⑥【由井正雪×大塩平八郎】ー「将軍誘拐?大砲ぶっ放し?江戸の危ないふたり」
――ようこそ、黄泉トークラジオへ。
この番組は、時代も国も超えて、歴史に名を残した人物たちが“あの世”で繰り広げる、まさかのトーク番組です。
あの世に来て、やっと話せることもあるんです。
笑いとツッコミを交えながら、歴史の裏話をこっそりお届け。どうぞお聴きください。
さて、今夜のゲストは――
無謀にも徳川幕府転覆を企てた男、由井正雪。
そして、大坂のど真ん中で大砲ぶっ放し反乱を起こした元幕府の役人、大塩平八郎。
ともに江戸時代にあって幕府を震撼させたふたりが、今宵、黄泉の茶屋で初めて相まみえます。
果たしてどんなお話が出てくるでしょうか?
(対談者紹介メモ)
由井正雪:徳川3代将軍・家光の時代、江戸で人気を誇ったフリーの軍学者。大名や幕府からの誘いをことごとく断り、私塾で浪人や志ある者に学問を授けていた。しかしその正雪が企んだのは、まさかの幕府転覆計画――だが、あまりにも大胆すぎた構想は、直前でバレて自害へと追い込まれた。
大塩平八郎:徳川11代将軍・家斉の時代、大坂奉行所の与力でありながら陽明学者としても知られた男。1837年、天保の大飢饉で民が飢えに苦しむ一方、役人と豪商は賄賂と酒宴で肥え太る。その理不尽に堪えかねた平八郎は、自らの屋敷に火を放ち、大砲をぶっ放す。
第一幕 「将軍誘拐?大砲ぶっ放し?」
平八郎:はじめまして。大塩平八郎と申します。今日は由井正雪先生にお会いできるとあって、大変ワクワクしていましたよ。
正雪:こちらこそ、はじめまして。由井正雪です。君の噂は、あの世でもたいそう話題になったぞ。「大塩平八郎の乱」! 「乱」の名前に自身の名が入るなんてインパクトありすぎだ。他の「乱」を見てみなさい、「壬申の乱」「承久の乱」「応仁の乱」……みんな元号や干支ばかり。人の名がつけられた「乱」といえば「平将門の乱」以来の快挙だよ。
平八郎:……先生、それ褒めてます?なんかディスられてる気もしますが。
正雪:いやいや褒めてるよ。ワシなんか、決起直前で計画がバレてしまったからな。悔しくてたまらん。
平八郎:先生も何やら物騒な事を起こしたことで有名ですよね。歴史書には「慶安の変」あるいは「由井正雪の乱」とあります。……って先生も“乱”に名前残してるじゃないですか!私も書物で読みましたけど、いやーもう驚きの連続。まさかの幕府転覆計画!江戸城を焼き討ち、将軍を人質にとる。同時に京では天皇を誘拐して倒幕の勅命を出してもらう……。いや、この天皇誘拐って発想、これに私はぶっ飛びましたよ!
正雪:こちとら大いに真面目だ。バカモノ!やみくもに考えたわけではないぞ。三代将軍家光が亡くなり、まだ十歳の家綱が将軍を継いだーーこのチャンス、そう幕府の権威が最も揺らぐ好機を狙ったのだよ。

平八郎:なるほど、狙いどころは確かに絶妙です。十歳の将軍を誘拐というのは、百歩譲って、出来なくもない。もちろんそんなことしちゃダメなんですけど。一方で天皇を誘拐っていうのはどうするつもりだったんですかね。
正雪:ワシが京に上り、天皇に直に会う。心を込めて我らの志を訴えれば、必ずや気持ちは通じる――そう信じていた。しかも後光明天皇は反幕府寄りだという噂もあったからな。
平八郎:……なんだか、そのあたりザックリしてますね。
正雪:ザックリではない、“気持ち”だ! だが残念ながら、ワシらの気持ちが1つになれなかった。
平八郎:というのは、、、
正雪:仲間から密告者が出て、計画が幕府側に漏れてしまったのだよ。ワシが江戸から京に向かっている途中、ちょうど静岡あたりで幕府の役人にとっ捕まって、そこでワシは計画がバレたことがわかった。悔しすぎだよ。もはや自決しか道はなし。こうしてワシはこの世とおさらばしたってわけ。
平八郎:私も計画が仲間内から事前に漏れてしまった口なので、先生の悔しい気持ち、よく分かります。それは仲間を1つにまとめることができなかった悔しさですよね。
正雪:ホントそれ。マジで落ち込むやつだ。ここに来て初めて共感しあえる人間が現れてくれたことは嬉しいな。って、君の反乱もたいそうぶっ飛んでいたじゃないか。なんか大砲持ち出していなかったか?
平八郎:はい、私は、不正まみれのお奉行さまを大砲で吹っ放してやろうと計画をたてました。檄文まで作りましてですね、、

正雪:おいおい、大砲でぶっ放すとは……軍学者のワシですら聞いたことのない荒っぽい作戦じゃ。
平八郎:でも結局、門弟のひとりが奉行所に密告して計画は筒抜け。ならばと、私服を肥やす豪商家を標的に切り替えました。事を起こすにあたり、まずはのろし代わりに私の屋敷に火を放ち、事前に協力をお願いした町民たちに決起を知らせた。その後、大砲や火矢で三井家や鴻池家といった豪商家を襲う。「救民」という旗印のもと、300人ほどの勢力となりましたが、あっという間に奉行所側に鎮圧されてしまいました。
正雪:お前さん、バレてやけくそになったのか。これで大坂の町が焼けてしまったんだろう。
平八郎:決してやけくそになったわけではありません。反乱を起こすのと同時に、私は幕府役人の不正を調べ上げた建議書を書き上げ、江戸に送っています。老中様もこれを読めばきっと衝撃を受け、幕府の力でもって正してくれるものと信じて、、
正雪:だが、老中には届かなかった。
平八郎:残念ながら、そう。大坂奉行所が差し戻し命令を発して、最終的には押収されてしまいました。大坂奉行所の手回しの速さといったら、保身のためなら何でもやるのが当時の奉行所。反乱後、私は市内で潜伏していましたが、これもバレてしまい、最期は火薬を使って自決、こうして私もこの世とおさらばしました。
正雪:かぁーっ、最期まで壮絶じゃのう。
第二幕 「人を救うつもりが、街を燃やしちゃいました」
正雪:そもそもおぬしよ、どうしてそこまでしなければいけなかったんだい?
平八郎:当時は天保の大飢饉のさなか。米は不足するのに、それにつけ込み豪商らは米を買い占め、値を吊り上げる。賄賂を受け取り、それを見て見ぬ奉行所。さらには飢え死にする貧民を横目に、大坂町奉行は大坂に納品される米を新将軍・徳川家慶の就任儀式に廻送していたんですよ。これ江戸老中からの点数稼ぎのためだけに。挙げ句の果てに豪商と役人は腹を揺らして酒宴三昧。私は、もう我慢ができませんでした。
正雪:なるほど、それは腹立たしいし、見過ごせぬわな。おぬしが堪えきれず動いた気持ち、よく分かる。――実はワシの時代もな、似たように理不尽を見せつけられて我慢できなかったことが多かったのだ。関ヶ原の戦いや大坂の陣の勢いそのままに、徳川家は武の威力を背景に豊臣恩顧の大名らを言いがかり半分で転封や改易、すなわちお家取り潰しだ。君は、加藤清正や福島正則といった大名を知っているか?
平八郎:どちらも関ヶ原では東軍――家康側についた有力武将ですよね。
正雪:そうだ。だが熊本を治めていた加藤清正の嫡男・忠広は乱行を理由に改易、広島の福島正則は城を勝手に修理したという口実で改易。もはや「お前の髪型が気に食わん」レベルの言いがかりじゃ。どちらも元は豊臣恩顧の大名ゆえに目をつけられていた節はあった。三成を毛嫌いして関ヶ原では家康に味方した2人だったが、結局は外様の大藩として潰された。
平八郎:噂には聞いていたけど、石田三成って、本当に嫌われていたんですね……。
正雪:ははは(笑)。ワシはほんとは良い奴だと思っているぞ。ちょっと空気読めなかっただけで。まじめすぎるところが、もしかしたらお前さんと気が合うかもしれないな。まあ、それはともかく、こんな調子で徳川三代の間に改易・転封された大名家は80から100にものぼる。結果、江戸の町には浪人があふれた。仕事もなく、刀ばかり持った連中がゴロゴロとな。治安も悪くなるわ、そんな浪人たちは自ずと幕府に反感を抱き、ワシの下へと集まってきた。ワシも浪人たちが不憫でならなかった。彼らは決して悪くはない。
平八郎:先生はそんな浪人たちのヒーローだ。
正雪:本音を言うとだな、浪人達に慕われるのは正直重たかったよ。ぶっちゃけね。とはいえ、ワシだって幕府には不満を抱いていた。そこは彼ら浪人と同じだ。そしてどうやら家光将軍が亡くなりそうで、次期将軍がまだ11歳の子供だっていう話が聞こえてきた。あれ……、これ、もしかするとチャンスじゃね?事を起こすなら今じゃんって思ったのだよ。
平八郎:この世の中、チャンスだと思っても動かない人が大半。その点、実際に行動したのはさすが正雪先生ですね。私が門弟たちに教えていた陽明学に「知行合一」という言葉があります。すなわち、知ったなら行わねばならぬ。頭でわかっているだけでは駄目だと。
正雪:……なるほど、「知行合一」か。確かにワシらは行動した。だが思うに、あの時ワシらは気づかぬうちに“やりすぎスイッチ”を押してしまっていたんだろうな。――ところで君、そのスイッチはいったいどこにあるんだい?
平八郎:おそらく心の奥底でしょうね。しかも自分でも操作できない厄介な代物です。
正雪:ははっ……ワシら、ずいぶん面倒なスイッチを抱えて生きていたもんだな。
第三幕 「結局、俺たちやりすぎ仲間」
平八郎:こうして振り返ると……やっぱり私、やりすぎましたよね。だって民を救うつもりが、大坂の町を燃やしてしまったんですから。飢えに苦しむ人を守るはずが、その人たちを犠牲にしてしまった。これは言い訳できません。
正雪:ワシも同じじゃ。軍学者のくせに計画がずさんでな。幕府転覆どころか、密告ひとつであっさり潰えた。結局は修行不足、力不足よ。
平八郎:……なんだか、笑えませんね。
正雪:まったくだ。悲壮なのに、どこかドタバタ劇に見える。歴史に残るのは大抵そんなもんかもしれん。
平八郎:でも先生と話していて、少し救われましたよ。あの時の自分、決して孤独じゃなかったんだなって。私と同じように、時代を前にして動かずにいられなかった人が、確かにいたんだってことが、今日分かったからです。つまり正雪先生、あなたです。
正雪:フフ、まさかあの世で“やりすぎ仲間”に会えるとはな。
平八郎:たしかに(笑)。もし現世で出会ってたら……多分すぐに計画バレて一緒に討ち死にしてたでしょうけどね。
正雪:間違いない。
(ふたり、声を合わせて笑う)
今夜の黄泉トークラジオ、いかがでしたか。
正雪先生の幕府転覆計画は、まさに衝撃の連続でしたね。
史実では計画が露見して果たせませんでしたが、もし京の御所にたどり着いていたら……後光明天皇に会えるのか、そして御心を動かせるのか。
ここがきっと一番の見所になったはず。想像するだけでワクワクしませんか。
とにもかくにも平八郎さんに関しては、大坂の町のど真ん中に大砲を持ち出したあの行動が、まさにぶっ飛びでした。
幕府の不正や腐敗に対する憤りは、私たちの想像をはるかに超えていたのかもしれません。
その“引くに引けなかった気持ち”を思うと、その真っ直ぐさに心を動かされずにはいられませんでした……もちろん、やりすぎはいけませんね。
あなたは、このふたりのやりとりから、どんなことを感じましたか?
よろしければ、ぜひコメント欄で教えてください。
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それでは、次回の黄泉トークラジオも、どうぞお楽しみに。
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