「書き終えたとき、憑き物が落ちたような気がした」
MINAMOさんは仕事を受けるとき、必ず「なぜ自分なのか」を聞く。
「正直に言ってもらいたいんです。花を添えるくらいでいいです、個性を出してほしいんです、とか。求められそうなことを全部やってしまいがちなので(笑)」
以前出したフォトエッセイを読んだ編集者から「これを書く人が小説を書いたらどうなるのか見てみたい」と言われたのが嬉しかった。初めての小説。1年かかった。
「ずっと頭の中がこの小説でいっぱいでした。何を書くかも決めていなくて、自分の人生で強い思いが残っているものを挙げてみたら、“家族”が一番書きやすいかなと。でも最初は全然筆が乗らなくて。包み隠していたものを他人に開けることに、やっぱり抵抗があって。それでも、母と祖父母との絶縁、それに巻き込まれる私と妹のことを書いたあたりから、少しずつギアが上がっていきました」

壊れていく家庭で「母を救うこと」にとらわれ続けた少女が、大人になり己の空白と対峙する。母の傷、父の孤独、家族それぞれの視点を辿り直し、自らの人生を取り戻していく半自伝的小説。MINAMO著。KADOKAWA/1,980円。
この小説が稀有なのは、当事者である家族に当時どう思っていたのかを取材しながら書き進めた点にある。
「妹の話はガツンときましたね。お姉ちゃん大好きっ子だと思っていたので、そんなことを考えていたんだ、と」
厳しかった父の像も変わっていった。
「大人になって、親を一人の人間として見られるようになった。それがかなり大きいかもしれない。大人になるにつれ自然にできる人もいると思うんですけど、私のように何か欠落を感じている子供は、それが結構難しい。私はやっと、できるようになったのかなと。本当に、最近のこと。もしかしたらこの本を書いたおかげかもしれない」
「お前、誰に飯食わしてもらってると思ってんねん」。作中に出てくる父の言葉だ。
「何くそ、と思いますよね。物も買ってもらえなかったから、お金を稼ごうって。父の影響は、よかれあしかれめちゃくちゃあります。恋人になったからには思いきり甘えていいだろう、という思考も、父に甘えられなかった裏返しだと思う」
変わったのは家族の像だけではない。
「書き進めるうちにすっきりしていって。私、不幸な人の方が面白い文章を書くと思ってるんですよ。だから、幸せになったら文章がつまらなくなるんじゃないかって、最後の方はそれが悩みでした(笑)。書き終えた後は、憑き物が落ちたみたい」
書くことで整理された、という安易な言葉に回収したくない。ただ確実に、軽くなった。そして主人公と自分は違うと思う。
「私は、こんなにすんなり受け入れられなかったなと思って。家族の視点も入れることで相対化されたというか、“私であって、私でない物語”になった気がします」
家族と会うのは年に1、2回。母とはよく電話する。父とはまだ少しぎこちない。
「壁があるっていうか。でも親子っていうのも幻想というか、理想を求めすぎたらきりがないので。こんなもんかな、と」

最後に、幸せとは何かを聞いた。
「毎日ご飯が食べられて、布団で寝られること。過去に負った傷も、それがあって今があるからいいよね、と思えている。その状況が幸せです」
脱稿した日は少しいい焼肉屋へ行った。次の執筆仕事も2本控えている。
「すっかり書く人になっちゃいました。書くのはドトール、何かクセになる音楽が流れてるんです。あれがなくなったら死活問題です(笑)」