沁みるセリフノート:『アドレセンス』より──「パパは、ただ目をそらすんだ」
※本記事は Netflixドラマ『アドレセンス』の内容に触れています。
He’d just look away.
──目をそらした。
ジェイミーと父親との関係を尋ねる心理療法士ブリオニーに、彼はそう答える。
“He’d cheer me on and everything, but…
But when I… I’d fuck up, he’d just…
He’d just look away.”
──パパは僕を応援してくれた。
でも僕がミスすると、ただ目をそらすんだ。
その一言の裏には、父の“優しさ”と“不寛容”の境界が透けて見える。
ジェイミーは、父が 「情けない自分を見たくなかった」 と感じている
第1話で、取り調べを前に父エディは息子に言う。
“Look at me.
I’m gonna ask you once. Okay?
And no matter what’s happened,
no matter what you have or haven’t done,
I want you to tell me the truth.”
──パパを見ろ。
一度だけ聞くぞ。
何があっても、何をしたとしても
真実を話してほしい。
初めて、目をそらさずに尋ねる父。
けれどジェイミーは静かに、「やっていない」と答える。
父が望む息子像、そして見たくない現実から目を逸らす癖。
それをジェイミーは誰よりも理解していた。
だからこそ「情けない自分」を隠せば、父はいつものように“見ないふり”をしてくれる──
そう信じたかったのかもしれない。
見捨てられるのが、いちばん怖かったのだ。
第3話では、行き詰まった会話を終わらせようとする心理療法士ブリオニーにジェイミーが声を荒立てる。
“Look at me now!
You do not control what I do in my life.”
“Maybe I want you to.”
──こっちを見ろ!
僕の行動に口出しする権利はない
それを頭にたたき込め!
誰かに支配されることを拒みながら、
同時に“見ていてほしい”と願う。最後通牒のような叫び。
その相反する衝動こそ、思春期という名の裂け目なのだ。
彼は未熟で、脆く、守るべき存在である一方、
驚くほど聡く、鋭く、そして計算高い。
心理療法士ブリオニーが望み通り、
ホットチョコレートにマシュマロを入れてくれると無邪気に喜び、
サンドイッチの具が気に入らないと拗ね、
「僕のこと、好き?」と涙ながらに尋ねる──
甘え方を知っている子どもだ。
大人たちは皆、「彼は賢い子だ」と口を揃える。
取り調べでは、何を言わないべきかを冷静に判断し、
同じように罪を問われた友人ライアンが自宅で保護されていることに苛立ち、
ブリオニーには「別の先生のほうが楽だったのに!」と怒りをぶつける。
その知性と感情のねじれは、
父の誕生日に届いた“バースデーカード”と“告白”に象徴される。
父の似顔絵を描いた息子と、罪を認める息子──
「愛されたい子」と「裁かれたい子」が、ひとつの体の中でせめぎ合っている。
それは、
「すべてを見て、受け入れてほしい」という残酷な甘えか。
それとも、「目をそらされてきたことへの復讐」だったのか。
⸻
父にとって“目をそらした”のは、
かつて暴力で育てられた自分が「息子を殴らない父であろう」と
感情を抑えつけた結果だったのかもしれない。
けれどその沈黙は、
ジェイミーにとって“存在を否定された時間”でもあった。
小さな失敗に目を背けてきた父。
大きな過ちから目を背けたい息子。
二人は、真実を前に大きな代償を払うことになった。
不穏で、不安定で、不完全な、思春期の影。
罪を認めた彼は、
これからどんな大人になるのだろう。
──その問いに、誰も答えられない。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
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「沁みるセリフノート:アドレセンス」3回シリーズで、
物語の奥にひそむ“静かな揺れ”を、少しずつ辿ってみました。
よろしければ、ほかの回もあわせてどうぞ。
▶ 第1回 男子生徒たちの“ささやき”から始まったこと
▶ 第2回 アルゴリズムがもたらした、見えない影
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