#28 結婚式当日。義母が悪役として完成されすぎていた件・前編
慌ただしい準備期間を経て、結婚式前日。
この日は、新居マンションの内覧会だった。
お互いの母を連れて向かい、現地で合流した。
私の母と義母(便宜上そう呼ぶ)は、顔合わせ以来の対面だが、お互いに
「明日はよろしくお願いします」
と挨拶を交わし、それなりに友好的に見えた。
私は内心「やれやれ」と胸をなでおろした。
——元夫だけが、何も気づいていなかった。
帰りの電車で、義母が母に尋ねた。
「明日、式場まではどうやって行きはるの?」
式は午前11時30分から。
花嫁は8時半集合と言われていた。
母は「家からタクシーで行きます」と答えた。
元夫は10時集合と聞いている。
義母は元夫の方を見ながら
妙な含みを持たせて言った。
「だったら……私らも……ねぇ?」
元夫は黙っている。
……“ねぇ”とは?
少し遅れて察する。
うちのタクシーに“便乗したい”ってことね。
いやいや、図々しすぎるやろ。
自分たちでタクシー乗れば?
母はやんわりと一線を引いた。
「新郎新婦は別々に行かないと。道中で何かあったら困りますし」
「縁起を担いで、式場にバック(後退)せず到着したいので」
——母、防衛成功。
⸻
そして、当日。
私は支度部屋でヘアメイクを終え、ウエディングドレスに身を包んでいた。
緊張で固まっていたけれど、外から聞こえる友人たちの笑い声が少しだけ安心材料になった。
やがて支度を終えた元夫が現れた。
「アズちゃん……ほんまに僕のお嫁さんになってくれるんやな…ありがとうございます、お義母さん!」
感極まって、母の手を取り泣き出す元夫。
母も、思わず涙ぐんだ。
美容師さんももらい泣きしていた。
私も泣きそうになった。
——この時は、まだ「今日はいい日になるかもしれない」と思っていた。
これまでのモヤモヤが吹き飛ぶような気分になっていた。
——しかし、空気は突然一変する。
「どういうことよ!」
義母の怒声が響いた。
新婦控室の隣は、親族の着付け部屋になっていた。
私と元夫は、思わず顔を見合わせた。
母と介添人が、あわてて様子を見に行く。
——義母の留袖が、届いていなかった。
正確には「届いていたけど届いていない扱い」
だった。
義母は自分の留袖を、宅急便で送っていた。
みかん箱に詰め、送り状には何も記載がなかったらしい。
式場側は、謎のみかん箱の扱いに困り、フロントでそのまま保管。
当日になって騒ぎになり「もしかして?」と、開けたところ、義母の留袖だった。
しかも「長襦袢が入っていない」
義母は激昂
「そっちが気を利かせて確認して、連絡すべきやろ!」
式場「ルール通り、送り状に挙式日付と「新郎母留袖」と記載し、衣裳室宛に送ってくだされば、事前に対応できました。新郎様にはお伝えしてあります。長襦袢のレンタル料は5,000円になります」
義母「なんでそっちの落ち度で金取るん!?」
式場「では、新郎様にご請求という形に…」
義母「……もうええわ!気分悪い、払うわ!」
と財布からお金を叩きつけたという。
——私はというと、介添人の判断で廊下に連れ出され、母と写真を撮っていた。
トラブルの全貌は、あとから知った。
この話を聞いたとき、私は思った。
「息子の晴れの日くらい、黙っとけんのか?」
——こんな母親で、かわいそう。
そう思った瞬間から、私は地獄に足を踏み入れていた。
飲み込んできた言葉たちが、
後でどんどん自分を傷つけていくことになるなんて、あのときの私は、まだ知らなかった。
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