優秀な人を集めても、強い組織にはならない――チームスポーツが見せるマネジメントの力
組織マネジメントに関心を持つようになってから、チームスポーツを見る視点が少し変わった。
もちろん、試合そのものも面白い。戦術の違いや選手個人の技術、勝敗を左右する一瞬のプレーにも惹かれる。
ただ、それ以上に興味を持つのは、個人の能力の足し算だけでは説明できない「組織の力」である。
戦力的には劣るはずのチームが強豪を倒す。別のクラブでは活躍できなかった選手が、監督や役割が変わった途端に輝き始める。反対に、優秀な選手を揃えながら、チームとしては機能しないこともある。
そこでは、組織マネジメントが個人とチームの成果をどれほど増幅し、あるいは毀損するのかが、極めて分かりやすく表れる。
スポーツが面白いのは、組織論が現実の勝敗として目の前に現れるからなのだと思う。
スポーツでは、マネジメントの結果を隠せない
スポーツでは、試合ごとに結果が出る。
しかも、その結果は選手の肉体的、技術的、精神的なパフォーマンスに強く依存する。心身のコンディションが崩れれば、戦術が正しくても実行できない。
だからチームは、試合の日にパフォーマンスのピークを持っていくために、練習強度、休養、心理状態、選手起用まで含めて管理する。
準備し、試合を行い、結果を振り返り、回復し、修正して、次の試合に向かう。このサイクルが非常に短い。
ビジネスでは、組織状態が悪くても、過去のブランド資産や既存顧客、市場環境によって、しばらく数字が維持されることがある。反対に、良いマネジメントを行っても、成果に表れるまでには時間がかかる。
そのため、組織状態と業績の因果関係は見えにくい。
スポーツにも偶然や対戦相手の影響はある。それでも、監督交代、選手起用、役割変更、コンディション、チームの雰囲気といった要素が、短期間でプレーと勝敗に反映される。
組織マネジメントが結果を変えることを、ポジティブにもネガティブにも、これほど顕著に観察できる場所は多くない。
数字や戦術だけでは勝てない
現代のスポーツでは、多くのデータが取得されている。
走行距離、パス成功率、シュート数、ボール支配率、選手の負荷量。こうした数字は、選手やチームの状態を理解するうえで重要である。
しかし、数字を改善すれば必ず勝てるわけではない。
走行距離が長ければ勝てるわけでも、シュート数が多ければ勝てるわけでもない。優れた戦術を用意しても、選手が実行できなければ成果にはならない。
戦術を実行する選手には、身体的な限界があり、技術的な成熟度にも違いがある。ポジション、気質、性格、考え方、リスクの取り方も一人ひとり異なる。
だから監督は、自分が実現したい戦術を、そのまま選手に押しつけることはできない。
選手のできることと、できないことを理解する。強みが最大限に発揮される役割を設定する。何を期待し、何は求めないのかを明確にする。そして、監督がやりたいことを、選手が理解し、判断し、実行できる形までコミュニケーションによって落とし込む。
さらに、苦しい局面でも、この監督についていこうと思わせる求心力も必要になる。
戦術は設計図にすぎない。
机上の設計図を現実の成果へ変えるためには、最後まで人間に向き合わなければならない。
ポテンシャルは本人が持ち、発揮できるかは組織が左右する
選手のポテンシャルそのものは、選手本人が持っている。
ただし、そのポテンシャルをどれだけ発揮できるかは、役割、戦術、周囲の選手、指導者、心理状態といった環境に大きく左右される。
同じ選手が、監督や所属チームが変わっただけで、別人のように活躍することがある。反対に、高い評価を受けて移籍した選手が、新しいチームでは十分に能力を発揮できないこともある。
ここから分かるのは、個人の能力と実際のパフォーマンスは同じではないということだ。
良いマネジメントは、選手にない能力を魔法のように与えるわけではない。しかし、選手が本来持っている力を発揮できる条件を整え、個人では生み出せない成果へつなげることができる。
過小評価されている選手を発掘し、適切な役割を与え、互いの強みと弱みが補完されるように組み合わせる。共通の戦い方を浸透させ、小さな成功を積み重ね、自信と一体感をつくる。
それによって、選手個人の市場価値の合計を超えるチームが生まれる。
決して、弱小チームや下位チームが永遠にその位置にいるわけではない。良いリーダーを迎え、安価でもポテンシャルのある人材を見つけ、適切に束ねることで、組織の成果は変えられる。
人材を獲得すること以上に、人材が持つ価値を発現させることが、マネジメントの仕事なのだと思う。
人材は費用であると同時に、経営資産でもある
企業会計上、人件費は費用として処理され、人材そのものが貸借対照表に資産として計上されるわけではない。
しかし、少なくとも単年で見れば、企業はその人の年収に相当する人的リソースを確保している。それは会計上の資産ではなくても、会社にとって間違いなく重要な経営資源である。
企業は人件費を厳密に管理する一方で、採用した人が本来持つ価値をどれだけ引き出せているかについては、十分に検証していないことがある。
活躍できない人がいれば、本人の能力や適性の問題として処理される。しかし、配置、役割、期待値、権限、周囲との関係、上司のマネジメントに問題がなかったのかも、本来は同時に問われるべきである。
スポーツでは、選手の活躍の延長線上にビジネス全体の成果がある。
選手のパフォーマンスが勝敗を生み、勝敗が観客動員、放映価値、スポンサー、グッズ販売、クラブのブランド価値へつながる。そのため、高額な移籍金や報酬を払って獲得した選手を活躍させられないことは、単なる現場の問題ではない。
組織として、高額な経営資産を十分に活用できていないということでもある。
だからこそ、スポーツ組織には、人材のポテンシャルをどのように引き出し、支払った価値以上の成果へ変えるのかという意識が強いのかもしれない。
ビジネスは、数字に寄りかかりやすい
スポーツの目的は勝利である。
勝敗は明確に計測できる。しかし、その勝利は、個別の定量データを積み上げるだけでは手に入らない。
一方、ビジネスにはMVVの体現や社会的価値の創出など、非金銭的な目的も存在する。それでも、最終的な経営成果は、売上、利益、成長率、株価などの定量指標へ帰着しやすい。
すると、その数字を作るために売上を商談数や単価へ、利益を稼働率や原価率へと分解し、KPIのロジックツリーを作る。
数字を分解し、それぞれを改善すること自体は必要である。
ただし、数字がきれいに構造化されると、それを改善すれば最終成果につながるという、分かりやすい物語が生まれる。
日々の活動を肯定しやすく、自分の成果も説明しやすい。何を管理すればよいのかも明確になる。
その安心感が強いからこそ、マネージャーは数字のロジックツリーに全乗っかりし、自分で人や組織について考えることを放棄してしまうことがある。
信頼をつくる。役割への納得感を高める。自信を回復させる。チームの空気を変える。メンバー同士の関係を整える。
こうした定性的なマネジメントは、PLのどの数字をいくら改善したのかを直接説明しにくい。成果が現れるまでに時間もかかり、誰の貢献なのかも曖昧になりやすい。
だから、それを実行するためには、数字で直ちに証明できなくても必要なのだと信じる判断力が要る。相当な自信を持って、人と組織に向き合わなければならない。
スポーツでは、その責任から逃げにくい。
どれだけ戦術やKPIを整えても、選手が動かなければ負ける。監督が信頼されなければ、チームは崩れる。役割が合っていなければ、優秀な選手も力を発揮できない。
スポーツは、数字を否定しているのではない。
大量の数字を使いながら、それでも数字だけでは人を動かせず、勝利にも到達できないことを理解している。
人を大切にすることは、優しくすることではない
人に向き合うマネジメントは、単に優しく接することではない。
スポーツでは、スタメンから外す、途中で交代させる、役割を縮小する、場合によっては構想外にするなど、勝利のために厳しい決断を下さなければならない。
監督の仕事は、全員を満足させることではない。
組織の目的に向けて判断し、その判断を選手に説明し、チーム全体をコントロールすることまで含めてマネジメントである。
重要なのは、全員を同じように扱うことではなく、扱いに違いがあっても、判断の公正さへの信頼を保つことだと思う。
なぜ今、この選手を起用するのか。なぜ交代が必要なのか。何を改善すれば状況が変わるのか。今の役割で、どのようにチームへ貢献できるのか。
厳しい判断であっても、基準が一貫し、説明があり、本人の人格や可能性まで否定しなければ、一定の納得をつくることはできる。
反対に、判断基準が不透明で、説明がなく、感情的に扱いが変われば、起用されていない選手だけでなく、起用されている選手まで監督を信じられなくなる。
一人に対する判断が、組織全体の心理状態へ波及する。
人を大切にするとは、全員の希望をかなえることではない。
勝利のために厳しい決断をしながらも、その人が持つ価値と可能性には最後まで向き合うことである。
スポーツは、実現したい組織の姿を見せてくれる
スポーツから学べるのは、勝利への執念や精神論だけではない。
個人能力の足し算では説明できない組織力が存在すること。人のポテンシャルは、リーダーや環境によって増幅も毀損もされること。戦術は、人間を通じて初めて成果へ変わること。
そして、組織マネジメントは、単なる管理や進捗確認ではなく、個人が持つ力を組織成果へ変換する仕事であること。
私がチームスポーツに興奮するのは、試合に勝ったからだけではない。
適切なリーダーが人に向き合い、まだ十分に評価されていなかった選手の力を引き出し、個人の能力の合計を超えるチームをつくる。
そこに、自分自身が実現したい組織マネジメントの姿が、現実の成果として体現されているからなのだと思う。
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