「簡単な仕事だから新人に」は、本当に育成なのか
新人には、まず簡単な仕事を任せる。
多くの職場で、これは自然なこととして受け入れられている。まだ仕事に慣れていないのだから、難しい仕事ではなく、誰でもできる簡単な作業や雑用から始めてもらう。任せる側としても失敗のリスクが低く、新人にとっても取り組みやすいように見える。
しかし、本当にそうなのだろうか。
新人にとって、作業が簡単であることと、実際に対応しやすいことは同じではない。
作業難易度と対応難易度は違う
ある仕事を「簡単だ」と感じられるのは、その人が仕事の進め方や職場の環境をすでに理解しているからである。
どのシステムを使うのか。必要な情報はどこにあるのか。誰に確認すればよいのか。どこまで自分で判断してよいのか。どのような形式で報告すればよいのか。
職場に慣れた人は、こうした周辺情報をほとんど意識せずに処理できる。そのため、作業そのものだけを見て「これは簡単だ」と判断できる。
しかし、新人にはその前提がない。
一つの作業を進めるためにも、まずやり方を調べ、分からないことを整理し、質問する相手を探し、聞き方を考え、回答を理解し、間違えないように確認しながら進めなければならない。
作業自体は簡単でも、その作業を完了させるまでに必要な認知負荷は高い。
つまり、作業難易度と対応難易度は同じではない。
新人は、仕事以外のことにも脳を使っている
新人は、単に新しい業務を覚えているわけではない。
新卒であれば、社会人として働くことそのものに慣れる必要がある。中途入社や異動であっても、新しい職場の人間関係、システム、ルール、言葉遣い、評価基準、暗黙の了解を理解しなければならない。
周囲の人にどう見られているのか。迷惑をかけていないか。質問しすぎではないか。反対に、質問せずに進めてよいのか。
新人には、新人特有の心理的なプレッシャーもある。
慣れた人なら無意識に処理できることを、新人は一つずつ意識して処理している。簡単な作業であっても、必要な時間や脳のリソースが多くなるのは当然である。
それを見ずに、「簡単な仕事なのになぜ時間がかかるのか」と考えるのは、新人が背負っている認知負荷を見落としている。
「新人だから雑用」は、育成になっているのか
新人には簡単な仕事を任せる。
この考え方が続くと、新人には自然と雑用が集まるようになる。
誰でもできる仕事だから新人に任せる。難しくないから、とりあえずやってもらう。失敗しても大きな問題にならないから、まずはそこから経験させる。
しかし、その仕事を任せることが、本当に新人の成長につながっているのかは別の話である。
雑用から学べることがまったくないわけではない。職場のルールや人間関係を知るきっかけになる仕事もある。
ただし、何かを学べることと、その時期に優先して学ばせる価値があることは同じではない。
新人の認知資源には限りがある。その資源を使わせるなら、本来その人に任せたい仕事や、将来期待している役割の理解につながる作業に使った方がよい。
新人は、雑用係として入ったわけではない。
何らかの役割を期待され、採用され、配属されている。それにもかかわらず、配属直後から「誰でもよい仕事」の受け皿にしてしまうのは、採用した目的と実際の育成がずれている。
本質的な仕事を、小さく切って渡す
新人にいきなり重い仕事を任せるべきだ、という話ではない。
本来任せたい仕事を、新人が対応できる大きさまで分解して渡せばよい。
調査の一部分を担当してもらう。資料の一項目を作ってもらう。データを整理しながら、そのデータが何に使われるのかを説明する。先輩が進める仕事の一工程を任せ、前後の流れも共有する。
重要なのは、作業を終えることだけではなく、自分に期待されている役割と、その作業がどうつながっているのかを理解できることである。
新人はまず、職場という環境に慣れる必要がある。次に、自分に求められる役割を理解し、その役割が具体的にどのような仕事になるのかを知る。そして、本来の仕事につながる小さな作業を繰り返しながら、仕事の流れや判断基準を身につけていく。
その過程で、仕事をするために必要な環境や情報が少しずつセットされていく。
負荷をなくすのではなく、負荷を選ぶ
新人の負荷を下げるというと、甘やかしている、成長が遅れる、と考える人もいるかもしれない。
しかし、負荷をすべて取り除く必要はない。
業務の目的を理解する。必要な情報を探す。限定された範囲で判断する。分からないことを整理して質問する。フィードバックを受けて修正する。
こうした負荷は、成長基盤をつくるために必要な健全な負荷である。
問題なのは、成長につながる負荷と、ただ消耗させるだけの負荷を区別せずに与えることだ。
新人育成で大切なのは、負荷の量を単純に減らすことではない。新人の限られた認知資源を、何に使ってもらうかを考えることである。
本来業務の理解や成長基盤の形成につながる負荷には、支援しながら向き合ってもらう。一方で、その人でなくてもよい雑用や、慣れてから覚えても問題のない周辺業務は、最初から積み上げない。
これは成長を遅らせることではない。
成長するための土台を、できるだけ早く整えるための考え方である。
雑用は、環境がセットされてからでも遅くない
雑用や周辺業務を、永遠に任せるべきではないという話でもない。
職場の環境や情報がある程度セットされ、誰に何を聞けばよいかが分かり、自分の役割や仕事の流れを理解できるようになれば、同じ雑用でも対応難易度は大きく下がる。
その段階で、チームの一員として必要な仕事を分担するのは自然である。
問題は、まだ何も分からない時期に、「簡単だから」「新人だから」という理由だけで、誰でもよい仕事を次々に任せることである。
任せる側にとっては簡単な依頼でも、新人にとってはそうではない。依頼する側と同じ速度や精度でできるわけでもない。
雑用を任せる場合にも、必要な背景や進め方を説明し、一つの仕事として支援する必要がある。「簡単だから、ついでにやっておいて」で済ませてよいものではない。
新人育成とは、成長基盤を早く整えること
新人育成の目的は、新人にできるだけ多くの作業を経験させることではない。
早期に成長基盤を整え、その後は本人が成長することに集中できる状態をつくることである。
職場の環境を理解している。必要な情報の場所が分かる。質問する相手を判断できる。自分に期待されている役割を説明できる。仕事の全体像と、自分が担当する作業のつながりが見えている。
こうした基盤ができれば、新しい仕事を任されたときにも、作業そのものの学習へ認知資源を集中できる。
新人に必要なのは、負荷のない環境ではない。
成長につながる負荷に集中できる環境である。
簡単な仕事をとりあえず渡すのではなく、本質的に任せたい仕事を、対応できる大きさに切って渡す。
新人は、雑用係として入ったわけではないのだから。
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