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#49 元夫の手帳——風俗通いの履歴

母の手術や入院が重なり、実家へ行くことが増えていた頃のこと。

バタバタと過ごしていた私にとって、
唯一の救いは——
元夫が、家事の不出来に
無頓着なことだった。

義母が家事全般に疎く、料理も壊滅的に
下手だったらしい。
だから文句は出なかったのだろう。

それに、元夫にとって何より大事なのは

「鉄道と旅と競馬」

私が忙しくなれば、自由に時間を使える。
家事なんて、どうでもよかったのだと思う。



ある夜、テーブルに置かれた手帳に目が止まった。
元夫は風呂に入っている。
そういえば…

——日記、まだ書いてるんかな?

軽い気持ちで開いたそのページに
目が釘付けになった。

・エロエロマスター しずく 16,000円 
顔4 テク5

・人妻ジョイント みか 20,000円 
顔3 テク4

・制服天国 ひかり 9,000円 
顔4 テク3


…………思考停止。

……えっと、これは……つまり、
風俗店の記録?
点数付きで??

キモ!!

あんまり迫って来ないから安心してたら
こういうことやったんかい!!

前後の月もチェックしてみる。
どうやら週1ペースで数ヶ月
通い詰めている様子。

その中には、母の手術を翌日に控え、
私が実家に泊まった日の記録もあった。

あの日——
実家に泊まるか迷っていた私に
元夫は泊まるよう強く勧めてきた。
「こんな時こそ家族で団結やろ」
と言いながら。

……ああ、そういうことやったんやな。



手が震えていたのに、頭は冷静だった。
私は、該当のページを写真に撮った。

次に、元夫の財布をチェックした。
出てきたのは、白黒で、ずいぶん雑な作りの
ポイントカード。

マッサージ店のもの。

大きめのQRコードを読み取ると、
「表向きマッサージ、実態は風俗」
の店に繋がった。

——そういうカラクリね。

私は、そのカードをきっちり二つに折り
折り目をつけて、元に戻した。

「気づいてるよ」
のメッセージ。



その日から、元夫との会話を減らした。
キモすぎて。

でも、沈黙して初めて気づいた。

私が何に怒るか、何を喜ぶか。
どう返すと機嫌がいいのか——
どんな交友関係なのか、誰と仲が良いのか。

夫婦の会話は、元夫にとって
“情報収集”だったのだ。
常に観察し、支配するために。



私は、友人のリサコにLINEで相談した。
リサコは離婚経験者。
優しくて美人なのに、浮気されて別れている。

「旦那、風俗行ってた。通いまくってる」
「えっ!証拠、あるん?」
「手帳に書いてた。写真撮った」
「アズはどうしたいん?
別れたいならそれは決定打やけど
迷ってるなら突きつけない方がいいかも」


——どうしたいん?

そう聞かれて、私は答えられなかった。

別れるレベルのことなのだろうか。

それとも
「まぁ、そういう男って珍しくないよね」
「男ってそんなもん」
で済ませられる話なのか。

嫌悪も、軽蔑もある。
でも、離婚という言葉には“現実味”がなかった。

一応、生涯を共にするつもりで
結婚したのだから。
その「つもり」は、いまや足枷でしかなかった。

判断がつかなかった。
その中途半端さが苦しかった。

何より、今は母のことが最優先。

——けれど

もしかしたら
“この人と最後まで添い遂げるのは
無理かもしれない”


その感情が、頭の片隅に
小さな芽のように、ひっそりと顔を出していたことに、私はまだ気づいていなかった。

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