〜橙のあかりにサクラサク〜長崎のローカルチェーン『牛右衛門』をぜんぶめぐりたい vol.8 時津店編
令和のいまでも、長崎のレストランチェーン『牛右衛門(ぎゅうえもん)』は良い。けれど、そう感じる理由は「おいしいから? 懐かしいから?」とあいまいだ。県内9店舗をめぐり、「良さ」の解像度をあげる旅へ。
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vol.1 大塔店〜フォルクスもジョイフルもロイヤルホストも見送ってきた、大塔ファミレス界隈のドン〜
vol.2 佐々店〜その額に、輝く「FAMILY」を掲げて〜
vol.3 浜町店〜地下1階の秘密基地えもん〜
vol.4 東長崎店〜団地をのぞむ天空のギャラリー〜
vol.5 松浦店~アジフライランチ難民のオアシス~
vol.6、7 諫早店→新戸町店ハシゴ~それは見事なU字型を描いて~
たまたま仕事で長与町を訪れる機会があった。今年で100歳を迎える方にじっくりとお話を聞いた。戦前、戦後、そして現在に至るまで。話をしてくださったのは、長い長い人生の中のほんの一欠片だけど、そのどれもが重くて肩に力が入った。言葉を失って質問が出てこない、見当違いなことを言ってしまったりもしたけど、その方はわたしの反応ひとつひとつに丁寧に返してくださった。
仕事の機会をくださった方にお礼を告げ、帰路につく。4時間も(時計を見て驚いた)こんなに集中して話を聞いたのは初めてで、とんでもなくお腹が空いていた。おみやげでいただいた袋いっぱいのみかんをひとつ食べ、少し胃袋を落ち着かせてから向かったのは牛右衛門 時津店だった。

オレンジのあかりにホッとする
時津町は長与町の真隣。長崎市へ行く際によく通るまちで、MrMaxのあるでかいショッピング街に一度行ったことがあるぐらい。四車線の広いロードサイドに牛右衛門の赤い看板はあった。

すっかり薄暗くなった。お店から放つオレンジの光にほっとする。


牛右衛門に行くと、まず嗅ぐのが香ばしいソースのかおりだ。やはりステーキとハンバーグのお店だなと思う。
ガラス一枚で隔たれたテーブル席に案内された。座ると同時に体が椅子にずずずと沈み、ふぅーと息がもれる。落ち着く。

すごく間取りがゆったりとしている。満席になっても心地いいだろうな。ベビーカーが通っても苦にならない通路の広さだ。

お冷グラスはクリアカラー。グリーンなのは長崎市だけかしら?

さきほどみかんを食べたせいか酸味を欲してしまっていた。50周年記念メニューのひとつ「レモンステーキ」に照準を定める。前回、諫早店で断念した方をここで回収だ!
風のような接客に気持ちがでっかく
呼び出しボタンを押そ……
お、「上を強く?」。ボタンの上部に小さな紙が貼られている。どうやら少し不具合があるようだ。一度テプラで印字したところの上に、わざわざ可愛い手描きで添えてある。

こういう一手間好きだなぁ……と思いながら改めてボタンを押そうと手を伸ばすと、女性のスタッフさんがサッとやってきた。
「すみません、調子が悪くて。ご注文ですね?」。それはもう風が吹くような自然なタイミングで、わたしは笑っていたと思う。清々しい気持ちでレモンステーキを指差した。
ハッと一瞬、今日の服装が白いシャツだったことを思い出したが、いいぜ、ソースの小さいひと粒やふた粒くらい受け止めてやるよ!
佐世保レモンステーキはアトラクションだ
一応地元の人間だけれど、敷居が高くてあまり馴染みのない佐世保レモンステーキ。
アツアツの鉄板に乗った薄切り肉に、スタッフさんが醤油ベースの和風ソースを回しかけた瞬間ジューッ!と香ばしい音、そして香り。気分があがる。これはもう遊園地のアトラクションと言ってもいい。


レアからウェルダンまで、お好みで火を通して食べよう。レモンを思い切りしぼって酸味を楽しむのだ!ソースをたっぷり絡めて白ご飯と一緒にハフハフいただこう。


余った白ご飯は、鉄板のソースにダンクして。最後の一滴まで味わいましょう。

牛右衛門のミニグラタンはほぼパフェ
一度ごちそうさまをしたはずなのに。
わたしはなんと、まだお腹が空いていた。ここでもう一品、通常のメニューだと尻込みしてしまうところだけど、ハーフ・ミニサイズなら罪悪感を感じない不思議だ。

「いいんだよ」と言われているかのような淡いカラーのページに惹き込まれ、わたしは遠慮なくミニグラタンを注文した。オーダーを聞いてくれた若い男性スタッフが、レモンステーキの鉄板を下げながら「ありがとうございます!」と2回言ってくれた。こちらも「任せろ!」と気合の入った会釈で返す。

わたしはすっかりここのグラタンに取りつかれてしまったのかもしれない。まず、グラタン自体、作るのが面倒だ。牛乳はそのまま飲みたいし、小麦粉のダマを作らないように混ぜるのがわたしは何よりも苦手なのだよ!!「人に作ってもらって嬉しい料理」の上位、いや、一位だね!!!
その面倒くささだけじゃなくて、牛右衛門グラタンは味が本当に好み。こんがりチーズとコクのあるホワイトソースに加えて、極めつけはマカロニの噛みごたえがアルデンテ(表現合ってる?)。
“デザート代わりのミニグラタン”という概念を牛右衛門は教えてくれた。成分的にほぼパフェだろう? だからきっと、大丈夫だ。
「ひと」を感じるレストラン
さっき、呼び出しボタンの不具合に対応してくれた女性のスタッフさんはたぶんリーダーだ。そして、彼女をサポートするかのように、若い男性スタッフ二人が立ち回っている。そのキレのある動きっぷりは、わたしの中でブルゾンちえみwithBを想起させた。
そんな彼らの接客にも満足し、ふくれたお腹を撫でる。
すると「あれ?」入るときには気がつかなかった、春満開のディスプレイが目の前に広がっていた。

見ると、「そつえん そつぎょう おめでとうございます」とある。桜柄のレジャーシートを2枚貼り合わせたボードには、桜の形をしたメッセージカードがぽつぽつと貼られていた。
それなりに色んなローカルチェーン店を巡ってきたつもりだけど、こんな素朴で、血が通ったものを見たのは初めてだなぁ……。
つい心を打たれて、わたしも一枚描いた。

もちろん誰に向けて、ということはないんだけど、だれかの幸せを願うことが、世界のどこかでだれかしらが、ずっと続けてくれたらいいと思いながら描いた。
カードは付箋になっていて、いざ貼ろうとするも粘着力が足りない。よし力を込めてもう一度、と構えたタイミングでスタッフの女性が再びサッとやってきた。「これ、うまく貼れないんですよ、ごめんなさい!」と丁寧にセロハンテープでくっつけてくれた。だれかに何かをしてもらう経験を二度も味わい、気持ちがじんわりとあたたまった。

ご飯を食べにきたのに花見のあとのような清々しい気分。佐世保までの道のりを走る体力と気力をチャージして、お店を後にした。



