なぜ第22話「血が止まらない」は消されたのか?抗議説の裏にある医学的矛盾
前回からいくつかある「ブラック・ジャック」の封印された作品の中から
現在手に取って読める入手可能な「封印作」をご紹介するシリーズ
今回ご紹介する作品は
第22話「血が止まらない」です。
少年チャンピオン・コミックス(単行本)への収録以降、
長らく再録が控えられてきた珍しいエピソードのひとつ。
例によりKindleでは読めてしまう封印作のほか
2026年2月に刊行された
『ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ Second Operation』にも完全収録され、現在ではようやく手軽に読める環境が整っておりますので気になった方はチェックしてみてください。
本作がなぜ長年「封印」に近い扱いを受けてきたのか、
その真相と作品の深層に迫っていきます
あらすじ
島根から上京してきた女の子、由紀は、上野駅のコインロッカーの前で
同じく上京青年の博と出会います。
似たもの同士の二人はたちまち意気投合し
何度もデートをかさねるうちに二人は恋におちてしまいます。

やがて博からプロポーズを受けた由紀ですが、
彼女には結婚を受け入れられない深刻な理由がありました。
それは自身が遺伝性の病気である「血友病」であり、
生まれてくる子どもに病気が遺伝してしまうことを恐れていたからでした。

諦めきれない博はブラック・ジャック(以下、B・J)のもとを訪れ、
治療を懇願します。
「遺伝病は外科では治せない」と一度は断るB・Jでしたが、
由紀に希望を持たせたいという博の必死の熱意に押され、
「完治した」と思わせる偽の手術を引き受けることになります。

手術を受け、病気が治ったと信じ込んだ由紀。
しかし、その直後にとんでもない運命が待っていました。
B・Jに連れられて向かったのは、
二人が初めて出会った上野駅のコインロッカー。
渡された鍵でロッカーを開けると、
そこには博から由紀へ宛てた一通の手紙が残されていました。
一体、手紙には何が書かれていたのか。
そして二人の結末はどうなったのか――。
というあらすじであります。
血友病団体からの抗議?
本作はどんでん返しの効いた切ない人情ドラマですが、
通常のB・Jらしい「神業的な執刀で命を救う」医療ドラマではなく偽の手術を行っている点も含め、どこか異色のエピソードです。
では、なぜ単行本への再録が見送られ続けたのでしょうか。
明確にカットされた理由は公表されておりませんが、
一説には「血友病」に関する団体などの抗議による影響のため
余儀なくカットされたと言われております。
実際、1981年に放映された加山雄三主演の実写ドラマ版『ブラック・ジャック』の第8話「血がとまらない」では、
血友病の描写について患者団体からの指摘があったとされています。
これは「血友病」という現実の病名を使うことの難しさですよね。
このほかにも「ブラック・ジャック」の封印作品の多くが実在する病名や
それに関連する被害者、または団体などに配慮して封印されるケースがほとんどなので、よって今回も「血友病」に関する方々に配慮してのことなのではと思われましたが…
今回この記事を配信するにあたり調べていたら
どうやらそうではない可能性が浮上してきました。
今回の検証にあたり参考にした書籍があります
『ブラック・ジャック Theカルテ』
この本は現役の医師によって「ブラック・ジャック」 のエピソードの症例を現代医学の観点から検証した書籍になっており、プロの視点から見た見解も参考に進めます。
あのB・Jが医療ミス?
まず症例検証の前からすでに
「同じ医師としてB・Jの行為は理解に苦しむ。」とあります。
その理由がコチラ
遠くない将来に由紀は結婚し、出産するだろう。
現実に血友病の子どもを持つ多くの母親たちが
自分のせいで血友病の子が生まれたという自責の念にかられ苦しんでいる。
ましてや完治したと信じてこんでいた由紀に
血友病の子どもが生まれた時に、
彼女はどれほどの失望を味わうのであろうか。
いくら依頼者の頼みとは言え、
B・Jのニセの手術はあり得ないらしい…。
加えて
最も大切なのは遺伝相談であり由紀には血友病の子供を生む可能性があることを心理的影響に十分に配慮しながらカウンセリングを行うべき
とも記されており
「偽の手術で治ったと思い込ませる」というB・Jの対応は、
将来的な患者への心理的リスクを考えても
医療倫理上大きな問題らしいです。
「ニセ手術」がどうやら極めて重大な問題らしいですけど
これは、依頼者に頼まれてついたウソであって、B・Jが独断でウソをついたわけではないのでうーん。どうなんでしょうね。
マンガとか関係なく実際はどうなんですかね。
「がん」宣告を本人には知らされずご家族のみに打ち明けられるってパターンもこれに近いと思うんですがダメなの?
手塚先生もご自身には知らされず亡くなっています。
宣告とニセ手術の違いってことなんですかね。
この辺りの線引きがムズい。
むむむ…。。。ですな。
また、そもそも血友病保因者であるかの検査を
しなければならないとも本書では記されています。
…というのも女性の血友病比率は極めて少なく
日本の血友病症例の98.5%は男性と言われているので
まずはここもしっかりチェックしたいとあります。
これについては、ページ数の限りもありますので描かれていないだけで
検査済みと捉えていても個人的に問題ないと思います。
しかし最後のここがポイント
「血友病患者であるから不幸であると断定してはいけない」
とあります。
作中では血友病が「血が止まらない不治の病」として描かれていますが、
現代の医学(連載当時の水準を加味しても)、血友病は血液凝固因子の製剤投与によってコントロールが可能な疾患だそうで
タイトルの「血が止まらない」といったことはなく
普通の人より血液凝固時間が長いだけで手術も可能な病気だそうです。
つまり
「血友病」が絶望的な不治の病と捉えるのはおかしいってことなんですよ。
この治療の程度が、連載された時期と現在では、
どの程度タイムラグがあるのかは一旦置いておいて…
これらを鑑みると、本エピソードは事実と異なる内容のため
事実に反する表現があったので封印されたとみることができます。
よって「血友病」に関する団体などの抗議ではなく、
手塚サイドが自主的に血友病への偏見をなくす、血友病の正しい理解のために削除したのではないかと取れるんですよね。
(もちろん抗議も参考にしていると思います)
実はこっちの方が重大なミス
そして
ここからは、重大なネタバレになりますので
ご覧になられていない方はご退出くださいね。
実はこのエピソードにはもう一つ症例があるんです。
それは「悪性貧血」
博は由紀の術後に「悪性貧血」で死んでしまうというオチになっています。

「悪性貧血」とは
免疫が自分自身の組織を攻撃してしまう自己免疫によって胃の粘膜が傷つき、結果としてビタミンB12の吸収がうまくいかず、貧血などの症状が起こる病気のことらしいです。
そしてこれ、
「悪性貧血は現在、内科的治療で改善する可能性が高い。
博をみすみす死なせてしまったB・Jは内科医として失格である」
と書いてあるんですが、これはなかなかストレートな物言いですよ。
なぜ、こんな治療で治ってしまう患者を、
あのB・Jがみすみみす死なせてしまったのか?
ここに疑問が投げかけられています。

「悪性貧血はその病名とはうらはらに、
診断さえ確定すれば治療効果は著しく、一生貧血から解放される病気らしく
もともと心臓に疾患のない青年であるならば
適切な治療によって心機能の改善は十分に期待できると思われる」
とB・Jの診断結果を非常に疑問としています。
この後に、ややこしい解説がツラツラとあるんですが…
省略してまとめると、、
実は博は「悪性貧血」ではなく、
何らかの治療不可能な疾患を原因とした
巨赤芽救性貧血であったと理解したいと結論づけています。
「悪性貧血」ではさすがに亡くならないので
おそらく違う病気だったんじゃないか?…ってことですね。
これらから推測するに
このエピソードが封印された理由は
「血友病」患者への配慮というより
「血友病」表現に事実と異なる表現が含まれていたことと
「悪性貧血」で命を落とすのはさすがにムリがある。
この2点が決定的な原因であったんではないかと。
むしろ「血友病」より「悪性貧血」への捉え方の方に問題があって
封印された可能性の方が高いのではとボクは思ってしまったんですけど
どうなんでしょうか…。
脚本もおかしいのでは…?
補足ですが、脚本構成にも少し引っかかるポイントがあります。
それは
最初、由紀が病気であることを理由に人生に絶望していたというフリが利いてその後の人生に希望を捨てずに生きていくといった流れになりますが
対する博も不治の病を患っていたという二重構造になっているんですね。
それ自体はギミックとして面白いのですが
打ち明けた由紀に対し、博は隠し続け死んでしまいます。
「人様の秘密は聞いておいて自分は言わんのかい!」っていう
何かモヤモヤするとも受け取れる展開なんですよね。
これは受け取る読者によって変わると思いすが
これはどうなんでしょ。
皆さんはどう思われたでしょうか。
普通に読んでいると美談に思えるんですけど、何かモヤつくっていうね。
残された由紀の立場からしたら「ええ?ウソーン」って思いませんか?
もし仮に結婚までできていたらどうしてたん?
どっかで言うつもりやったん?
考えたらキリがないけどモヤつんですよね。
もしかしたらその辺りの違和感も原因のひとつとして
封印したではないかと思ったりもしました…。
はいというわけで「ブラック・ジャック」封印作
第22話「血が止まらない」ご紹介いたしました。
ではでは…。
