
ホンダ、中国事業の開発原則を転換――「中国技術・中国コスト・中国スピード」で日本主導から現地主導へ
[無料]ホンダが中国事業の「現地化」を、部品調達や中国専用装備といった従来の意味から、もう一段深いところへ進めようとしている。
ホンダ中国がこのほど開いた現地メディアとの交流会には、中国本部長の五十嵐雅行氏と、研究開発・技術を担当する伊藤裕直氏がそろって出席した。新浪汽車が9月22日に報じた交流会の内容を見ると、今回語られたのは新型車そのものではない。中国で販売するクルマを、誰が企画し、誰が技術を選び、どこから部品を調達し、どのプラットフォームで、どの速度で開発するのか。 ホンダはその仕組み自体を変えようとしている。
中心に据えられた言葉が、「中国技術・中国コスト・中国スピード」である。
中国は「売る市場」から「変革する市場」へ
五十嵐氏は、中国市場の意味は販売だけにあるのではなく、電動化と知能化の変革を進める重要市場でもあり、この位置付けは今後も変わらないと説明した。
一見すると、外資メーカーが繰り返してきた「中国重視」の表明にも聞こえる。しかし今回、その言葉には具体的な組織改革が伴っている。
新浪汽車によれば、従来は日本でグローバル車の商品を定義し、中国へ導入することが基本だった。中国側から市場ニーズを伝えることはできても、それを採用するかどうかの最終判断は日本側にあり、急速に変化する中国市場では、要求を伝え、判断を待ち、実装するまでに市場のタイミングを逃すことがあったという。
これを、中国でユーザー需要を判断し、中国で必要な技術を選択し、中国のコスト構造で商品を成立させる体制へ変える。現地化の起点を生産や調達から、商品企画と意思決定まで遡らせるわけである。
ホンダが認めた三つの問題
研究開発を担当する伊藤氏は、中国事業が抱える問題をさらに具体的に説明した。
中国市場の変化に素早く対応できなかったこと、中国ユーザーが本当に期待する商品をタイムリーに提供できなかったことを踏まえ、今後解決すべき課題として、
中国のスマート化技術を十分活用すること
中国ユーザーが受け入れられる価格を実現すること
中国メーカーに匹敵する開発・技術投入速度を実現すること
を挙げた。これを整理したものが「中国技術・中国コスト・中国スピード」である。
つまりホンダが中国で直面している問題を、単純に「EV投入が遅れた」とは捉えていない。
技術選択、価格、開発速度、意思決定という、クルマを生み出す仕組みそのものが中国市場に適合していなかったという認識である。
MomentaとHuawei採用も、中国側で決める
第一の改革は、技術選択の決定権である。
今後、中国向け商品にどの技術を採用するかは、中国側で判断・決定する。
その象徴がMomentaと華為(Huawei)である。ホンダは両社と戦略提携を結んでおり、Momentaのナビゲーション型運転支援とHuaweiのスマートコックピット「HarmonySpace」を、2027年発売車から順次導入する。
重要なのは、単に「日本メーカーが中国製ADASを採用した」という話ではない。
中国市場で必要な技術について、すべてをホンダ自身で開発することにこだわらず、中国で最適な技術を選び、その選択を中国側で完結させる体制へ移ろうとしている点にある。
新浪汽車によれば、こうした改革によって全体の開発期間はすでに従来からほぼ半分に短縮されているという。
しかし、Momenta、Huaweiはすでにトヨタ、日産も中国で採用している。そしてそれが、販売急増などを伴う成果として見たら、ものすごくうまく行っているとは言い難い。今はむしろ種まきの段階だろう。ホンダはここに、これから参入することになる。
中国人が初めてEV開発のプロジェクト責任者に
第二は人事である。
ホンダは現在開発中の新型EVで、初めて中国人社員をプロジェクト責任者に起用した。2027年の発売を目指す。
研究開発部門では現地管理職の比率も約30%まで高め、中国側のチームが自ら解決策を検討し、提案し、判断できる体制へ移行する。
ここは技術の現地調達以上に大きな変化かもしれない。
中国に研究開発拠点があっても、最終的な商品判断を日本本社が握っていれば、現地チームが市場変化を把握してから商品へ反映するまでには時間がかかる。
今回ホンダが移そうとしているのは、作業そのものではなく決定権である。ちなみにトヨタはこの中国決定権を2023年の時点で中国現地に移譲している。現時点までに3年の遅れがある。
2028年発売車は中国調達率99%以上へ
第三はサプライチェーンである。
本田は2028年に中国で発売する車両について、現地調達率99%以上を目標とする。
MomentaやHuaweiのような中国企業の先端技術を利用するだけではない。他メーカーとも共通化できる部品を積極的に採用し、開発工数とコストを減らす。
ここで興味深いのは、ホンダが中国のサプライヤーに従来のホンダ基準への全面適合を求めるだけではなく、ホンダ自身の開発要求も見直すとしていることである。
中国で一般的な標準仕様とホンダ独自の開発要求が一致しない場合、安全や品質など絶対に守るべきものと、ユーザー価値には直接結びつかない一方で開発時間とコストを増やしているものを切り分ける。
「中国コスト」とは、単なる部品の値下げではない。設計要求、共通部品、認証・開発プロセスまで含めてコスト構造を作り直すという話になっている。
東風・広汽の「プラットフォーム」を使う
第四の変化は、さらに踏み込んでいる。
ホンダは今後、東風集団と広汽集団それぞれのプラットフォームを使った商品を投入する。
2027年には、動力ユニットを含む協業先の技術を採用した最初のNEVを発売する計画で、その後ラインアップを拡充する。
開発も、ホンダから合弁会社へ技術を渡す従来型ではなく、中国側パートナー+合弁会社+ホンダによる三者共同開発へ移行する。
これまで中国側の合弁パートナーは、ホンダの車両を中国で生産・販売する役割が中心だった。今後は中国側が持つ車両プラットフォームやパワートレーン、研究開発能力そのものが「中国のHonda」を作る構成要素になる。
しかしこれも、トヨタ、日産が多かれ少なかれすでに進めており、bZシリーズやNシリーズが成立し始めている。ここでもやはりホンダの周回遅れ感は強い。
それでも「ホンダ」であるために
ここまで進めれば、逆の問題が生まれる。
プラットフォームは東風や広汽、運転支援はMomenta、コックピットはHuawei、部品の99%以上は中国調達となったとき、そのクルマのどこがホンダなのかという問題である。
ホンダ自身もここを第五の改革テーマとしている。
安全、品質、走る楽しさ、空間価値、デザインといった従来のホンダの価値を残しながら、中国の技術を組み合わせる。その一つとして、新しいスマートコックピットには「Honda AI Agent」を導入する構想も示した。
単に音声命令へ応答するのではなく、ユーザーを理解し、能動的に働きかけ、利用データやユーザーの嗜好をもとにOTAで体験を継続的に変えていくことを目指す。
ただし新浪汽車も指摘するように、AI Agent自体はすでに中国車では珍しくない。Momenta、Huawei、中国製プラットフォームを組み合わせただけでは「ホンダらしさ」は生まれない。
そもそもHuaweiのHarmonySpaceはデフォルトでAIエージェント「小芸(XiaoYi)」がついている。トヨタや長安AVATRなどはこの名称を変更し、かつ自社独自のチューニングを行っている。それとHonda AI Agentとは何が違うのか、今回の説明ではわからない。
まずはウェイクワードを中国でもバカみたいに連呼している「Honda(ホンダ)」には絶対にしないこと、中国消費者が慣れている「本田(Bentian)」にすること、これがまず第一歩であり、それによってホンダの覚悟の片鱗が見える可能性がある。
中国技術を使いながら、それを一台のホンダとしてどう統合するか。
むしろ現地化を99%まで進めた先で、この問題がより重要になる。
今後2年間に11車種、改革の答えは2027年から
こうした組織改革を実際の商品として試すことになるのが、今後2年間に中国へ投入する11車種である。
方針は「NEVを全面的に加速しながら、エンジン車も安定的に進化させる」という二本立てである。
エンジン車側でも次世代ハイブリッドを拡充するだけでなく、グローバルモデルをそのまま中国へ持ち込む方式から、中国ユーザーに合わせて商品を作る方式へ変える。
一方、NEVでは二つの開発ルートを走らせる。
一つは東風・広汽など中国側パートナーのプラットフォームや技術を利用する共同開発車。もう一つはホンダ自身が開発しながら、中国人プロジェクト責任者を置いて中国主導を強めるモデルである。いずれも最初の成果が見えてくるのは2027年となる。
「中国専用車」ではなく「中国でクルマを作る会社」へ
今回の交流会で明らかになった変化を、Momenta採用、Huawei採用、99%現地調達と個別に見ると、ホンダが中国メーカーへ接近しているだけにも見える。
しかし一連の改革をつなげると、より大きな構造変化が見えてくる。
これまでの基本形は、日本で商品を定義する → 日本で技術を決める → 中国市場向けに適応する → 中国で生産・販売するだった。
これを、中国で需要を判断する → 中国で技術とプラットフォームを選ぶ → 中国で開発を主導する → 中国のサプライチェーンで成立させる → ホンダの安全・品質・走りを最後まで組み込むという構造へ変えようとしている。
2026年4月の北京モーターショーでも広汽ホンダは、従来の一方向の技術導入から「技術共創」へ移行し、中国市場を基準に商品戦略を決める方針を示していた。今回のホンダ中国の説明は、それをMomentaやHuaweiの採用だけでなく、意思決定、人材、調達、プラットフォーム、開発基準まで含めた全社的な仕組みとして具体化したものと見ることができる。
ホンダが掲げた「中国技術・中国コスト・中国スピード」は、単なる中国市場向けのキャッチフレーズではない。
日本で作ったホンダ車を中国向けに変えるのではなく、中国でホンダ車そのものを作る。
今回の交流会で語られた改革の核心は、そこにある。
そして本当の難題は、その先である。中国で決め、中国のプラットフォームを使い、中国のAIを載せ、中国部品を99%以上使いながら、それでもユーザーが「これはホンダだ」と感じる商品を作れるのか。
そしてその「ホンダ」が本当に中国の消費者に刺さるのか?
その答えが、2027年から実車として出始めることになる。
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