
米軍、沖縄・嘉手納基地へのBYD車両乗り入れを禁止へ|世界自動車朝刊2026年10月24日
今日の結論
世界の自動車産業では、完成車の開発や販売だけでなく、生産拠点の配置、労働コスト、現地調達、運行サービスまで含めた事業構造の再編が進んでいる。
10月23日、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)では、経営側と労働組合の対立が一段と強まった。労組は、会社側が賃金関連協約の解除を撤回しなければ、2027年1月以降のストライキも辞さないと警告した。
VWは2030年までに大規模な人員削減とコスト削減を進めようとしている。しかし、その実行には労働条件の見直しが必要となり、経営再建そのものが労使交渉の影響を受ける状況になっている。
一方、BYDはブラジル工場の年産能力を30万台から60万台へ倍増させる計画を進めている。
重要なのは、生産能力の拡大だけではない。2027年初めまでに現地調達比率を50%超へ引き上げ、ブラジルを周辺国への輸出拠点として活用する構想である。
奇瑞汽車も、海外向け車両の現地生産比率を高める目標を明らかにした。中国メーカーの海外進出が、完成車輸出から現地製造へ移行する動きが具体化している。
英国では、百度(Baidu)とLyft傘下のFreenowが、ロンドンで自動運転車RT6の実演を行った。2027年の無人Robotaxi商用化を目指している。
これらの動きに共通するのは、技術や商品を開発する段階から、それを地域ごとの制度、コスト、労働環境、利用者の需要に適合させる段階へ競争が広がっていることである。
VW、労組が2027年1月からのストライキを警告――大規模再編、賃金協約の見直しで対立
VWとドイツ最大の産業別労働組合IGメタルは10月23日、労働協約の見直しをめぐる協議を行った。
協議後、IGメタルの交渉責任者トルステン・グレーガー氏は、VWが10月末までに賃金関連協約の解除を撤回しなければ、労働争議に向けた手続きを進めると警告した。
現行の取り決めでは、2026年末までストライキが制限されている。そのため、実際にストライキが行われる場合は2027年1月以降となる。
VWは9月30日、複数の労働協約を12月31日付で終了させると通告していた。
対象には労働時間や休暇手当などに関する取り決めが含まれる。ただし、2024年末に合意した将来協約と、その雇用保障規定は今回の解除対象ではない。
10月23日の協議でも経営側は解除方針を維持した。双方は11月24日にエムデン、12月15日にツヴィッカウで正式交渉を行うことで合意している。
コスト削減と雇用保障を両立できるか
VWは2030年までに、グループ全体で最大10万人規模の人員削減を進める可能性がある。
また、2030年までに製品開発、調達、生産などのバリューチェーン全体で約200億ユーロ、間接費で追加110億ユーロのコスト削減を目指している。
今回の公式発表では、VW AGのドイツ拠点について、従来合意済みの3万5,000人超の削減に加え、さらに1万2,000人を削減する計画が説明された。
会社側は、経済環境が2024年の労使合意時から大きく悪化したと主張する。
一方、労組側は、経営側が過去の合意を軽視していると批判している。
ここで重要なのは、今回の対立が単なる賃上げ交渉ではないことである。
VWは車種の整理、生産能力の削減、組織の簡素化を進めようとしている。その過程で、工場ごとの人員配置、労働時間、給与体系などを変更する必要が生じている。
しかし、ドイツの自動車産業では労働組合と従業員代表の影響力が大きい。経営側が計画を決定しても、それだけで実行できるわけではない。
今回の新規性は、VWの大規模再編計画が、具体的なストライキの可能性を伴う労使対立へ進んだことである。
今後は10月末の期限、11月24日の正式交渉、2027年1月以降の労働争議の有無が焦点となる。
BYD、ブラジル工場の年産能力を60万台へ倍増計画――現地調達50%超、南米輸出拠点へ
BYDは10月23日、ブラジル・バイーア州カマサリ工場について、年産能力を現在計画する30万台から60万台へ倍増させるための許認可取得を進めていることを明らかにした。
Reutersがブラジル法人のアレシャンドレ・バルディ上級副社長への取材で報じた。
同工場では現在、プレス、溶接、塗装設備の整備が最終段階に近づいている。
BYDは2026年末までに月産2万5,000台を目指している。
一方、バルディ氏によると、ブラジルでの需要は月平均約3万台に達しており、現地生産能力が需要に追いついていないという。
同氏は、月間5,000~6,000台程度の追加販売機会を逃しているとの認識を示した。
ただし、これはBYD側が説明した需要と供給能力の差であり、すべてが確定受注として積み上がっていることを意味しない。
また、年産60万台への拡大時期は明らかにされていない。
現地生産の次は部品調達
今回の発表で特に重要なのは、現地調達比率に関する目標である。
BYDは2027年初めまでに、ブラジル国内で調達する部品の比率を50%超へ引き上げる方針を示した。
現地生産比率に関する規制上の条件を満たし、ブラジル国内メーカーとしての認定を受けることを目指している。
これによって、ブラジルから周辺国へ車両を輸出する際の条件を整える。
ブラジルは南米最大の自動車市場であり、完成車の生産拠点としても重要である。
しかし、中国から部品を輸入して最終組立を行うだけでは、現地生産による経済効果や地域内貿易制度の恩恵を十分に得られない場合がある。
そのため、プレス、溶接、塗装といった工程を現地化するとともに、部品調達網を整備する必要がある。
ただし、50%という数値については、どの部品を対象とし、金額、重量、付加価値のいずれを基準に算定するのか、詳細な確認が必要である。
9月のブラジル販売は2万2,209台
BYDによると、2026年9月のブラジル新車登録台数は2万2,209台で、市場シェアは8.5%となった。
同月のブランド別上位はフィアット、VW、GMであり、BYDはそれらを追う立場にある。
BYDは2030年までにブラジル最大の自動車メーカーになるという目標を掲げている。
ただし、販売台数を拡大することと、ブラジルで利益を確保できることは別の問題である。
現地工場の設備投資、部品調達、物流費、販売金融、アフターサービスなどを含めた事業採算が重要になる。
今回のBYDの動きは、中国からの完成車輸出を増やすだけでなく、南米の既存自動車メーカーと同じように、地域内の生産・調達・輸出体制を構築しようとするものである。
今後は、年産60万台への拡張許可、現地調達比率、実際の生産台数、ブラジルからの完成車輸出実績を追跡する必要がある。
奇瑞汽車、海外向け車両の現地生産比率を2030年に70%へ――輸出中心から海外製造へ転換
奇瑞汽車は10月23日、安徽省蕪湖市で開催したイベントで、海外生産に関する新たな目標を明らかにした。
同社の張貴兵副総裁によると、海外向け車両のうち海外で製造する車両の比率は、2026年に約48%となっている。
これを2026年末までに50%超、2027年に60%、2030年には70%へ引き上げる計画である。
張氏は、現地生産を進める目的について、単に現地市場で車両を販売するだけでなく、雇用創出や現地技術との協力も重視すると説明した。
ただし、Reutersの記事では、この比率を「輸出量に対する海外生産車の比率」と表現している。
通常、中国国外で製造した車両は中国からの完成車輸出には含まれないため、この数字を厳密に評価するには、奇瑞が分母としている海外向け供給台数の定義を確認する必要がある。
少なくとも、同社が海外市場向けの供給を中国国内生産から海外現地生産へ移そうとしていることは明確である。
工場を持つことと、現地化することは違う
中国メーカーの海外展開では、海外工場の数や計画生産能力が注目されやすい。
しかし、現地生産には複数の段階がある。
中国で製造した部品を海外で組み立てるKD生産と、主要部品の調達、車体製造、塗装、研究開発などを現地で行う生産体制では、産業上の意味が異なる。
CHINA CASEが9月20日に公表した中国メーカーの海外生産能力に関する分析では、2026年の計画年産能力約685万台のうち、約88%がKDなどの形態であり、本格的な現地化に分類される能力は約12%と整理されている。
ただし、これは中国メーカー全体の計画生産能力に関する集計であり、今回の奇瑞汽車の海外向け供給比率とは直接比較できない。
したがって、奇瑞が2030年に70%という目標を達成したとしても、それだけで部品調達や開発機能まで70%が現地化されたことにはならない。
今後は、生産台数とともに、現地調達率や工場の実際の製造工程を確認する必要がある。
充電・蓄電インフラ、Robotaxiにも進出
奇瑞汽車は同日、海外事業の新たな展開についても説明した。
2027年から英国、スペイン、タイなどで急速充電設備と蓄電設備の建設を始める計画である。
また、Robotaxiについては、2027年にアラブ首長国連邦で最初のサービスを開始する方針を示した。
これらは現時点では計画であり、設備の完成や商用運行が確認されたわけではない。
しかし、完成車の製造・販売だけでなく、エネルギー補給やモビリティサービスへ事業領域を広げようとしていることは注目される。
今回の奇瑞汽車の発表は、中国メーカーの海外展開を輸出台数だけで評価することが難しくなっていることを示している。
今後は、中国からの輸出台数、海外現地生産台数、現地調達率、海外事業の収益性を分けて追跡する必要がある。
百度Robotaxi、ロンドンで実車を公開――2027年の無人商用運行へ、欧州で競争激化
百度の自動運転配車サービスApollo Goと、Lyft傘下のFreenowは、ロンドンで専用自動運転車RT6を公開した。Reutersが10月23日に報じた。
両社は2027年にロンドンで運転者のいないRobotaxiサービスを開始することを目指している。
ただし、ロンドンでの実車試験そのものは今回始まったわけではない。
両社は2026年7月28日、安全運転担当者を同乗させたRT6の公道試験を開始したと発表している。
今回の新規性は、試験が進む中で、実際の車両を使った報道向けの実演が行われ、商用化に向けた運行規模や規制対応について具体的な説明があったことである。
ロンドンは自動運転にとって難しい都市
Freenow英国責任者のダニー・オゴーマン氏は、ロンドンの道路環境について、狭い道路、速度抑制設備、時速20マイル制限の道路が多いことを挙げた。
同社は、こうした環境が自動運転システムの検証に適していると考えている。
また、ロンドン交通局と協議を進めており、今後の規制上の指針を待っている。
2027年の商用化を目指しているものの、当初の車両規模は数十台程度を想定している。
したがって、現時点でロンドン全域を大規模な無人車両が走行する計画ではない。
Waymo、Wayveとの競争
ロンドンでは複数の自動運転企業が商用化を目指している。
Waymoは2026年末までに、ロンドンで運転者のいない配車サービスを開始することを目指している。
また、英国のWayveはUberと協力し、9月に安全運転担当者を同乗させたRobotaxiサービスを開始した。
百度とFreenowの取り組みも、こうした競争の中に位置付けられる。
ただし、各社の技術方式、運行可能地域、安全運転担当者の有無、商用サービスの条件は異なる。
単にRobotaxiが走行しているというだけでは、各社の商用化段階を比較できない。
また、Freenowは既存のタクシーや配車サービスと自動運転車を同じプラットフォームで提供する方針である。
自動運転車が普及しても、既存のタクシーを直ちに置き換えるという構想ではない。
今回の動きは、自動運転の競争がAIモデルや車両性能の開発から、現地規制への対応、配車プラットフォームとの連携、実際の運行サービスの構築へ進んでいることを示している。
今後は、2027年の無人運行開始、実際の稼働台数、運行地域、利用者数、採算を確認する必要がある。
今日の小さな変化
米軍、沖縄・嘉手納基地へのBYD車両乗り入れを禁止へ
米軍は10月23日、沖縄県の嘉手納基地について、BYD製車両の乗り入れを禁止すると明らかにした。
禁止措置は10月26日から実施される予定である。
米軍側は安全保障上のリスクを理由としているが、具体的にどの機能や情報管理上の問題を懸念しているのかは明らかにしていない。
米国防総省は2026年6月、BYDを中国軍との関係が疑われる企業のリストに加えていた。BYDはこの指定を否定している。
今回の措置は、米軍基地という特定施設での車両利用制限であり、日本国内におけるBYD車の販売や一般道路での走行が禁止されたわけではない。
ただし、コネクテッドカーの安全保障上の評価が、車両の調達や利用可能な施設に影響する具体例となった。
今日の読み筋
10月24日の世界自動車朝刊では、世界の自動車産業が直面する二つの方向性が明確になった。
一つは、既存の生産体制を維持するためのコスト削減である。
もう一つは、新しい地域市場へ進出するための投資と現地化である。
VWは前者を象徴している。
同社は長年にわたって構築してきたドイツ国内の生産・雇用体制を見直そうとしている。
しかし、その実行には労働組合との合意が必要であり、経営側が想定する速度で再編を進められるとは限らない。
一方、BYDはブラジルで生産能力を拡大し、部品調達を現地化しようとしている。
奇瑞汽車も、海外市場向けの供給を中国国内生産から海外現地生産へ移す方針を明確にした。
ここには対照的な構図がある。
既存の大手メーカーは、過去に構築した巨大な生産能力と雇用体制を市場環境に合わせて縮小・再編しようとしている。
一方、海外市場で事業を拡大する中国メーカーは、新たな生産拠点と調達網を構築しようとしている。
ただし、この構図を単純に欧州メーカーの衰退と中国メーカーの成長として捉えることは適切ではない。
BYDや奇瑞汽車も、海外工場の稼働率が低下すれば、既存メーカーと同じ固定費負担に直面する。
また、現地生産を拡大すれば、現地の労働法制、労働組合、部品メーカー、政府との関係も重要になる。
つまり、中国メーカーが海外生産を拡大するほど、VWなど既存のグローバルメーカーが直面してきた経営課題を、自ら引き受けることになる。
今回のBYDと奇瑞汽車の発表は、その移行が具体化していることを示している。
一方、百度のロンドンRobotaxi事業は、生産拠点の問題とは異なる競争を示している。
自動運転技術を持っていても、それだけでは海外で配車サービスを運営できない。
現地の交通規制、運行許可、保険、利用者対応、車両管理などの仕組みが必要になる。
そのため、百度はFreenowという既存の配車事業者と協力している。
ここでも、技術そのものより、技術を現地市場で事業として成立させる能力が重要になる。
そして嘉手納基地でのBYD車両利用制限は、もう一つの条件を示している。
コネクテッドカーが国境を越えて販売されるようになれば、車両の機能や価格だけでなく、データ管理や安全保障上の評価も市場アクセスに影響する。
今回の措置は限定的だが、今後、同様の考え方が他の施設や調達制度へ広がるかどうかは確認する必要がある。
世界の自動車産業は、技術を開発し、車両を製造し、輸出するだけで成長できる段階から、各地域で生産・調達・雇用・規制対応・サービスを一体的に運営する能力が問われる段階へ移りつつある。
10月24日の重要ニュースは、その変化をドイツ、ブラジル、中国、英国、日本という異なる地域から示している。
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