書体見本帳は読みものだった? | 本と活字館「明朝体展」で、ある見本帳に注目する
● 書体見本ってわくわくしますね!
とつぜんですが、書体見本帳、お好きですか?
デジタルフォントが使われている現代では、各フォントメーカー、タイプファウンダリーの見本はウェブで確認できることがほとんどですが、先日、ずっしり重く厚いモリサワの最新見本帳をpage2026でいただいて、やっぱり紙をめくって見る見本帳はいいもんだななんて、あらためて思った筆者です。いろんなデザインの書体をパラパラとめくってながめるのが、なんとも楽しいですね。

※明朝体展とは関係ありません。
さて、そんな「書体見本(帳)」が、市谷の杜 本と活字館で2026年2月21日~5月31日まで開催されている「明朝体展」でもいくつか展示されています。
今回は、書体見本(帳)の文章に注目したいと思います。
● 書体見本の文章といえば、やっぱりこれ?
みなさんが「書体見本帳の文章」といわれて真っ先に思い浮かぶのは、やはりこれでしょうか。

「愛のあるユニークで豊かな書体」。書体、フォントに関心のあるかたなら、きっと一度は聞いたことのある有名な文章ですね。
この文章、よく見ていただくと、漢字、ひらがな、カタカナが混ざっていますね。しかも、ひらがなには書体デザインの特徴が出やすい「の」「あ」「か」「な」などが含まれ、「で」で濁音も入っています。
書体見本帳の文章は、書体デザインの特徴やその書体が醸し出す雰囲気を伝えるために、各社工夫してつくったり、選んだりしているのです。
(以前、わたしが『時代をひらく書体をつくる。』という本で書体見本用のオリジナル文をかんがえたときのお話はこちら)
●「明朝体展」では、この書体見本に注目!
さて、そんな書体見本帳ですが、実はとくに古い時代(昭和初期ぐらいまで?)の見本帳では、これが「読みもの」になっていることが多いんです。
たとえば「岩田明朝体」のところに展示されている書体見本。これは帳面ではなく、大きな1枚の紙に、各種活字書体の見本が入っています。
ちょっと読んでみましょう。

(本と活字館「明朝体展」より)
〈新聞雑誌書籍印刷に岩田母型 和・欧文母型活字 美しい新字体の原版豊富に設備しベントン彫刻機で日本一の良品 活字母型界の 最高水準の製品を 需要家各位に供給〉……
岩田母型製造所は戦後、ベントン彫刻機を導入してから、母型・活字販売のシェアを急拡大した会社です。自社のベントン彫刻機による母型と、その母型で鋳造される活字の品質をたいへん自信たっぷりに誇っています。むかしの広告は、この自信満々で堂々とした文句がよいですね。
おなじ書体見本の下のほうを見てみると、

(本と活字館「明朝体展」より)
今度は〈岩田母型製造所のパンチ母型は発売以来爆発的人気となりました。茲々数年母型業界の、寵児であったベントンに代り、新に(パンチ母型)が母型界の焦点となる時代となったわけでありますが、……〉と、上の段で自慢しているベントン母型よりも「パンチ母型」を激推ししている文章で見本が組まれています。これを読むと、パンチ母型の特徴や魅力、ベントン母型(彫刻母型)との違いがよくわかるので、会場でぜひ読んでみてください。
ちなみに、これは展示品ではありませんが、

※「明朝体展」には展示されていません。
パンチ母型というのは、こういう父型(文字が凸になった型)をつくり、これを母型材に強い力で打ち込んで(岩田では機械を使いました)、母型をつくる方法です。父型をつくるのが大変でしたが、ひとたび父型ができれば、機械とはいえ1本1本母型を彫らなくてはならないベントン母型(彫刻母型)に比べると製造は効率的で、価格もベントン母型より安価でした(一番安いのは種字からつくる電胎母型でした)。
岩田母型がパンチ母型を発売したのは1957年(壁に展示された明朝体年表に項目があるので、探してみてください!)。この書体見本は1960年のものなので、当時パンチ母型がイチオシだったことがうかがわれますね。
ちなみに、「築地体」のところには、手にとって開いてもよい複製見本帳『活字と機械』が置かれています。これもところどころ文章になっているので、よく読んでみるとおもしろいですよ。

● 明朝体展 開催概要
「明朝体展」
会期:2026年02月21日(土)~2026年05月31日(日)
監修:岡田一祐(慶應義塾大学)
編集協力:雪朱里
展示デザイン:中沢仁美、大重頼士(シービーケー)
グラフィック:大日本タイポ組合
市谷の杜 本と活字館
162-8001 東京都新宿区市谷加賀町1-1-1
開館時間:10:00~18:00
休館:月曜・火曜(祝日の場合は開館)、年末年始
入場無料
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