「自分株式会社の理念」を、もう一度考えてみた。
私の原動力は、「もったいない」だった。
少し前に、「自分株式会社の理念を考えてみた【2026仮】」という記事を書いた。MBAを修了し、30代半ばのタイミングで、自分の人生やキャリアを一度振り返ってみようと思ったからだ。
これから何を目指すのか。どんな仕事をしたいのか。何のために働くのか。そんなことを考えた末に、私は一つの言葉にたどり着いた。
「価値を見つけ、育て、つなぐ」
今読み返しても、この言葉は間違っていないと思う。金融機関で企業を見てきたこと。会計事務所で財務や税務、管理会計、M&A、事業再生に携わってきたこと。MBAで企業価値やファイナンスを学んだこと。地方企業の現場に入り、組織づくりやDX、事業承継について考えていること。振り返れば、これまでの経験は確かに「価値を見つけ、育て、つなぐ」という言葉へ向かっていた。
ただ、前回の記事を書いたあとも、どこか考え続けていた。なぜ私は、価値を見つけたいのか。なぜ、それを育てたいのか。なぜ、未来へつなぎたいのか。「価値」という言葉だけでは、自分の感情の根っこまで説明できていない気がしていた。
その後、仕事の現場に入り、人や会社について考え、これまでの人生をもう一度振り返る中で、ようやく一つのことに気がついた。私の原動力は、もっと素朴な感情だった。
「もったいない」
おそらく、これが私のど真ん中にある。
良い会社なのに、後継者がいない。素晴らしい技術なのに、誰にも知られていない。長年積み重ねてきた仕事なのに、その人の頭の中にしか残っていない。地域に必要とされている店なのに、利益が出ず、続けられない。意欲のある若い人がいるのに、挑戦する機会が与えられない。能力のある専門家がいるのに、決められた仕事の中だけで力を使っている。
そういう場面に出会うと、私は「仕方がない」と割り切ることができない。もっとできるのではないか。違う見せ方があるのではないか。誰かと誰かをつなげば、状況が変わるのではないか。そんなことを考えてしまう。
私は、単純に価値のあるものが好きなのではない。価値があるのに、その価値が十分に発揮されていない状態が、もったいないのだ。 そして、価値が見つけられないまま、育てられないまま、次の世代へつながらずに失われていくことが嫌なのだと思う。
前回掲げた「価値を見つけ、育て、つなぐ」という言葉は、私がやりたいことを表していた。今回見つけた「もったいない」という言葉は、私がそれをやりたい理由を表している。
そこで改めて、「自分株式会社」の理念を考え直してみたい。
自分株式会社の理念

Mission
価値を見つけ、育て、未来へつなぐ。
人にも、会社にも、地域にも、その人や場所にしかない価値がある。しかし、その価値は必ずしも分かりやすい形で存在しているわけではない。
決算書には表れない技術がある。言葉になっていない強みがある。長年の仕事の中で築かれた信頼がある。そこにいる人たちにとっては当たり前すぎて、自分たちでも気づいていない価値もある。
私は、まずそれを見つけたい。数字を見る。現場を見る。人の話を聞く。これまでの歴史を知る。その会社や人が、何によって選ばれ、何を守り、何を積み重ねてきたのかを考える。
ただし、価値は見つけただけでは意味がない。昔は良かった、良い技術を持っている、地域から愛されている。それだけで会社や仕事が続くわけではない。
利益が出る仕組みをつくらなければならない。人が育つ組織をつくらなければならない。技術や知識を、個人の頭の中から組織の資産へ変えなければならない。必要であれば、テクノロジーやAIも取り入れなければならない。見つけた価値を、今の時代でも発揮できる形へ育てていく。
そして最後は、未来へつなぐ。後継者へつなぐ。若い社員へつなぐ。顧客へつなぐ。地域へつなぐ。異なる専門性を持つ人たちへつなぐ。価値が一人の中、一社の中、一つの時代の中だけで完結しないようにする。
それが、私のMissionである。
私にとって「価値を見る」とは
ここでいう「価値」は、何でもかんでも「素晴らしいもの」として持ち上げる、という意味ではない。
以前、「価値の本質」という記事で、企業や事業の経済的な価値は、突き詰めれば三つの要素で考えられると書いた。
キャッシュフロー、リスク、成長性。
どれだけキャッシュを生み出せるのか。その状態はどれだけ安定して続くのか。そして、これからどれだけ成長する可能性があるのか。
もちろん、人や地域、文化の価値まで、この三つですべて説明できるとは思っていない。職人の技術、地域で積み重ねられてきた文化、人と人との信頼には、数字では測れない価値がある。
それでも、会社や事業を未来へつないでいくことを考えるとき、この三つは今でも私にとって、とても分かりやすい物差しになっている。
良い技術がある。でも、利益につながっていない。
利益は出ている。でも、特定の職人や経営者がいなくなれば続かない。
今は安定している。でも、10年後も同じ商売が続いているとは限らない。
そうやって考えていくと、「もったいない」の正体も少し具体的に見えてくる。
価値がないのではない。価値を生み出す力が、キャッシュフローにつながっていない。リスクによって損なわれている。あるいは、未来の成長につながっていない。
だから私は、財務を見る。現場を見る。人の話を聞く。仕組みを変える。必要ならAIやテクノロジーを使う。そして、自分だけでできないことは、異なる専門性を持つ人につなぐ。
私にとって「価値を育てる」とは、抽象的な美辞麗句ではない。
キャッシュフローを生み出せるようにする。リスクを減らす。そして、次の成長をつくる。
その結果として、その人、その会社、その地域にすでに存在していた価値が、未来でも生き続けられる状態をつくる。
これが、私なりの「価値を見つけ、育て、つなぐ」の実務的な意味である。
Vision
地域に、価値創造が起こるチームを増やす。
これまで私は、企業を支援するとき、自分が何を提供できるかを考えてきた。財務、会計、事業計画、資金調達、管理会計、事業再生、M&A。しかし、会社を本当に変えるためには、一人の専門家だけでは足りない。
財務だけでも変わらない。経営者だけでも変えられない。金融機関が資金を出すだけでも、会計事務所が数字を説明するだけでも、会社の価値が自然に高まるわけではない。
経営者がいて、現場を担う人がいる。財務を考える人がいる。商品やサービスを磨く人がいる。組織をつくる人がいる。技術を持つ人がいる。デザインや発信ができる人がいる。テクノロジーを実装する人がいる。そうした人たちが、同じ会社の価値を見つめ、一つの方向を向いたとき、初めて大きな変化が起こる。
私が増やしたいのは、単なる支援者の集まりではない。情報交換をするだけのコミュニティでもない。実際に会社の中へ入り、価値を見つけ、育て、未来へつなぐチームである。
特に、事業を引き継いだ次世代経営者は、多くのものを一人で背負っている。先代から受け継いだ歴史。古くなった仕組み。長年働いてきた社員。金融機関との関係。変えなければならない焦りと、変えてはいけないものへの責任。外から見れば経営者でも、社内では誰にも相談できず、一人で判断していることも少なくない。
だから私は、次世代経営者を一人にしないということを大切にしたい。
ただし、応援したいのは経営者だけではない。会社の未来を考える社員。技術を次へ残したい職人。融資だけではない支援をしたい銀行員。税務だけではなく、経営に踏み込みたい会計人。地域で新しい仕事をつくろうとしている人。
そうした人たちがそれぞれの専門性を持ち寄り、地域の企業を一緒に育てていく。一つの会社で価値創造が起きる。そこで得た経験や人のつながりが、別の会社へ広がっていく。その積み重ねによって、地域に価値創造が起こるチームが増えていく。
それが、私の目指したい未来である。
Values
実現したい4つの価値
「もったいない」を見過ごさない。
「もったいない」という言葉は、理念として掲げるには少し粗く、品の良い言葉ではないかもしれない。見方によっては、相手を上から評価しているようにも聞こえる。それでも、今のところ、これ以上に自分の気持ちを正確に表す言葉は見つからない。
私は、「価値がない」と簡単に結論づけたくない。業績が悪い会社にも、残すべきものがあるかもしれない。古いやり方の中にも、合理性があるかもしれない。話すのが得意ではない人の中にも、長年積み上げた知恵があるかもしれない。地方にあるものを、都会より遅れているという理由だけで切り捨てたくない。
一方で、何でも残せばよいとも思っていない。価値があると言いながら、変化を拒み、赤字を放置し、次の世代へ負担を押しつけることは違う。本当に未来へつなぎたいのであれば、変えるべきものは変えなければならない。
私にとって「もったいない」とは、古いものをそのまま保存することではない。残すべき価値を見極め、それが生き続けられる形へ変えていくことである。
現場から考える。
数字や理論は重要である。しかし、数字だけでは会社のことは分からない。現場へ行くと、決算書からは見えないものがある。
どのように商品がつくられているのか。誰が顧客との関係を支えているのか。どこで時間が失われているのか。どの仕事が特定の人に依存しているのか。社員は何に誇りを持ち、何に諦めているのか。
それらを見ずに、正しい答えを出すことはできない。専門家として外から意見を述べるだけではなく、できる限り現場に入り、一緒に考える。そして、自分の考えも現場によって修正する。それを大切にしたい。
専門をつなぐ。
私は財務や会計を専門としてきた。これからも、その専門から逃げるつもりはない。一方で、財務だけで経営ができないことも知った。
マーケティング、営業、組織、技術、デザイン、IT、現場の経験。企業の価値を育てるためには、異なる専門性が必要になる。
大切なのは、すべてを一人でできるようになることではない。それぞれの専門家が持つ言葉を理解し、経営者や現場の言葉へ翻訳し、一つの目的へつなぐことである。自分が主役になるのではなく、必要な人が力を発揮できる状態をつくる。
それが、自分の役割なのだと思う。
変化を恐れない。
私は、何でも新しいものが好きなわけではない。流行を追いかけるタイプでもない。むしろ、最初の一歩は遅い方だと思う。
ただし、変化が不可逆であると判断したときには、固執してはいけない。変わらないことを選び続ければ、守りたかった価値そのものが失われることがある。
AIやデジタル化も同じである。導入すること自体が目的ではない。これまで積み重ねてきた技術や知識を残し、人の可能性を広げ、企業の価値を未来へつなぐために使う。
不可逆な変化を見極め、その変化に適応することを恐れない。
これは、未来へ価値をつなぐために欠かせない姿勢だと思っている。
「価値を見つけ、育て、つなぐ」の、その先へ
前回の記事を書いたとき、私は自分のキャリアに共通するものを探していた。そして、「価値を見つけ、育て、つなぐ」という言葉にたどり着いた。
今回、さらに考え続けたことで、その奥にある感情が見えてきた。
良いものがあるのに、知られていない。力があるのに、発揮できていない。残すべきものがあるのに、次の世代へつながらない。それを目の前にしたとき、私は「もったいない」と感じる。
おそらく私は、この感情を放っておくことができない。だから、数字を見る。現場へ行く。人の話を聞く。仕組みを考える。新しい技術を試す。異なる専門性を持つ人をつなぐ。そして、その人、その会社、その地域にある価値が、未来でも生き続ける方法を考える。
これから、このnoteで問い続けたいことも、少しずつ見えてきた。
この人・会社・地域には、どのような価値があるのか。
そして、その価値をどう未来へつないでいくのか。
まだ、私自身も道半ばである。立派な理念を掲げられるほど、多くのことを成し遂げたわけでもない。だから今回も、完成版ではなく、現時点での仮説である。
それでも、前回よりは自分の言葉になったと思う。
私の原動力は、「もったいない」だった。
そして私は、その「もったいない」を、価値創造へ変えていきたい。
