
「店まで」から「棚の商品まで」――Hesai×Amap、地図をPhysical AIの3D世界へ
[メンバーシップ限定]LiDAR大手の禾賽科技(Hesai Technology)が、7月の世界人工知能大会(WAIC 2026)で打ち出した「Physical AIインフラ企業」への転換が、早くも具体的なサービスへつながり始めた。
Hesaiは2026年9月22日、2026雲栖大会(Apsara Conference)で、Alibaba傘下の地図・位置情報サービスAmap(高徳地図)との戦略提携を発表した。
両社が共同で取り組むのは、単に地図を2Dから3Dへ美しくすることではない。
Hesaiの3D世界データエンジン「Kosmo」で現実空間を高精度に取得・再構築し、Amapが持つ地図、位置情報、計算基盤、実際の店舗・施設などのサービスと接続する。
目指す世界を端的に表すのが、「店まで案内する」から「店内の一つの商品まで案内する」という変化である。
道路、建物、店舗、店内、棚、商品――。
これまで人間が見るために作られてきた地図を、AIが現実世界の構造や物体を理解し、判断と行動に利用できる「3D世界データ」へ変えようとしている。
HesaiがWAICで示した「LiDARからPhysical AIインフラへ」という構想が、Amapとの提携によって実社会へ降り始めた。
WAICで発表したKosmo、その最初の答え
Hesaiは2026年7月、上海で開催されたWAICでKosmoを大々的に紹介した。
Kosmoは、AI空間カメラ、LiDAR、高精細映像、AIアルゴリズム、3D再構築、クラウド処理などを組み合わせ、現実の施設や空間を高精細な3Dデータへ変換する仕組みである。
Hesaiが当時問題として挙げていたのは、Physical AI時代のデータ不足だった。
ロボットや世界モデルが物理世界で行動するためには、物体が何であるかだけでなく、距離、形状、位置関係、表面、周囲の空間などを理解する必要がある。
ところが高品質な3Dデータの取得は高コストで、2D画像では正確な幾何構造を十分に再現できず、完全な合成データには現実との差が残る。
そこでHesaiは、現実世界そのものを大量に3Dデータ化することを狙った。
WAICの段階では、工場、商業施設、産業団地、博物館、文化施設、ゲーム、映像制作など幅広い用途が提示されていた。
一方で、「実際に誰が大量の空間をKosmoでデータ化し、それを何に使うのか」はまだ十分には見えていなかった。
今回のAmapとの提携は、その問いに対する最初の大きな回答となる。
Hesaiが「世界」を作り、Amapが「場所」と結び付ける
両社の役割は比較的明快である。
HesaiはKosmoを通じ、現実データの取得 → 3D再構築 → 空間データ生成までのソフト・ハード一体技術を提供する。
Amapは、地図 → 位置情報 → 計算基盤 → 店舗・施設などの実利用シーンを持つ。
つまりHesaiが「世界を3Dデータ化する技術」を提供し、Amapがその世界を現実の場所やサービスへ結び付ける構図である。
両社は今後、博物館、大型商業施設、世界的テーマパーク、コンビニエンスストアなどで具体的なプロジェクトを展開するとしている。
すでに実装も始まった。
Kosmoで3D再構築した「重美術館」「偏鋒画廊」が、Amapアプリの「飛行街景」関連サービスで公開された。
利用者は平面地図や写真を見るだけではなく、実際の空間を自由な視点から移動するように確認できる。
7月には技術展示だったKosmoが、約2カ月で一般消費者が利用する地図サービスへ入ったことになる。
「地図」の解像度が道路から商品まで下りていく
今回最も興味深いのは、3D映像の美しさではない。
位置情報の粒度そのものを変えようとしていることである。
従来のデジタル地図は、道路を案内し、目的の建物や店舗まで利用者を連れていくことを得意としてきた。
しかし店舗の中へ入ると、地図の世界はほぼ終わる。
KosmoとAmapが描いているのは、その先である。
道路 → 建物 → 店舗 → 店内 → 棚 → 商品までを一続きの空間情報として扱う。
両社は今回、「店舗までのナビゲーション」から「一つの商品までのナビゲーション」への発展を明確に描いている。
例えばコンビニに着くだけでなく、目的の商品が店内のどの棚に置かれているのかまで案内する。
コンサート会場なら座席表だけでなく、実際の座席からステージがどう見えるのか、柱などで視界が遮られないかを事前に確認する。
展覧会や人気店舗なら、現地へ行く前に実際の空間を3Dで歩くように確認し、訪問するかどうかを判断する。
これは従来の「地図を3D表示する」という話とは少し違う。
現実空間そのものを検索・理解・案内可能なデータへ変える試みである。
「人・商品・場所」を丸ごとデータ化する
Hesaiは今回、中国の小売業界でよく使われる「人・貨・場」という概念を持ち出している。日本語に置き換えれば、
人=消費者
貨=商品
場=店舗や売り場
という小売の基本要素である。ECでは、この三つのデータ化はすでにかなり進んでいる。
誰が何を見て、何を買い、どの商品と比較し、どこで離脱したのかまで大量のデータとして分析できる。
一方、リアル店舗の「空間」は依然としてデジタル化が難しい。
商品がどの棚のどこにあるのか。どのように陳列されているのか。店内をどう移動するのか。商品がどの方向から見えるのか。棚のどの場所が有効に利用されているのか。
Kosmoが店舗内部を高精度な3Dデータへ変換すれば、こうした物理空間も計算対象にできる可能性がある。
Hesaiは、店舗空間そのものを継続的に利用できるデジタル資産にし、棚ごとの空間まで定量化する構想を示している。
「人」と「商品」だけでなく、「場所」まで機械が理解できるデータにするわけである。