#20【アズのひとりごと】元夫の時刻表支配〜「アズちゃんのために」という名の鉄道旅〜
🌱これは“本編”とは少し違う、小話。
※口悪めです。
◼️誰と行くかでこんなに違う
彼氏の山田さんと奈良に行った。
ちょっとした遠足である。
旅行もそうだが、誰と行くかで
こんなに違うものかと思った。
有馬温泉に引き続き、また比べてしまった。
元夫とは付き合っている時も結婚してからも、
いろんな場所に行った。
でも今振り返ると、
あれは“お出かけ”ではなかった。
鉄道趣味の現地立ち会いである。
しかも厄介なのは、それを毎回
「アズちゃんのために」
という言葉で包んでくるところだった。
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◼️鉄道マニアだと知らなかった
そんな気配、見せなかった。
確かに「乗り物が好き」とは言っていた。
それは、遠回しのカミングアウトだったのかも
しれないが、私は気づかなかった。
「まあ、男の子やしな」とスルーした。
いつも分厚い時刻表を持ち歩いていた。
「マメな人やな」と思った。
電車の乗り換えの裏技みたいなのを
よく知っていた。
「スマートな人やな」と思った。
まさか、その知識と時刻表の向こうに
本気の乗り鉄魂が隠れているとは思わない。
新居に持ち込まれた大量の鉄道模型や
雑誌を見て、私はびっくりした。
乗り鉄。
鉄道マニアにも、いろいろジャンルが
あるらしい。
あの時の
「ガチ勢」
という気づきは、地味に衝撃だった。
今思えば、
あんな重い、分厚い時刻表を常に
カバンに携帯してる時点でだいぶ
ヒントは出ていたのだが、
当時の私は世間知らずだったので、
それを“生活力の一環”として解釈していた。
なんなら、頼もしいと誤認していた。
節穴すぎた。
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◼️旅の主役はだいたい「鉄道」
元夫との外出は、
観光地が主役ではなかった。
食事でもなかった。
主に列車。
何に乗るか。
どの路線か。
どの特急か。
どの観光列車か。
まずそれが決まる。
目的地はその後で決まる。
行き先に意味があるのではない。
その電車が走っているから、そこへ行く。
私は鉄道趣味に「妻同伴」という
見栄えを整えるためのパーツだった
のかもしれない。
ヲタの世界では、連れがいることは
ステータスなのだ。
でも元夫は、必ずこう言った。
アズちゃんのために。
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◼️元夫の「アズちゃんのために」コレクション
✅「アズちゃんに美味しいカニを食べさせてあげたくて」
特急はまかぜ。
お前が、廃止予定車両に
最後の思い出に乗りたかっただけやろ。
それ、先に知ってたら断ったわ。
ディーゼルだから臭い。
めっちゃ揺れる。
酔った。
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✅「アズちゃんのために、チケット取った」
特急しまかぜ。
確かに素晴らしかった。
けれど、車内のカフェのメニューを見て
「高いな」と言われて、一気に冷めた。
こっちは別に
特別な列車にそこまで執着してない。
私が欲しいのは、列車の特別感ではなく、
好きな物を飲食する権利である。
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✅「アズちゃんのために、無理のないプランにしてる」
違うわ!
お前の鉄道計画に合わせた結果
観光する金が無くなっただけやろ。
帰りの列車はきっちり予約されているから
時間が余っても疲れても寒くても帰れない。
ただの時刻表による支配である。
⸻
✅「アズちゃんのために、気軽に入れる店にした」
ファストフードやないか!
別にファストフードが悪いわけではない。
私も普通に食べる。
でも海外にまで来て、
「とりあえず安く済ませとこ」
の空気が染み込んだポテトを食べたくない。
しかもそれを
“私への配慮”として提出してくるな。
配慮するなら
「朝はホテルのビュッフェが食べたい」
という私の希望を却下しないで欲しかった。
ていうか、普通、朝食付きプランやろ?
なぜわざわざ朝食を外したん?
→今でもすごい謎。
⸻
✅「アズちゃんに桜を見せてあげたい」
お前が咲かせたみたいに言うの
やめてもらっていいですか?
私は別に
「わあ、吉野山! 行きたい😍」
みたいな感じではなかった。
寒いし、遠いし、山やし、人多いし。
桜の名所と言われても、
そこまで熱望していたわけではない。
お花見なら、近場でも楽しめるし。
でも元夫は、吉野まで行く観光列車に
私と乗りたかったらしい。
そこだけ切り取ると、ちょっと素敵。
上品で、季節感があって、
いかにも“いい旦那さん”っぽい。
ところが現実は、
移動にはお金をかけた代償として
😎現地では何も飲み食いしない
😎寒い
😎空腹
😎帰りの列車の時間まで待つ
という、修行だった。
これはレジャーではない。
鉄道オタクの実績作りに付き合わされた
謎のイベントである。
観光地まで来ているのに、心が潤わない。
むしろ、不機嫌になる。
なぜなら、楽しみの中心が常に“移動”だから。
そのたびに脳内を流れるナレーション。
「アズちゃんのために」
違う!!
お前のために、やろ!!
⸻
私がしんどかったのは、
鉄道マニアそのものではない。
趣味があるのは別にいい。
でも、それを
「君のためにしてあげてる」
に変換してくるのが、しんどかった。
自分の欲望を愛情表現に見せかける。
この変換、ほんまに厄介。
しかも、こっちが微妙な顔をすると、
“せっかくしてあげてるのに”
みたいな空気になる。
知らんがな!
⸻
◼️山田さんと行った奈良
まずお昼は春のピザランチ。
字面がすでに平和である。
しかも山田さん
昼間から「大仏ハイボール」飲んでた。
自由すぎる。
「せっかく来たんやし楽しもう」
という意気込みがある。
「一緒に遊びに来ている」感じがする。
それだけで、こんなに楽なんやと思った。
⸻
◼️本物の「付き合う」とは何か
奈良公園では、鹿せんべいを買った。
山田さんは最初、
そこまで鹿せんべいに興味なさそうだった。
「鹿? まあ僕は別に……」
みたいな感じである。
でも、私は動物が好きだし
鹿との触れ合いは外せない。
付き合ってくれた。
ここ、地味やけど大事やと思う。
元夫みたいに
「アズちゃんのために」
と言いながら中身が全部自分、ではない。
ちゃんと、私が面白がってることに
乗ってくれる。
で、数分後には
「噛むな!」
「待って!」
「噛むなて!」
と叫んでいた。
楽しんどるやないか。
私は私で、ぼーっとしてる間に
鹿にせんべいを奪われた。
鹿たちは
「あっ、すいません…」みたいな顔で
礼儀正しそうにお辞儀しながら
近づいてきて、普通に強盗してくる。
私は追加で鹿せんべいを買い、
山田さんに押し付けて逃げた。
山田さんは
「いや、もうええ!」
と言いながら、また鹿に囲まれていた。
そしてまた噛まれていた。
⸻
元夫との外出は、
場所が悪かったわけじゃない。
どこも、本来は楽しい場所だと思う。
でも、そこに漂っていたのは
・鉄道が主役
・節約が優先
・現地は添え物
・なのに「アズちゃんのために」
という、自己中フルコースだった。
一方で山田さんとの奈良は、
特別なことをしたわけじゃない。
大仏を見て、春日大社へ行って、
ピザを食べて、ハイボールを飲んで
若草山を見て、鹿せんべいをあげて
「噛むな!」と叫んだだけ。
でも、ちゃんと楽しかった。
山田さんが楽しかったかどうかは知らない。
内心「子供っぽくて疲れるわ…」
と思っていた可能性すらある。
それはさておき。
私は、ただ、一緒にアホになれて、
私が笑ってるのを見てくれる人と
出かけたかったんだと思う。
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