ショートショート『ディストピア飯業界』
「ビタミンEは赤色のキューブに設定っと」
R230、G0、B47。
設定値を打ち込む。
葉酸が入ったら青緑に変えて、R0、G164……
これまでならサプリメントに過ぎなかったビタミンや葉酸は、今やメインディッシュになっている。
破滅だけは辛うじて免れたこの地球で、生き残った人間達は社会を立て直してきた。数々の会社が潰れては新しく生まれ、各社生き残りをかけて熾烈な争いを繰り広げていた。
そんなカオスの中、俺は職を転々とし、今はディストピア飯の製造ラインで雇われている。
この会社はキューブ食の製造メーカーだ。無数の商品を色で区別しているため、俺は毎日、その成分値やRGB値とにらめっこする日々を送っている。
亜鉛が49%なら群青色、ビオチンが87%なら瑠璃色、たんぱく質26%は……
「何やってんだ、新人!動物性で26%は紅梅色っつったろ!242、167、165!」
「ひゃいっ、すみません!」
「植物性たんぱく質なら26%がなでしこ色、35%でうす紅だぞ!55%なら茜色だ!」
かつては現場でトンカチを振り下ろしていたという隣の猛々しい先輩も、今では雅で優雅な色の名前を叫んでいる。ちなみに先輩の専門は桃色系の管理らしい。
ところで最近、幾千もの成分の組み合わせに対して、色を割り当てている関係で、そのレパートリーが底を尽きてきた。
苦し紛れのマイナーチェンジ色が多すぎて、覚えきれない。
「先輩、もうネタ切れしてますよ。なんで上は黄色系統を解放しないんですか?」
この間、ついに黄色が経営会議に掛けられたが、担当者はひどく叱責されたらしい。
「お前、そんなことも知らないのか」
先輩が神棚の方向を指さす。
「うちはな、昔、コンソメキューブを作る会社だったんだよ!その技術のおかげで生き残ったんだ!コンソメに敬意を表して、黄色は使えねぇ、覚えとけ!」
神棚には、黄金色のコンソメキューブが一個、仰々しく額縁に入れて飾られていた。
タイトル「我が社の始祖」
他にも、カロリーの友を作っていた会社は、言わずもがなそのノウハウでブロック食業界の覇権を握り、
赤・白・青の3食に分かれる歯磨き粉の会社は色鮮やかな食事がウケ、ペースト食業界を独占中、
うさちゃんとリスさんのラムネの会社は素朴でほっとするお口直しを売りにし、錠剤食業界を牛耳っていたのであった。
お読みいただきありがとうございます。
ショートショートに憧れていたので、書いてみました。皆さんはどのディストピア飯メーカーで働いてみたいですか??
次回、9/4(金)に投稿予定です。
【普段は百合小説メインで書いています】
