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潮の満ち引きと、午前0時5分

前回は、自宅で産むと決めるまでの話でした。今回は、一人目が生まれた日のことです。

道具を並べて、何度も頭の中で

初めての経験ですから、お産がどんなものか、まるでイメージできませんでした。

出血するのだろうか。赤ちゃんというのは、どのくらいの固さなのだろうか。「大きなうんこを出すみたいなものだ」と言う人もいましたが、本当だろうか。疑問は尽きませんでした。

生まれたあとの手順も考えました。タオル、産湯用のたらい、臍の緒を切るためのハサミ、切り口を覆うガーゼや絆創膏。必要だと思うものを全部並べて、頭の中で何度も繰り返しました。

それでも、悩みは消えません。

「今までだって臨機応変に生きてきたじゃないか。きっと今回もなんとかなる」

そう自分に言い聞かせて、その日を待ちました。

出産のタイミングや、様子など、分からないことだらけです。助産師さんがそばにいてくれることだけが、心の支えでした。

70代の助産師さん

助産師さんは、同じ市内に住んでおられる方でした。車で15分ほどの距離です。

実は、助産師さんを探すのは、少し手間がかかりました。病院に聞くわけにもいきません。

知人や、電話帳(今はないかもしれません)などを手掛かりに、ようやく、二人の助産師さんが、私たちの意思を受け止めてくれました。

ただ当日、一人の方は、帰省と重なって、来られませんでした。とても残念がっておられたのを覚えています。助産師さんにとっても、自宅出産に立ち会う機会は少なくなっていたようです。

タイミングは天の配剤ですから、仕方がありません。ただ、一人減ったぶんは自分が補うしかない。 そう思うしかありませんでした。

陣痛は、夕方に始まりました。私は急いで、助産師さんを呼びに行きました。

立ち会ってくださったのは、70代の穏やかな方でした。それでいて、若々しい生命力に満ちていました。

赤ちゃんからエネルギーをもらってるのよ!

そう冗談を言って笑う姿を見て、私はホッとしました。

潮の満ち引きと関係あるんですか

陣痛は、宵の口にいったんおさまりました。

夜が更けて、時計の秒針の音だけが聞こえていました。

陣痛が来ては、また引く。 そのたびに妻の顔がこわばり、やがてまた静かになる。見ているだけで、こちらまで胸が苦しくなりました。

気を紛らせたかったのだと思います。私は助産師さんに、素人丸出しの質問をしました。

赤ちゃんが生まれるタイミングって、潮の満ち引きと関係あるんですか?

彼女は微笑んで、こう答えました。

どうかしらね? 観察してみて

午前0時5分

夜中近く、再び陣痛が始まりました。

助産師さんは落ち着いて見守っています。妻は大声で「早く出して〜〜!!」と叫んでいました。

笑い事ではないのですが、少し笑ってしまいました。同時にお産の苦しみも伝わってきました。

そして、まるで日付が変わるのを待っていたかのように、午前0時5分。

息子が生まれました。

その瞬間、胸の奥がジーンと熱くなって、言葉を失いました。世界が一瞬、止まったようでした。 ただ呆然と立ち尽くしていました。

我に返ったとき、ビデオを撮り忘れていたことに気づきました。 そんな余裕は、どこにもなかったのです。

産湯を使い、臍の緒を切り、赤ちゃんが落ち着いて、ようやく一息つきました。

――潮の満ち引きのことは、すっかり忘れていました。

あとで調べてみましたが、息子が生まれた時刻と、潮の満ち引きは関係ありませんでした。

子どもが、日時を決めている

息子は、自分でこの時刻を選んで生まれてきた。

私には、そう思えてなりませんでした。

実際、母と子はホルモンのやり取りを通じて会話していて、子宮口を開くタイミングや、産道に入るタイミングを知らせているのだそうです。

人智を超えたものに触れたという感覚は、いまも残っています。

胎盤を見て、助産師さんが言った

赤ちゃんは、臍の緒で胎盤とつながっています。

赤ちゃんが生まれると、胎盤は役目を終えて、子宮から自然に剥がれます。そのあとに胎盤を出す。これを**後産(あとざん)**といいます。

出てきた胎盤を見て、助産師さんがこう言いました。

こんなプリプリした胎盤は、見たことがない

経験豊富な方の言葉ですから、信憑性がありました。中には、形をとどめずに出てくる胎盤もあるのだそうです。

麦飯石の粉を飲み続けた日々が、頭をよぎりました。

胎盤は、細胞分裂を繰り返し、細かな血管を張り巡らせて作られます。

亜鉛は細胞分裂やDNA・タンパク質の合成に、鉄は血液を作り、酸素を運ぶ働きに、銅やマグネシウムは体内のさまざまな酵素反応に関わります。カルシウムは、赤ちゃんの骨や歯の材料になります。

ミネラルはエネルギーになるわけではありません。しかし、胎盤という臓器を作り、働かせ、お腹の子どもの体を組み立てていくために欠かせないものでした。

綺麗な肌を見て感動

もうひとつ、驚いたことがあります。

赤ちゃんの肌でした。

そのころ、アトピーの話をよく聞くようになっていました。生まれてくる子の肌のことは、正直、気がかりでした。

テレビで見る出産の映像では、生まれたばかりの赤ちゃんは血や脂にまみれています。私も、そういうものだと思っていました。

ところが、脂や血の付着がほとんどなく、透き通るようにきれいだったのです。

これも、何がどう作用したのかは分かりません。ただ、ありがたかった。 そのときの気持ちは、それに尽きます。

こうして、第一子の誕生という大きな出来事が、静かに幕を下ろしました。

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これまでの記事は、マガジン「70年かけて検証した――心と体、お金と人間関係、見えないもの」にまとめています。連載完結まで1年以上かかる予定ですが、週4回更新しています。


次回は、二人目の話です。三年後、妻は「家族だけで産みたい」と言いました。 経験を積んだつもりでいた私は、そこで大きな失敗をします。

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