すべては、手順どおりに
高校生のころ、僕は自分の部屋に結界を張った。
右手で手刀をつくる。空中に五芒星を切る。そして、呪文を唱える。
本屋で買った白魔術の本に書いてあった方法だ。
その本のタイトルは、もう覚えていない。
どんな表紙だったのかも思い出せない。それなのに、五芒星を切ったことは覚えている。呪文を唱えたことも覚えている。
名前を忘れた本の手順だけが、今も記憶の隅に残っている。
でも、白魔術から始まったわけではない。
僕が小学生のころは、ギリシャ神話が好きだった。
ゼウス、カストル、ポルックス。神と双子の物語。蠍から逃げるオリオンの話。夜空に輝く星々の話が面白くて、神話の本を読み漁った。おじいちゃんが天体望遠鏡を買ってくれて、月もよく眺めた。
小学6年生のとき、『RPG幻想事典』という本に出会った。
ギリシャ神話をもっと知りたくて手に取った本だった。ページをめくると、神話だけではなく、モンスターや魔法、さまざまな武器など、ゲームの世界につながるものが次々に出てくる。
そのころには、『ドラゴンクエスト』に夢中になっていた。いろいろな世界を冒険した。そして、SEGAの『ファンタシースター』に出会った。SFとファンタジーが同じ世界に同居していることに驚いたし、何より、3Dダンジョンを自分の足で歩いていく感覚が面白かった。
中学生になって、ファミコン版の『ウィザードリィ』に、ハマった。
暗い迷宮の奥深くまで探索し、罠を警戒し、戦い、時には仲間をロストする。でも、また潜る。
特に好きだったのが、呪文だった。
マロール、マハマン、ティルトウェイト。
呪文は言葉。何かの法則がある。この音とこの音を組み合わせたら、こんな魔法が使えるんじゃないかな。そんな新しい呪文を考えるのが楽しかった。
RPGは僕の興味を広げ、本を読む時間も増えていった。
『ロードス島戦記』を読み、『小説ウィザードリィ 隣り合わせの灰と青春』を読んだ。富士見書房の『ソード・ワールドRPGリプレイ集』も読んだ。
そして、僕の世界は、リアルに向かう。
『ジョジョの奇妙な冒険(第3部)』に登場するスタンドの多くがタロットカードをモチーフにしていた。だから、本屋でタロット占いの解説書を買った。僕を表すカードはジャッジメントだった。ただ、それを知りたかっただけ。でも、深くに潜ってしまった。タロットの次に四柱推命、そして手相の入門書。
友達を占った。
「当たりすぎて怖い」
と言われた。
やめた。
こうして高校生の僕が、白魔術の本を本屋で手にしたのは、とても自然なことだった。
──僕は自分の部屋に結界を張った。
そのころの僕はTRPGのゲームマスターだった。
リプレイ集で存在を知ったTRPGは、コンピュータのいらない対話のゲーム。ゲームマスターは、シナリオを自分で作り、世界を動かす係だ。
別名、神。
僕は、TRPG版の『ウィザードリィ』と『ソード・ワールド』の神になった。
シナリオは、B5の大学ノートに書いた。
真新しいノートの表紙に、油性ペンで「Wizardry」のロゴを書く。一文字ずつ丁寧に、真似して書いた。
新しいノートの表紙にそのロゴを書くたび、これから新しい冒険を作るのだと思うと、わくわくした。
何冊作ったのかは、もう覚えていない。
実家のどこかに残っているのかもしれないし、とっくに捨ててしまったのかもしれない。
でも、シナリオの作り方は覚えている。
まず、冒険の目的を決める。
ダンジョンで宝を探すのか。遺跡を調査するのか。行方不明になった人を捜すのか。それとも隊商の護衛をするのか。
次に地図を描いた。ダンジョンなら通路や部屋を描き、トラップを置く場所も決める。
物語が大きく外れないように、プレイヤーが取りそうな行動を予想して、物語の展開はいくつかに場合分けしておく。
それから、プレイヤーたちに声をかけるNPC(ノンプレイヤーキャラクター)を作った。
名前、年齢、種族、性格、能力値。
その人物が何を話すのかは大まかに決めておく。でも、全てのセリフは書かない。
プレイヤーが何を訊くかは分からない。
どのような行動を取るのかも分からない。
だから、NPCのセリフは、その場で考える。
それでも、名前や性格まで決めてあるNPCなら、不思議と返す言葉が浮かんだ。
あのころ読んだ本のなかで、『隣り合わせの灰と青春』は特別だった。
ゲームの中では記号だった冒険者たちが、小説の中では人間になっていた。
迷宮を歩き、成長する。
信じて、裏切る。
不安。
そして、決断。
何度も何度も、繰り返し繰り返し、読み耽った。
こんな小説を書いてみたい。
そう思った。
ずいぶん長い時間が過ぎた。
今、僕は小説を書いている。
書き始める前に、設定を練る。彼らの生年月日、家族構成、育った町、通った学校。物語の中では一行も使わないかもしれないことまで練り上げる。日付を決めれば、その日の天気まで調べる。
物語の舞台になる町を考え、地図も歴史も作る。
B5のノートは、パソコンのファイルになった。
油性ペンで書いたWizardryのロゴは、もうない。
それでも、設定を作り込む。
物語を書き始めると、いつも面白いことが起きる。
彼らが勝手に話し出すのだ。
こっちだ。
あっちだ。
僕は、彼らの会話を書き留める。
そして、僕は、次に何を話すのかを、聞く。

今回、作家としての自己紹介になるような、エッセイを書きました。
漂流図書館の館長から
『エッセイしりとり』というバトンを受け取りました。
漂流図書館に流れ着いた掌編、短編は、とても美しく、とても味わい深い物語ばかりです。いつも、館長の感性に惚れ惚れしています。
この受け取ったバトンは、最初、何だろうと思いました。
だけれども、いつものことなのですが、新しい企画は好奇心が刺激されます。
この『エッセイしりとり』
源流は、マイキーさんという方です。
僕は、こちらで、企画の内容をよく知ることができました。
本当に面白い企画ですね。
僕はこういうリレーエッセイも大好きです。
企画してくださって、ありがとうございます。
エッセイしりとりのルールを、マイキーさんのnoteから引用します。
参加の仕方は、期間中に誰かから「 #エッセイしりとり 」のバトンが回ってきた人です。
前の人の記事タイトルの最後の一文字から始まるタイトルをつけ、本文140文字以上のエッセイを書いてください。
※タイトルは文字数に含みません。文字数上限は3000文字以内がありがたいな😉本文(エッセイ部分3000文字内)、紹介文等は文字数には含みません。
そして記事には、「#エッセイしりとり」のタグをつけてください。タグがないと見つけられないので、審査対象外になります。
※「エッセイぽかったで賞」に参加の方は追加で「#初めてのエッセイ」タグも追加してください。
🌀 次の人へバトンを回す
書き終わったら、次にバトンを渡したい人を最大3人まで指名できます。指名した相手に通知が届くよう、その人の記事を一つ、自分の記事内へ貼ってください。
誰にも回さず、そこで終了しても構いません。また、別ルートから二度目、三度目のバトンが飛んできた場合も参加OKです!
「さっき書いたところや!」という苦情は、バトンを投げてきた人へお願いします|`∀´)Ψヶヶヶ
次のバトンを、どなたに託すのか悩みました。
無茶振りします。
ごめんなさい。
もし可能であれば、受け取ってください。
「に」で始まるエッセイをよろしくお願いします。
お忙しい場合は、無理されませんように。
お一人目は、白明さん。
僕と同じ志を持つ、大切な友人でもあり、作家としてライバルでもあります。
お二人目は、まことさん。
ライブハウス鹿音のオーナーさんで、ギターボーカルのイケオジ様です。
noteをみんなで育てようと、いつもあたたかなメッセージを届けられている穏やかな方です。
三人目は、蒼葉レイさん。
スタンドエフエムという音声配信で、レイさんが不登校について発信されていたのを聞いたことがきっかけです。レイさんの若者視点で社会をどのように見ているのか、とても興味深くnoteも拝読しています。
