火曜日のナッポみ/完結編
火曜日のナッポみ ― 中編
火曜日の午後。
カルナッポさんは、いつものように部屋の真ん中で横たわり、チイボコを膝に乗せていた。
チイボコ「ミャボ……ンボ……」
カルナッポ「御意……」
動かない。
いや、動きたくない。火曜日は“火”の字が怖い。燃える。爆ぜる。
故に──しばらくしばらく、床と一体化しているのが最善とされている。
だが今日は違った。
喉の奥がカラカラに渇いたのだ。
カルナッポ「……乾く。故に……水」
チイボコ「ンボ?」
カルナッポ「乾いたことを言うでなかれ……」
いつものスイッチが入った。(カツナッポ化または活ナッポ)
立ち上がるや、ズボンの隙間からチイボコがモロリと顔を出す。
カルナッポさんは、壁際に立てかけたゴルフクラブをつかむ。
カルナッポ「精神集中部屋ゴルフ……」
フルスイング。
チイボコ「ミャボボボ!!」ぶらーん!!
振るたびにチイボコが遠心力でブン回され、奇妙な、しかしどこか調律された音色を奏でる。
スキャップル!
スキャップル!
チイボコ「ミャッ、ボボボ!!」
カルナッポ「……水。故に。椎茸」
台所に向かったカルナッポさんは、いつもの椎茸袋を取り出す。
カルナッポ「きびしいたけ…カリフラワーはブロッコリーに嫉妬してる……」
すると背後から、ゆるりと足音がした。
セレーノ女史「カルナッポさん、今日はどのくらい“炒めつけて”やりましょうか?」
青いドレスがひらり。丸メガネが反射して光る。
なぜか背中の亀甲は外して床に転がされている。
カルナッポ「……サングラス。炒める」
セレーノ女史「御意」
なぜサングラスなのかは誰にもわからない。
しかしカルナッポさんは火曜日だけ、サングラスを細切れにして椎茸と一緒に炒める。
“サングラス炒め”。
意外にうまい──らしい。
ジュワァァァァ!!
鉄鍋に火が走った瞬間、カルナッポさんはビクッとしてしゃがみ込んだ。
カルナッポ「火……火……故に……水……」
セレーノ女史「サングラス炒めないでかければよろしいのでは、火があまり目立たなくナレッサンス」
慰めになっていない。
⸻
火曜日のナッポみ ― 後編 ―
料理が出来上がると、突如ラジオが勝手に点いた。
雑音のあと、あの声が響き渡る。
「いやぁねぇ皆さん……こわいですねぇ……恐ろしいですねぇ……」
ナッチャンダリーポップ氏だ。
ナタナエル・シャンダリーポップ・ヴァン・ルーヴェン。

また勝手に電波を割り込ませている。
カルナッポ「……御意(うるさい、の意味)」
セレーノ女史「ナッチャンさん、またですねぇ」
ラジオの向こうで、稲川淳二そっくりの喋り方で語るナッチャン。
「これはねぇ……僕がフランスの森を歩いていた時なんですがねぇ……鳩が出ますよ!……って声がしたんですよぉ……」
セレーノ女史「あら素敵ですね」
カルナッポ「…森に鳩。至って普通。故に……静寂……」
ナッチャンの声は続く。
「地面から……ゴゴゴゴってね……鳩がね……“湧いて出てきた”んですよぉ……」
チイボコ「ンボ……?」
「でねぇ、その鳩にねぇ──怪力の男がね、斧を投げつけたんですよぉ……バーンッてねぇ……!」
セレーノ女史「稀に見る狩猟方法です」
カルナッポ「……御意(危ないの意味)」
「そしたらねぇ……投げた斧がねぇ……空中で“羽ばたいた”んですよぉ……」
カルナッポ・セレーノ「???」
「斧だと思ったら……鳩だったんですよぉ……! いやぁねぇ……恐ろしいですねぇ……」
チイボコ「ミャボ!!(意味不明)」
カルナッポ「投げた時は恐らく、ドルリュゥウという音が……したのか……」
カルナッポさんはラジオのコンセントを静かに抜いた。
火曜日は静寂を愛する日なのだ。
しかし、部屋の中はまったく静かではない。
スキャップルスキャップル!!
チイボコが、揺れる。
セレーノ女史はローラースケートを履き、部屋の中をスー……スー……と周回している。
カルナッポさんは椎茸を水で戻しながら、小さくつぶやいた。
カルナッポ「……森には、水ミミズがいるのか、寝耳にミミズが、ドルリュゥウ……くわばらくわばら」
今日は落ち着かない火曜日になりそうだ。
⇩前編⇩
