仕事がしんどいのは、能力ではなく「環境」のせいかもしれない
組織に属して働く以上、自分の都合だけで仕事をシングルタスク化することは難しい。
複数の案件が並行し、チャットが届き、会議が入り、急な依頼にも対応する。どれだけ集中したいと思っても、他者と仕事をする以上、割り込みや切り替えを完全になくすことはできない。
だから私は、シングルタスクを目指すよりも、マルチタスクによって生まれる負荷を減らす環境をつくる方が現実的だと思っている。
与えられた環境を、そのまま使う必要はない
多くの組織が提供する仕事環境は、管理しやすさや安全性、全体最適を前提として設計されている。
それ自体は当然である。全社員に対して、一人ひとり異なる環境を用意することは難しい。
ただし、組織が用意した環境だけを、そのまま受け入れて働かなければならないわけではない。
自分だけが使うツール、通知の設定、アプリの配置、情報の置き場所、ショートカット、タスク管理の方法。自分の判断で変えられるものは、思っている以上に多い。
それにもかかわらず、多くの人は、与えられた環境をほとんど疑わずに使っている。
全員が均一な環境で同じように働けると思うこと自体、ある意味では傲慢なのかもしれない。
人によって、情報の理解しやすい形も、記憶の仕方も、集中しやすい条件も違う。同じ通知を受けても気にならない人もいれば、一度意識を奪われると元の思考へ戻るまでに時間がかかる人もいる。
大切なのは、自分を標準環境へ無理に合わせ続けることではない。
自分と仕事環境との接続方法を、自分なりに設計することである。
自分のCPUやメモリは、簡単には載せ替えられない
スマートフォンやPCの動作が重ければ、CPUやメモリの性能を確認する。不要なアプリを閉じ、バックグラウンド処理を減らし、ストレージを整理する。
性能を最大限発揮できる状態へ整えてから使う。
人間も、それほど変わらないと思う。
私たちは、自分のCPUやメモリを簡単に載せ替えることはできない。だからこそ、限られた認知資源をどう使うかを考えなければならない。
通知を見る。情報を探す。どこへ保存するか迷う。中断した仕事の続きを思い出す。同じ内容を何度も確認する。
一つひとつは小さな負荷でも、積み重なれば思考や判断の余力を奪っていく。しかも、その多くは成果に直接つながらない。
仕事で本当に頭を使うべき場面はなくならない。
だからこそ、頑張る必要のないところでまで頑張らないようにしたい。
環境整備は、仕事ができる人だけのものではない
環境を整えるという話は、仕事で高い成果を出したい人向けの生産性論として語られやすい。
もちろん、環境整備は成果を出すための武器になる。
判断回数を減らし、切り替えの負荷を抑え、重要な仕事に認知資源を集中できれば、パフォーマンスは上がりやすい。
しかし、私はそれだけを伝えたいわけではない。
仕事が好きではない人や、上を目指しているわけではない人にとっても、環境を整える意味はある。
やらなければならない仕事を、できるだけうまく終わらせる。無駄な残業を減らす。不要な指摘や手戻りを避ける。仕事によって生まれる不快感やストレスを少しでも減らす。
環境整備は、自分を守るための防具にもなる。
仕事に多くを奪われたくないからこそ、考えて準備する。
頑張りたくないから何もしないのではない。頑張り続けなくても済むように、最初に仕組みをつくるのである。
小さな変更から、自分の特性が見えてくる
自分に合う環境をつくるためには、まず自分を理解しなければならない。
ただ、自分の認知特性を最初から正確に理解している人は多くないと思う。
環境を変えてみて、初めて気づくことがある。
通知を切ったら、想像以上に集中しやすくなった。情報の置き場所を一つにしたら、探し物による疲労が減った。中断時に一行だけメモを残すようにしたら、仕事へ戻りやすくなった。
そこで初めて、自分が何に無意識に疲れていたのかが分かる。
反対に、他の人が苦労していることを、自分は自然にできていたと気づく場合もある。
環境整備は、自己理解の結果として行うものだけではない。
試して、楽になったかを確かめ、自分の特性を知り、さらに環境を変える。その繰り返し自体が、自分を理解する方法になる。
自分のやり方を、他者との仕事へ広げていく
最初は、自分だけで完結する範囲から始めればいい。
PCやスマートフォンの設定、通知、フォルダ、アプリ、ショートカット、タスク管理。ここであれば、他者へ迷惑をかけることなく、自分に合う環境を試せる。
その先では、他者との仕事の進め方へ広げることもできる。
ただし、自分に合わせてほしいと一方的に求めるのではない。
相手にとっての便益も成立させる必要がある。
口頭で依頼を受けるより文章でもらった方が仕事を進めやすいのであれば、認識齟齬や手戻りが減る形として提案する。チャットを常時確認したくないのであれば、一定間隔で確認する代わりに、緊急時の連絡手段を明確にする。
自分の負荷が減り、相手にとっても分かりやすくなり、仕事の質も落ちない。
そこまで設計できれば、自分なりのやり方は、わがままではなく業務改善になる。
さらに、その方法が周囲にとっても便利であれば、やがてチームの標準になることもある。
自分のために始めた環境整備が周囲へ広がり、集団のルール自体が、自分にとっても働きやすいものへ変わっていく。
ここまで来れば、周囲からはハイパフォーマーと見られるかもしれない。
ただし、全員がそこまで目指す必要はない。
どこまでやるかは、自分で選べばいい。
組織ができるのは、きっかけと余白をつくること
個人ごとの最適な仕事環境を、組織がすべて設計する必要はないと思う。
そこまで組織が介入するものでもない。
組織に求めたいのは、自分の働き方や環境について考えるきっかけをつくること。そして、小さな試行錯誤を許容する余白を残すことである。
全員に同じ仕事術を押しつけるのではなく、自分に合う方法を探してもいいと伝える。
それだけでも、環境を受動的に受け入れる以外の選択肢が生まれる。
もちろん、環境を整える余裕すらないと感じる人もいるだろう。
それを本人の責任だとは思わない。
だから、大きな改革を求めたいわけでもない。
通知を一つ減らす。よく使う機能をすぐ開けるようにする。探し物をしなくて済む置き場所を決める。中断した仕事へ戻るためのメモを残す。
ほんの少しの変更でもいい。
小さな変化を積み重ねることで、判断回数が減り、ストレスが減り、残業が減る。自分にも仕事をコントロールできる領域があると感じられるようになる。
その小さな感覚が、働き方全体を大きく変えることがある。
仕事へのコミットメントを、自分で選べるようにする
気持ちや根性、頑張り、そして残業という時間で、仕事上の問題を解決し続ける必要はない。
自分に合うものを選び、自分で環境を構築する。
それによって仕事に自分を奪われることなく、そのうえで、どこまで仕事へコミットするのかを自分で選べるようにする。
高い成果を目指してもいい。残業せずに帰ることを優先してもいい。仕事を少しでも嫌ではない状態にすることを目指してもいい。
何を望むかは、人それぞれである。
大切なのは、自分の働き方を、変えられないものとして最初から諦めないことだと思う。
頑張らなければならない場面は、きっとなくならない。
だからこそ、頑張らなくてもいいものまで頑張らずに済む環境を、自分の手で少しずつつくっていきたい。
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