
東風ホンダ「速さより時間」――中国NEV高速開発に12万回の反復検証で答える
[メンバーシップ限定]中国自動車市場で、これまで競争力そのものと考えられてきた「速さ」に対する見直しが始まっている。
新車投入を速くする。新技術を速く量産する。OTAで速く機能を追加する。市場の反応を見ながら速く改善する。
中国NEVが世界でも突出した商品進化を実現した背景には、こうした高速開発モデルがある。一方、その速度が上がるほど、一つの問いも大きくなってきた。
自動車メーカーは、どこまで検証してからユーザーへクルマを渡すべきなのか。
2026年9月4日、東風ホンダと寰球汽車集団が開催した品質をテーマとする座談会で、東風ホンダ執行副総経理の曹東杰氏は、この問いに極めて古典的な答えを示した。
ライトのスイッチを12万回操作する。ドアを6万回以上開閉する。16万kmの排出耐久試験を行い、さらに24万km相当の耐久検証まで実施する。
派手なAIモデルでも、演算能力でも、超急速充電でもない。
時間をかけ、繰り返し、壊れないかを確かめる。
東風ホンダが今回語ろうとしたのは、まさにそこだった。
政府の「速成車」対策から始まった議論
今回の座談会の背景にあるのが、中国政府が進める「道路機動車両製品の生産一致性および品質向上特別行動」である。
座談会では、この政策が単純に開発期間の短い「速成車」を取り締まるものではなく、主として四つの問題を対象としていると整理した。
生産一致性、信頼性、耐久性、そして新技術の試験・検証である。
そこで投げかけられた問いが興味深い。
クルマをユーザーへ渡す前に、どの問題までメーカーが発見しておくべきなのか。どのリスクまで実験室に残しておくべきなのか。そして、どの責任を消費者へ転嫁してはいけないのか。
つまり問題は、開発期間が長いか短いかではない。
市場投入前にメーカーが負うべき責任を、どこまで果たしたのか。
これが今回の議論の出発点だった。
「クルマは耐久消費財である」
曹氏が繰り返したのは、極めて単純な原則である。
クルマは耐久消費財である。
スマートフォンなら1~2年で買い替える人もいる。しかし、自動車は違う。多くのユーザーが10年、15年という単位で使う。
だから東風ホンダは、購入直後に新しく感じられるかだけではなく、長期間使った後にも価値を維持できるかを前提として開発すると曹氏は説明した。
ここに、現在の中国自動車市場との時間軸のずれがある。
新車市場では、数カ月単位で新しいAI機能が登場し、1年も経てば次世代技術が語られる。
しかし、自動車そのものの寿命は急に短くなったわけではない。
座談会でも、スマートフォンなら4~5年で買い替え時期に入る一方、自動車にとって4~5年はまだ「壮年期」であり、10年、場合によっては15年使われる商品だとの議論があった。
その前提に立てば、発売時に便利だった新機能が、5年後、10年後にも安全か、故障せず使えるかまで考える必要がある。
ライトを12万回、ドアを6万回
その考え方を最も分かりやすく示したのが、今回提示された耐久試験の数字である。
ライトのスイッチは12万回。
ドアは6万回以上開閉する。
さらに完成車では複数の耐久試験を行い、16万kmの排出耐久、F8モードによる24万km相当の耐久検証なども実施するとした。
東風ホンダに関する公開情報では、このほか中国ユーザーの使用状況を18カ月かけて調査し、36種類の走行パターンを設定、家庭ユーザーが6年間で11万km以上走る条件を想定した検証を行っているとも説明されている。
これらは、新車発表会では目立ちにくい数字である。
0~100km/h加速が何秒なのか。航続距離が何kmなのか。チップが何TOPSなのか。充電が何分なのか。
そうした数字は競合車と簡単に比較できる。
一方、「ライトのスイッチを12万回操作した」と言われても、その価値は購入時にはほとんど体感できない。
しかし東風ホンダが今回強調したのは、まさにそこだった。ユーザーから見えない反復が、ユーザーから見える信頼性を作る。
「精・優・可・耐」の最後が最も難しい
曹氏は東風ホンダの品質に対する考え方を、四つの文字で説明した。
「精・優・可・耐」である。
日本語として整理すれば、製品を精緻に作り、性能を高め、信頼できるものとし、それを長期間維持するという考え方になる。
中でも難しいのが最後の「耐」、すなわち耐久性である。
1年間、春夏秋冬を乗り切ればよいわけではない。10年、15年と使用された後にも成立しなければならない。
曹氏は北京を訪れた際、2007年型のSUVを目にしたという。約19年が経過してもユーザーが使用し続け、車両も良好な状態に見えたとして、こうした長期使用こそ品質の価値を示すものだと説明した。
新技術は短期間でも開発できる。
しかし、10年後にも壊れないという実績だけは、10年という時間を飛び越えて作ることができない。
今回の東風ホンダのメッセージで、「時間」が重要になる理由である。