
小鵬IRON、ついに量産へ――「走る・踊る」ではなく、人を覚えるPhysical AIを選んだ理由
[メンバーシップ限定]小鵬(XPENG)の人型ロボット「IRON」が、いよいよ量産直前の段階に入った。
小鵬集団は2026年9月22日、初となるロボット・サプライチェーン・パートナー大会を開催した。アクチュエーター、器用な動きを担うハンド、センサー、AIチップなど主要部品を手掛ける企業が集まり、関係者情報によれば、小鵬はすでにサプライヤーの工場監査と主要部品の選定を終え、量産に向けた供給体制の構築を進めている。
8月にはロボット事業が9億ドル超を調達し、投資後評価額は63億ドル超となった。
9月8日にはIRON向け自動化生産ラインが稼働し、最初の機体が自動化された最終組立を終えて、自ら歩いてラインオフした。
そして今回、サプライチェーンまで量産体制へ入り始めた。
ただし、今回より興味深いのは「IRONを何台作れるようになるのか」だけではない。
小鵬は同時に、量産するIRONをどのようなロボットにしようとしているのかを、かなり具体的に見せ始めた。
そこで強調されたのは、走ることでも、踊ることでも、アクロバットでもなかった。
人を見分ける。誰が話しているか理解する。その人の方を自然に向く。言語を切り替える。以前会った人を覚えている。そして、その人との過去の会話まで踏まえて応答する。
小鵬がIRONで競おうとしているのは、身体能力だけではない。人間社会の中で、人間と自然に関係を作るPhysical AIである。
「身体能力を見せるロボット」とは違う
中国の人型ロボット競争では、この1~2年でデモンストレーションの水準が急速に上がった。
歩行だけでなく、走る、跳ぶ、踊る、格闘する、転倒しても立ち上がる。運動会やスポーツ大会まで開催され、身体能力そのものがロボット技術の分かりやすい評価軸になっている。
もちろん、これらは重要である。現実世界で仕事をする以上、安定した歩行や姿勢制御、手足の協調はPhysical AIの基礎になる。
しかし小鵬が今回IRONで見せたものは、その競争とは少し違う。
IRONを紹介した映像では、3人のテスト参加者がロボットを囲み、順番に話しかける。
参加者が位置を移動すると、IRONも話者に合わせて身体の向きを変える。
小さな角度なら頭を動かし、中程度なら腰を回し、大きく位置が変われば身体全体で向き直る。
単に音が来た方向へ機械的に旋回するのではない。
人間同士が会話するとき、無意識に相手へ身体を向ける動作そのものを再現しようとしている。
9個のマイクと映像から「誰が話しているか」を判断
この動作には複数のシステムが使われている。
IRONは9個のマイクによって音の到来方向を把握し、さらに映像から唇の動きを認識する。
音声と視覚をマルチモーダルに組み合わせることで、「声が聞こえた」だけではなく、複数人の中で誰がいま自分に話しかけているのかを特定する。
その結果を運動制御系へ渡し、頭、腰、脚を協調して動かす。
人間ならほとんど意識することのない行為だが、ロボットにとっては、音響認識、視覚認識、マルチモーダルAI、運動制御をリアルタイムで接続しなければ成立しない。
小鵬が「極致擬人」、つまり徹底的に人間らしいロボットを作ると繰り返してきた意味が、外形や歩き方だけではなく、こうした社会的な身体動作にも広がり始めている。
言語を変えても、モードを切り替えない
もう一つ披露したのが、多言語のシームレスな切り替えである。
会話する人が途中で言語を変えても、「英語モードに変更」といった指示は必要ない。
相手が使う言語を認識し、そのまま同じ言語で返答する。
小鵬によれば、基盤モデル自体に多言語能力を持たせたうえで、ポストトレーニングによって自然な表現を学習し、さらに複数言語の学習データをバランスよく投入している。
目指しているのは「多言語対応機能」ではない。
人間同士なら、相手が別の言語へ切り替えれば、話せる人は自然にそれへ合わせる。
IRONにも、機能を呼び出していると感じさせない会話をさせようとしている。
顔だけではなく「その人との関係」を覚える
今回、最も興味深いのが人物記憶である。
テストでは、3人が一度IRONと会話した後、立ち位置や服装を変更する。
それでもIRONは人物を識別し、以前の会話内容を思い出す。
ある人物については、以前に小鵬G9Lへ興味を示していたことまで覚えている。
小鵬によれば、初対面の際に顔と声紋という二つの特徴を取得し、さらに会話内容を組み合わせて、その人物固有の「デジタル記憶」を形成する。
再会すれば、その後の会話も追加され、記憶は継続的に更新される。
これは単なる顔認証とは意味が異なる。
この顔はAさんである、だけではない。
Aさんは以前G9Lについて質問した。家族構成はこうで、週末にはキャンプへ行き、こういうクルマを探していた、というように、人物の識別と過去の対話を結び付ける。
人間と継続的な関係を持つロボットを作るのであれば、この違いは大きい。
最初の仕事は「小鵬の販売員」
そして、この能力を何に使うのか。小鵬が示した最初の答えの一つが、自動車販売店のスタッフである。
IRONは3基の自社開発TURING AIチップを搭載し、有効演算能力は2,250TOPS。物理AIモデルを端末側で動かす。
販売店では、ローカルに置かれた商品知識データベースとオンライン検索を組み合わせ、来店客からの質問へ回答する。
今回のデモでも、家族5人でキャンプへ行くため30万元以内のSUVを探している、免許を取得したばかりなので見た目がよく駐車しやすいクルマが欲しい、といった相談を受け、それぞれに車種を提案した。
ここに人物記憶を組み合わせれば、次回来店時にはゼロから聞き直す必要がない。
前回どの車種を見たのか、何を重視していたのかを覚えた状態から接客を再開できる。
人間の販売員をそのまま機械へ置き換えるというより、LLMの顧客理解とCRM的な長期記憶に、人間と同じ空間を動く身体を与えると考えた方が近い。
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