《ベルアント・ユダラ》【21話】粉砕のダイアモンド[ユダラバギー|脳内探索アトラクション番外編]
「砂嵐も大丈夫そうだ。気候も最高だな。」
「ユダラ君、この辺じゃなかった?」
「大きなアガベを置いてるよ。あった、あそこほら。」
「ほんとだ。アガベ、ポツンと一人で寂しそうだね。」
「こいつを置いてから迷わなくなった。優秀な社員だよ。それに、これから立派なプロジェクトの拠点になるんだ。アガベも寂しくなくなるさ。」
ボナハートの空き地に、
サンドカーキのバギーが停まる。
風に押されたタンブルウィードが、
左の後輪にもたれかかる。
「バギー、もうちょっと馬力が欲しいな。」
「十分パワフルじゃない?そんなにエンジン音がしないのに十分な推進力を感じたけど。」
「ここでは、大丈夫だよ。でも、“惑星”では足りない。」
「そうか。バギーはデータを読み取って惑星に転送するから、スペックがそのまま反映されるんだったね。」
「デニス、転送の理論を復習しとかないとね。」
「ごめん。忙しかったから。」
「ははっ、冗談だよ。今日合流できて良かった。それよりも、諸々落ち着いたの?」
「もう落ち着いたよ。体調も少し崩していたし、任せっきりだったね。ユダラ君には悪い事をした。バンナムにも行きたかったよ。」
研究所での様々な出来事は、
デニスにとって大きな負担になっていた。
度重なる睡眠不足とストレスによって、
以前よりも頬を削ぎ落としていた。
久しぶりに姿を見たベルアントは、
デニスの肩を叩いていつも通り笑顔になる。
「気にしないで。このプロジェクトに必要な事は、君が最初に揃えたんだ。今は形になるのを見守ってくれてれば、それでいい。デニス、そろそろ来るぞ。約束の時間だ。」
ベルアントは西側を指差した。
長い一本道のその向こう、
風に舞う砂埃が遮っていた先に、
何かが薄っすらと見える。
装甲車のような無骨な鉄の塊が、
空に向かって灰色の煤を出している。
徐々に輪郭を顕にしていく。
デニスはそれを見て指を差した。
「なに?!あれ!!見た事がないのが来る!!」
ベルアントは笑っていた。
「登場がカッコよすぎるよ。ははっ。あんなモノが道を走っていたら、誰だって大声を出す。」
次第に姿をはっきりさせていく。
それは先頭を走る1台。
その後ろに2台いることが確認された。
「ユダラ君!!モグラだ!!」
デニスはまるで子どものように飛び跳ねた。
装甲車に見えたそれはまるで違った。
想像を遥かに超える大きさのドリルを、
車体上部に担いで砂埃を巻き上げて突き進んでくる。
錆色の車体に似つかわない磨かれたドリルと、
地盤に合わせて履き替えられる黒々としたキャタピラを備えたそれは、彼らの心を踊らせた。
「デニス。これが、バンナムの穴掘り屋だよ。」
道の真ん中に飛び出したベルアントは、
大きく両手を振ってその重機に姿を確認させる。
速度をゆっくりと落としながら、
丸いウインカーライトを点滅させ、
大きなモグラが次々とアガベの横に停車する。
唸るエンジン音と熱気が2人を圧倒する。
先頭の運転席の窓が、
錆びたレールに引っかかりながら乱暴に開けられた。
「お前らか!!ここに穴を掘ってくれって言う無謀な 若者は!!」
目尻に深い皺を作り、
大きく開けられたその口に、
歯は3本しか確認できない。
「あぁ!!そうだ!!ここに穴を掘ってくれ!!」
その窓から後ろの二台に合図をする。
連続するエンジンの音が、
大きな振動音と共に停止した。
「あっはっはっ!!客側でこれを見られるなんて最高だよっ。」
「なに?なんかあるの?」
デニスは踊り出しそうな胸を抑えた。
ベルアントは目線を二度、掘削機に向けて、
“見てて”と口を動かし、読唇を促す。
大型タングステンカーバイトのドリルの先端に、更に3つの小型ドリルが備わっている。刃先に散りばめられたダイヤモンドが太陽の光を乱反射させて輝いていた。
降りてきた小柄の男性は施工許可証を片手に持ち、
紳士を思わせる丁重な礼をしながら、
創業以来お決まりの“挨拶”を始めた。
「我々、“泥モグラ”こと、マッドモールコーポレーションが、どんな穴でも、ここに掘ってみせましょう。私は、代表のビリー・フローランスだ。」
_____________
【21】
粉砕のダイアモンド
______________
_____
「おじさん、ビリーおじさんって、昔どんな人だったの?」
「あいつは、元々学者だ。」
「え?!そうなの?初めて聞いた!!仕事がなかったからバンナムに来たって言ってたよ。」
「機械工学に関してはずば抜けた才能があったんだ。大学の時に専攻していた工学の授業で一緒になった。」
「ワイザーおじさんの若い頃が気になるよ。ははっ。」
「こんなに腹は出てなかった。スマートだったぞ。ビリーはその時から折れそうな手足をしていた。あんなに汚い格好はしてなかったがな。」
「どうしてビリーおじさんはバンナムに行ったんだろう。」
「あいつは嵌められたんだ。」
「どういう事??」
「大学院を出たあと、地質学の研究所で、重機の制作に関わっていた。あいつの作る重機は辺りの重機が不要になるほど合理的で安価だったんだ。それが、多くの敵を作ってしまった。」
「都合の悪くなった重機の会社に目の敵にされたってこと?」
「ああ。その上、地質学の研究所にも様々な利権というものが絡んでいてな。その均衡が崩れた。あいつは、衰退したバンナムに残った鉱石の発掘を命じられ、チームを引き連れて行ったっきり、そのまま帰らなくなった。」
「その時はまだ連絡を取れていたんでしょ??」
「あぁ。あいつは全て掘り尽くされたバンナムで、誰も掘れなかった深さまで掘ったんだ。そして、遂に鉱床に辿り着いた。」
「鉱床?」
「そうだ。ダイアモンドの鉱床だ。それも、莫大な量のダイアモンドがあったんだ。それを機にチームを解散。ビリー1人は帰らなかった。あいつは手に入れた金を持って逃げた。そして、鉱床の発見は表に出ていない。」
「それならなぜビリーおじさんは歯を治さないのかな。ボロボロの服だし。バンナムの外に出てもおかしくない。」
「ボナハートに来た時にビリーに聞くつもりだ。真相は闇の中のままだからな。」
「そうかぁ。なんにせよ、穴掘りが見れるなんて。最高だ。」
_____
背負っていたドリルが巨大なアームによって前方に降ろされる。それに合わせ、操縦席が後方にスライドし、最適な重心へと移動し、連結された。
「支柱を立てろ!その岩の横だ!」
最も小さな3台目の“ミニモグラ”の車体下部から、折りたたまれていた足が伸びていく。徐々に車体が後ろにスライドしながら持ち上げられ、ドリルが下向きになっていく。
「なんだこの強引な方法は。すごい迫力だ。」
ベルアントは目の前で重機が斜めになっていくのを見ながら手を叩いて笑っていた。
あっという間に車体はほぼ垂直になった。
「ジュニア!メガネの兄ちゃん!!離れとけ!」
ビリーの声に2人とも飛び跳ねながら後ろに下がった。
モーターが起動し、ドリルが回転を始める。
ギアが上げられる音がガコンと聞こえたかと思うと、
車体が地面に向けてスライドした。
細長い先端がボナハートの大地に突き刺さる。
「うわっ、ちゃんと進むんだ。ここ、ボナハートだぞ。凄い。」
砂埃を巻き上げ、ドリルの半分まで到達すると、ドリルは逆回転を始めた。車体が元の位置に戻り、足が畳まれる。手際よく2台目の“デカ鼻モグラ”が横に付ける。手のようなアームが伸び、側面に固定されていた支柱が持ち上げられる。縦にされたその4mの支柱の先端には小型ドリルが輝いていた。ミニモグラの開けた穴に支柱を突き刺す。支柱のドリルが遠隔操作で回転を始める。
アームが固定しながら半分刺した辺りで角度をつけ固定された。
「ジュニア!!ここだな!!ナイスマーキングだ!!」
ベルアントは高々と親指を上げた。
ミニモグラが黒いバツ印の前に止まると、再び足を伸ばし車体を持ち上げる。ドリルの回転音が鳴り響く。ガコンと音がして大きなバツ印に先端が突き刺さった。
「はははっ!ユダラ君!こんな光景、想定してなかったよ!」
ミニモグラが開けた仮穴を確認し、仕様書を広げたビリーがニッコリと笑った。防塵マスクとゴーグルを装着し、窓が乱暴に閉められる。
「始まるぞデニス。ボナハートに10mの穴が掘られる。誰も掘らなかった最強の地盤にビリーが穴を開ける。」
ビリーの乗った“泥モグラ”の土台が、油圧シャフトで持ち上げられる。本体の四方に取り付けられた無数のスパイクローラーにギアが入った。斜めになった土台の上で、巨大なドリルが回転を始める。唸るようなモーターと共に、先端のダイアモンドドリルが連動し回転を早めていく。ミニモグラの作業員が、支柱からワイヤーを引き出し、土台の後部に取り付けた。
支柱のスピーカーからビリーが話す。
「角度60。12mの掘削を行う。ボナハート。俺のドリルに勝てるか?かかってきやがれ。」
踏み込まれたアクセルと共にスパイクローラーが前方にドリルと操縦席を押し出す。
「本体は上に乗ってたあれなんだ!!ロケットみたいだ!ユダラ君、モグラロケット!!」
デニスは目を輝かせていた。
「行け!!おじさん!!やってやれ!!」
ベルアントは大きな声援を送る。
ドリルの先が仮穴を捉えた。
「穴掘り開始だ。」
アクセルと共にモグラが穴に突っ込む。
ゴゴッゴゴッコゴッと岩が砕けるような音が鳴り響いた。周囲の小石がその振動に一斉に小刻みに動き出す。ドリルが徐々にボナハートの地盤を割っていく。
「すごい!入っていく!!」
運転席が地中に潜っていく。
足元に地鳴りと振動が伝わってくる。
辺りに砂埃が舞い始めた。
車体が見えなくなる。
その時、運転が止まった。
「どうした?止まった。」
作業員が泥モグラの後部から耐熱特殊合金ワイヤーを引き出し、土台に取り付けた。
支柱からビリーの声がする。
「こっからが硬いな。最高じゃねぇかぁ。ボナハート。好きになったぜ。皆、離れとけ。絶対に覗きに来るんじゃねぇぞ。」
その声の後、
どこかで聞いた事のあるファンの音が聞こえてくる。
その音は次第に大きくなり、
その風で砂が徐々に吸い寄せられるように舞い始めた。
「もう少し、離れてください!!このマスクを付けて!」
作業員に言われマスクを付けると、2人は更に離れた。
「何が始まるの?なんの音これ??」
ベルアントは両手を上げて笑っていた。
「デニス、これはジェットエンジンの音だ。」
車内にいるビリーは両手を硬く組んでいた。
エンジン音が大きくなる中、祈りを捧げた。
「神よ、2人の青年に光を与えてくれ。彼らの未来に希望を与えてくれ。そして、ここに、大穴を開けさせろ。がははは!!」
操作パネルの右上に並ぶ無数のランプが次々に点灯していく。その下の一際大きなボタンのカバーを開けた。
拳を握りしめ、待った。
赤いボタンが点灯する。
「ボナハート、俺の勝ちだ。」
勢いよくボタンが殴られた。
次の瞬間、
大きな爆発音と共に後方のジェットエンジンに火がついた。爆発の勢いで土砂が天高く打ち上げられ、青白い火柱が吹き出す。
「うわ!!爆発した!!」
デニスは驚いて後ろに倒れた。
ベルアントは耳を塞いで笑っていた。
「おじさん、世界一かっこいいよ。」
防塵マスクを外し、酸素マスクに付け替える。
ビリーはレバーを全開に倒し、声を張り上げた。
「いくぞ!!泥モグラ!!叩き割れ!!!!!」
______
「これを全部持っていけ。」
「ビリーさん、このダイアモンドはあなたが掘り当てたものだ。俺達のものじゃない。」
「なぁに、俺はドリルと重機が作れるだけでいいんだ。お前らは全て売って家族を養ってやれ。一生金には困らんだろう。」
「ビリーさんはどうするんですか?チームは?」
「がはははっ。俺がいなくたって、いくらでも機械工学のわかる人間はいる。ビリーは突然いなくなったと帰って伝えろ。俺は疲れてしまったんだ。土に潜って、モグラのように生きるのがいい。元気でやれよ。みんな。幸せになるんだ。」
「そんな……ビリーさん!!」
「欲に溺れるなよ。豊かな研究を続けるんだ。」
______
「俺はこんなんじゃ負けねぇぞ!!ボナハート!!」
大きな衝撃と共に、岩盤が砕かれる音が鳴り響いた。
ゴゴゴッッ、ゴゴッ、と凄まじい衝撃音が続く。
遂に地盤が屈した。
ドリルがボナハートの厚い岩盤にめり込んでいく。
車内の温度計は42度を越えていた。
「8メートル!耐えろ、モグラ!!」
大きな振動にビリーは頭をぶつけながらレバーを前に推し続ける。空回っていたスパイクローラーが遂に地盤を確実に捉えた。
「9メートル!!」
「ビリーさん!!もう危険だ!!噴射を止めるんだ!!」
車内の温度計は45度に到達していた。
ジェットエンジンと岩盤に挟まれ、
運転席のフレームが大きく軋む。
汗が目に入り、顔を強く振った。
「10メートル!!あともう少しだ!!」
ジェットエンジンの噴射で、
地上には岩盤の破片が空高く吹き出し、
周囲を砂埃に包んでいた。
「いける!!11メートル!!」
ドリルの音が次第に変化していく。
研磨力が衰え、滑るような音がなり始めた。
16基あるスパイクローラーは、
既に8基が機能停止していた。
朦朧とする意識の中、
ビリーは吹き出す汗で滑りながらも、
レバーに力を込め続ける。
「ビリーさん!!もうやめるんだ!!危険すぎる!!」
支柱からの音声がノイズに埋もれ、
ビリーからの応答が聞こえなくなった。
「おじさん!!!!」
ベルアントは口を押さえ、
砂煙の中を構わず火を頼りにして走る。
「ユダラ君!!」
燃料を使い果たし、
ジェットエンジンから噴射が止まっていく。
掘削の地響きも止まり、
岩盤の焼けるような匂いが立ち込めた。
舞い上げられた砂が、
雨のようにパラパラと地を鳴らす。
支柱のスピーカーが音を立てた。
