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#8【離婚争議編】 元夫、借金あるってよ

脳は「変化」を嫌うらしい。

未知の未来は怖い。

地獄だと分かっていても
「知っている環境」の方を選びたくなる。

後から知った言葉だけれど、
あの時の私の状態を、これほど正確に表す
説明はない。

元夫のロミオレターは「未知の未来への不安」
だけを、ピンポイントで突き刺してきた。


📌離婚後の仕事。
📌初めて一人で生計を立てるということ。
📌バツイチになるということ。

まだ始まってもない離婚協議。
先が見えない日々の中で、
私の頭の中は、不安でいっぱいだった。

そしてそれは、
次第にはっきりとした形で姿を現し始めた。

❤️出会った頃の元夫→常人擬態中
🧡優しかった元夫→常人擬態中
✈️楽しかった旅行→ただの思い出

ずっとずっと遠い過去のことなのに、

🙌「楽しかったこと」→幻影
☺️「嬉しかったこと」→幻影
😃「幸せだったこと」→妄想

それだけが「記憶の宝箱」から抽出され、
スライドショー💎のように脳内再生される。

何度も、何度も。

その時、嫌な記憶は一時的に消えていた。

なんで、離婚なんか考えたんやろう?
あの人、ちゃんと食べてるかな。
ちゃんと眠れてるかな。

心配、まで出てきた。

末期である。


ネットで調べて知った。

これは、モラハラ環境から離れたことによる
“禁断症状”や“後遺症”らしい。


安全な場所に移り、依存が切れた反動で
脳が、元の環境に戻ろうとして
「幸せだった記憶」だけを集め、見せてくる。

「ホラ、この時に帰ろうよ」とばかりに。

ひどいDV、モラハラ環境から逃げ出したのに
また戻る人たちを不思議に思っていたけど
今思えば、おそらく、禁断症状に
耐えられなくなったのだと思う。

僅かに残った理性が私を押し留めていた。
ここで戻ったらどうなるかは
火を見るより明らかだった。

元夫は、泣いて喜ぶ。
旅行かプレゼントで上書きする。
そして何もなかったように暮らす。


気づけば元通り。


“離婚離婚と騒いで出て行ったくせに
結局、戻って来た。
ホラ、やっぱり僕がいないと
アズちゃんは生きていけないやん”

そして、地獄の続き…
いや、新たな地獄が始まる。
実家には頼れなくなる。
私の味方は、いなくなる。

分かっていた。
だから、一人で耐えた。

でも正直に言うと、
夜になると、元夫が恋しくてたまらなかった。

あんなに反省してるのに。
一度くらい、チャンスをあげなくては
いけないんじゃないか。

そんな考えが、頭をもたげ始めた。


悩んだ末、
私はシラカワ先生にメールを書いた。

元夫と、一度だけ話してもいい。
場合によっては、復縁も検討する。


条件を出した。

生活費は、元夫が全額負担する
結納から全部やり直す。費用は元夫負担
義母と共に、私と母に土下座する
働き方に一切口出ししない
私の好きな場所に引っ越す

先生、怒るやろうな。
呆れるやろうな。

でも、これは私の人生だから。

そう自分に言い聞かせて、
勇気を出して送信した。


シラカワ先生からは
返信がないまま数日が過ぎた。

自分の送ったメールを読み返した。

そして、ふと気づいた。

こんな条件、あの人が飲むわけないやん!

元夫にとってこれらは全て
“支配させないための条件”だった。

そこで、ようやく腑に落ちた。

私は、復縁したかったわけじゃない。

「戻らない理由」を、
自分で確認したかっただけだった。

そう思ったら、笑えてきた。

ああ、私、戻る気ないやん、と。

知ってる地獄と、知らない地獄。

だったら「知らない地獄」へ行こう。
そこが、地獄とは限らない。


さらに数日後の夜、
シラカワ先生から電話があった。

「弁護士のシラカワです」

いつもより低く、圧のある声。
怒っているのだと、すぐ分かった。

私はスーパーに入ろうとしていたが、
そのまま駐車場に引き返した。

「アズさん、今、どちらですか」

帰宅途中なので話せると答えた。

先生の用件は、二つ。

・元夫が代理人弁護士を立てたこと
・元夫に、多額の借金があること

借金。

……やっぱり。

「いくらですか」

「400万か、500万」

そんなに?

…終わった。

あの手紙、何やったん?
借金抱えて「やり直したい」?
どの口が?


体の力が抜けて、
私は駐車場の階段に座り込んだ。

「先生、あの、メールですが……」

「あ、拝見しました」

それだけ?

「あの件は、向こうには……」

「伝えてません。
それと、状況が変わりましたので、
すみませんが事務所にお越しいただけますか」

私はアポイントを取り、通話を切った。

神がかりのようなタイミング。
スマホを持つ手が、震えていた。

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