#26【アズのひとりごと】野生動物アズのトリセツ
🌱これは“本編”とは少し違う、小話
◼️一人旅に行きたい
「一人旅、行きたいなー」
そう呟くと、山田さんが身を乗り出した。
「どこ行こうか。いつ頃にする?」
………。
あのー、聞いてた?
「一人旅」って言うたやろ。
なんで一緒に行く前提やねん。
好きな時間に起きて。
行きたいところへ行って。
食べたいものを食べて。
オールインクルーシブの宿の
素敵なお部屋で好きなだけだらだらして。
温泉に浸かる。
アロママッサージに行く。
それがしたいのだ。
なのに、男が加わると楽しみが半減する。
いや、違う。
半減どころか。
消 滅 す る。
山田さんが悪いわけではない。
これはもう、私の性質の問題である。
百歩譲って、来るのはいい。
でも、話しかけないでほしい。
私の視界にも入らないでほしい。
同じホテルに泊まってもいいが
部屋はもちろん別やで?
ホテル内では、鉢合わせしないように
気を使え。
大浴場の前で待ち合わせとか
絶対にしないからね。
お気遣い不要。
私は私のペースで動く。
ただし。
道に迷った時。
小銭が足りない時。
危ない目に遭いそうになった時。
なんか退屈した時。
荷物が増えた時。
その時は、スマートに出て来てくれ。
すぐにな。
それ以外は、気配を消していてほしい。
🥷忍者か。
理想はそれに近い。
彼氏ではなく、忍者。
必要な時だけ現れる男。
◼️放置されたいわけではない
私は基本的に、そういう傾向がある。
今になって、それがよく分かる。
干渉されたくない。
口出しされたくない。
予定を詰められたくない。
歩く速度を合わせたくない。
好きなタイミングで休憩したい。
でも、ここ一番という時には
頼らせてほしい。
要は、元夫と真逆であってほしい。
都合がいいのは分かっている。
勝手なのも分かっている。
でも、それが本音である。
「山田氏がかわいそうやないか」
という、非難の空耳が聞こえてきた。
分かっている。
自分でも、書きながら少し引いている。
好きに書き散らしているだけなので
どうか責めないでほしい。
ここでしか言えない。
SNSに書いたら、どれだけ叩かれるか。
想像しただけで、怖くて涙が出る。
四六時中べったりしたいわけではない。
「全部共有するのが当然」
みたいな空気はしんどいのだ。
管理されている気分になるから。
楽しい景色を見た時に、
「なあなあ、あれ見て!」
と言える距離にはいて欲しいかもしれない。
でも、常時張り付いていなくていい。
張り付かれると、逃げたくなる。
私は、野生動物なのだと思う。
近づきすぎると、ダッシュで逃げる。
捕まえようとされると、噛みつく。
餌付けされても、毎日は来ない。
※ただし餌による。
芋、栗、かぼちゃ、ココナッツ系
限定のコンビニスイーツには弱い。でも、安全な場所から見守られているのは
嫌いではない。
私が野生動物だとすると、山田さんには
私の生態を対岸から微笑ましく見守っていて欲しいのだ。
「今日も可愛いな」
「また寝とるわ……」
くらいの距離で。
しつこく呼んだり、追いかけてはいけない。
首輪をつけようとしてもいけない。
檻に入れようとしてはいけない。
私は檻に入ると弱る。
最悪、死ぬ。
……って、これ、恋愛違うやん。
野生動物保護活動?
もしくは、推し活?
山田さんに求めている役割が
もはや彼氏というより、保護活動家とか
ファンに近い。
「今日もアズさんが生きている。尊い」
くらいの距離感でいてくれる人。
それが理想なのかもしれない。
恋愛とは。
彼氏とは。
男と女とは。
生きるとは。
自分でも、分からなくなってきた。
◼️2LDKは譲れない
もし一緒に暮らすなら、といった話を
したことがある。
私は、2LDKは欲しいと言った。
巣穴。
もとい、自分の部屋が欲しいから。
そして、ペット可でなければならない。
いずれ、健太郎(実家の🐶)が来るかもしれないから。
山田さんは個室はいらないと言った。
なんなら、1LDKでもいいらしい。
絶対嫌や!
とんでもない!
山田さんは、他人と暮らしたことがないから
そんなことが言えるのだ。
1LDKは危険である。
リビングが山田さんのテリトリーになり
寝室が共有地になり、廊下には山田さんの
気配。
私だけの場所がない。
オナラも出来ない。
風呂上がりに、涼むことも出来ない。
終わりである。
それぞれの部屋。
それぞれの時間。
それぞれの室温。
これがないと無理だと思う。
リビングで一緒に過ごす。
ご飯を食べる。
テレビを観る。
それとは別に、一人になれる空間がないと
私はたぶん病む。
この縄張り意識の強さ、やっぱり
私は普通ではないのかもしれない。
ただ、そうなると問題が出てくる。
2LDKのペット可物件になると
大して広くなくても、家賃が跳ね上がる。
私の今の家賃と、山田さんの今の家賃を足しても、2LDKの方が高い。
つまり、一緒に住む方が不経済。
同棲って、生活費が浮くと思っていた。
なぜ、私の場合は高くなるんや。
……私がエアコン付きの個室を欲しがるから。
健太郎🐶を迎えられる環境でいたいから。
そんなわけで、一緒に住む話は
話題に出た10分後には消えた。
早かった。
山田さんは、健太郎🐶のことには
触れなかった。
受け入れてくれる気がないのなら
早めに言って欲しいのに。
◼️間違えると老後が詰む
それに、その先どうなるかも分からない。
一緒に住んで、もし上手くいかなかったら?
引っ越し代もかかる。
生活リズムも変わる。
なのに、また一人に戻るかもしれない。
怖すぎる。
老後資金が減って、結局また一人に戻るとか、嫌すぎるんやけど。
恋愛の失敗だけなら、まだいい。
いや、よくはないけど。
でもそこに、
敷金礼金。
引っ越し代。
家具家電。
老後資金の減少。
これらがついて来る。
経費が、重い。
気持ちだけでは走れない。
走った先にあるのが何だか分からないから。
それは花畑かもしれないが、
崖かもしれないのだ。
山田さんは大企業勤務。
年収も高い。
損害は少ない。
けど、私は違う。
いちおう自活しているが
転んだら大怪我するのは私だ。
健太郎🐶の養育費だって必要なのに。
体力的にも、仕事と自分の家事で手一杯。
山田さんは、元夫ほどは手がかからないはずだし、家事は率先してやってくれると思う。
でも、家事の分担とか、お金の話をするのが、もうしんどい。
健太郎🐶を受け入れてくれる気があるのか
ないのかも、はっきりしない。
結局、私が山田さんに向き合えていない
だけなのかもしれない。
ここは笑いで誤魔化せない。
私の中には、まだ怖さが残っている。
アラフィフは、余命が少ないのだから
スピード感が大事なのに。
◼️自由席が欲しい
誰かと一緒にいたくないわけではない。
でも、ずっと隣にいられるのはしんどい。
自由席がいい。
近くにいてもいい。
席は別々でもいい。
途中で合流してもいい。
疲れたら、それぞれ休んでもいい。
たぶん私に必要なのは、
「一緒にいても、自由を侵害されない安心感」
なのだ。
山田さんは、今のところ
そこを割と尊重してくれている。
しかし、やはり一人旅には参入されたくない。
山田さんが嫌なのではない。
私が自分のペースを守りたいだけ。
好きな時に寝て。
好きな時に起きて。
好きな時間に温泉に入って。
部屋でだらだらして。
スイーツを食べて。
ぼーっとする。
最高である。
そこに男がいると。
邪魔でしかない。
夜には期待を向けられる。
「何時に出る?」
急かすな
「化粧しないの?」
しとるわ
「え、その服で出るん?」
あかんの?
が発生する。
いらん。
私はやっぱり、野生動物なのだ。
保護はして欲しい。
でも、捕獲されるのは嫌。
いいなと思ったら応援しよう!
応援していただけると嬉しいです。いただいたチップはモラハラ啓蒙活動に使わせていただきます。