”のキャラクター設定シート。同マニュアルより
中央のアビリティステータスは右が攻撃力、左が防御力

ゲームのシナリオ

このゲームでは、シナリオは「スクリプト」(脚本)と呼ばれる。パッケージに添付されているのは3本("The Great Claim"、"Sweet Oil"、"Down along the Coast")であり、それ以外にディレクター(GM)が作成することも出来る。ただし、添付のシナリオは主要キャラクター9名が全て登場するため、このゲームをプレイするには(GM含め)10名の参加が必須となる(一応ルールブックではプレイヤー1名が複数名を受け持って良いようなことが書かれているが、その段階で既にRPGとして破綻しているような…)。

勝利条件の設定されたTRPG

そしてこのTRPGで最も恐ろしいのが、各シナリオごとに「勝利条件」(Victory Condition)が設定されているということである。プレイヤー間は原則敵対関係であり勝敗が決定する。これは、ドラマを再現するための目標設定として必要なのかも知れないが、TRPGのプレイ感覚からすると相当の違和感がある。

さらに、GM(ディレクター)がシナリオ(スクリプト)を自作する場合はこの「勝利条件」を予め設定しなければならない(でなければシナリオの目的が明示できないからだ)。つまりGMは事前にテストプレイをしてバランス調整を行わなければならないということである(なんじゃそりゃ!!)。

なお、相手への”攻撃”(「コントロール」を目指す行為)には、「説得」「強制」「誘惑」「調査」の4種類しかない(なんと攻撃力と防御力が別々に設定されいる!)。相手を暴力で脅したり、実際に暴力をふるったりピストルで撃つなどの行動はルールで全く規定されていない(出来ないと解釈するのが妥当だろう)。J.R.を狙撃できないじゃん

本当にドラマのキャラになりきる必要があるTRPG

どうだろうか?これをロールプレイイングゲームといえるかどうかは、意見の分かれるところだと思う。但し、海外のリプレイなどを見ると、プレイヤー全員がこのドラマを理解し、登場人物の性格やバックボーンを知っており(一応ルールブックに概要は書かれている)、なり切ってプレイすればきちんとTRPGとして機能するようである。ただ、それを知らないプレイヤーが一人でもいたら、恐らくプレイは成立しない。そしてそのことが、このゲームの致命的な欠陥である。ドラマ「ダラス」を知らない人へこのゲームを薦めるのが極めて困難だからである。

ちなみにこのゲームのデザイナーは…まあ、そういうことです

「ダラス」は失敗作だったのか?

マーケティングリサーチの欠如

SPIのデザイナーだったレドモンド・サイモンセンは、このゲームを「8万セットを製造し殆ど売れ残った(7万9千個は余分だった)」と言っている。また、最初の小売店からの発注は多く気を良くして増刷したところ、店頭でほとんど売れず在庫の山を築いたともいう。

この事が意味するのは、ウォーゲームやTRPGユーザーと、ダラスというドラマの視聴者が全く被っておらず、お互いに興味を持つことはなかったということである。たとえ視聴率50%を超えるTVドラマであっても、ゲーマーの多くは残りの50%側におり、こんなドロドロしたソープオペラを見ることはなかった。逆にドラマ視聴者は、TRPGというゲームジャンルには全く興味を示さなかった。即ち、SPIが目論んだ「新たな市場の開拓」に全く貢献しなかったのである。

競合する多くのゲーム

また、もしこのゲームが、ダラスをテーマとした唯一のゲームであれば、ドラマファンの購買意欲を喚起したかもしれないが、実際はそうではない。BGGで確認できるだけでも、このドラマを主題としたボードゲームは、同時期に10作も発売されているのである。特に米国最大のおもちゃ会社であるマテル社の出したものは、今でもe-bayで頻繁に見ることから相当数が販売されたものと思われる。ダラスの製作元であるロリマープロダクションは、のべつまくなし版権をうりまくっていたのだろう(ウォーゲームも出版していたヤキント社もDALLASの小難しそうなボードゲームを出していた)。SPIだけが特別な存在ではなく、その中でも特異な存在だったTRPGは地味で複雑に見え、店頭でも手に取ってもらえなかったのが容易に想像できる。

Matel社が出版した”Dallas”ボードゲーム。電卓のようなデジタルデバイスが添付されており、
パッケージの地味なSPIのダラスと比較し明らかに購買意欲をそそる。

当時の批評と結果

ゲーム自体の批評も最悪だった。英国のゲーム雑誌では「このゲームを面白くプレイするためには人間の介入(=プレイヤーのキャラクターへの依存)が必要であるが、そうすると、このゲームのシステムは何の意味も持たない」と酷評しているし、フランスの雑誌では「勝利条件のあるこのゲームでは、すべてのプレイヤーはJ.R.のように悪辣にふるまう必要がある。それがどれだけ親切で正直なキャラクターであっても」とこれも酷評である。また、ゲームを過度に簡単に見せるために極限まで簡潔に書かれたルールブックは、RPGとは何かという概念すらつかめないものであったし、そのくせプレイを盛り上げるガジェット(たとえばユーイング家の見取り図や、キャラクター相関図など)は全く同梱されていないなど、バランスを欠くコンポーネントを指摘する評もあった。ソーシャルな対立をゲームにした革新性を褒めているものもあるにはあるが、現在まで評価は厳しいままである。

結果として、ダラスはSPIに利益をもたらさず、新たなユーザーを引き込むことも出来なかった。残ったのはベンチャーキャピタルへの借り入れのみであり、このあとSPIは、一気に財政破綻へと突き進むことになるのである。

「ダラス」は日本で出版された最初のTRPGなのか?

ホビージャパン「SPI総合カタログ」の謎

ホビージャパンが1981年に発行したSPIの総合カタログには、このゲームの発売が明記されている。もしホビージャパンが輸入し日本語マニュアル付きで発売していたのであれば、日本で最初に日本語で商業出版されたTRPGはこの「ダラス」だということになる。

1981年版と記載のあるホビージャパンSPI総合カタログの一部
「ダラスは、君の家族である」全然ゲーム内容理解してないよね!!

ところが、このゲームの国内リプレイやレビュー記事を見たことがないし、もし販売していたのであればヤフオクやメルカリで日本語マニュアル付きが売られていそうなものだが、それも全く発見できなかった(もしあったら教えていただきたい)

また、1982年5月に発売されたタクテクス誌3号には、高梨俊一氏による詳細なTRPGの紹介記事があり、ここでは当時の日本でも入手困難なマイナー作品まで紹介されているのだが、この「ダラス」についての言及は一言も見られない(もしホビージャパンが販売していたのであれば、無理やりにでもねじ込んだはずだ)。

作られなかった(?)日本語マニュアル

さらに、ホビージャパンは1982年末ごろよりSPIゲームの日本語マニュアルのみの別売を開始したが(恐らくは既にパッケージの入荷が見込めないための在庫処分だろう)そこにも「ダラス」の日本語マニュアルの記載が見られない。

ホビージャパン1983年1月刊「タクテクス 7号」P91

上記記事と、1981年のホビージャパン「SPI総合カタログ」を照合すると4作品に欠落が見られる。うち、”Fifth Corps”と”Hof Gap”は日本語マニュアルに著しい欠陥があった(とHJ社も認めている)ため、”Freedom in the Galaxy”はアバロンヒルでの再販が決定していたためで、”Dallas”のみが状況不明である。これは、日本語マニュアルそのものが製作されなかったことを意味していると思うのだが、どうだろうか?

これらから想像できるのは、恐らく日本では、「ダラス」は日本語マニュアル付きでは売られなかったのだろう。それは、日本での視聴率低迷による打ち切りのせいなのかの知れないし、ゲームの海外での酷評のせいなのかも知れない。又はホビージャパン自体も(1981年の段階で)TRPGについて理解していなかったからかも知れない。

もし販売されていたのであれば、これはツクダの「エンタープライズ」や「クラッシャージョウ」、バンダイの「スペースコプラ」を2年も遡る、日本で最初に商業的に翻訳出版されたTRPGとなってしまうが、同時に日本のTRPG史で最大の汚点になっていただろうな…

追記

別項に、本記事について補記すべき事項をまとめておりますので合わせてお読みください


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