9月に判断を持ち越さない。社福経理20年が夏に片づけた作業ベスト5
社会福祉法人で会計とICTを20年やってきた経理実務家です。
先に結論から書きます。9月の締めが重いのは、9月に仕事が増えるからではありませんでした。
上期の数字を一度固める月に出てくるのは、作業よりも判断のほうです。この仮払いは誰の何なのか。この費用はどちらの期に入れるのか。この支出は資産なのか、修繕なのか。決まってしまえば入力は数分で終わります。決まらないから、止まるだけです。
今日は、その判断を9月に持ち越さないために、私が夏のうちに片づけている作業を5つ書きます。
9月に集まるのは、仕事ではなく「まだ誰も決めていないもの」
上期決算がしんどいのは作業量ではなく、春から夏に「あとで確認しよう」と置いてきた判断が、そこで一度に返ってくるからです。
年度決算には、外に動かない期日があります。所轄庁への届出は毎会計年度終了後3か月以内、6月30日です。上期の締めは違います。目的は理事会への報告や資金繰りの確認で、法令で決められた提出先があるわけではありません。
そもそも上期で一度締めるかどうかも、法人によります。理事長や業務執行理事が理事会へ職務の執行状況を報告する回数は、原則3か月に1回以上ですが、定款で毎会計年度に4か月を超える間隔で2回以上と定めることもできます。私のところは年2回で、その手前に数字を固める仕事が乗ってきます。
自分たちで決めた締めは、後ろに倒せてしまいます。倒せる締めには、数字だけでなく判断も一緒に溜まります。
やっかいなのは、判断の値段が時間とともに上がることです。買った直後なら現場に聞いて5秒で分かることが、半年後には誰も覚えていません。9月に時間を取られてきたのは、この思い出す作業のほうでした。
先日、1年の山場を4月から順に5つ並べたとき、8月から10月はそこに入れませんでした。外部の期日と重なる月ではないからです。ただ、山場でない月だからこそ、判断は静かに溜まります。
ここから紹介する5つは、その代表例です。
9月に持ち越さないために、夏に片づけた作業ベスト5
① 仮払金と立替金を、8月のうちに残さない
私の経験では、9月の締めと月次を同時に抱えた年に、仮払金の残高の内訳が説明できなくなりました。合計は合っているのに、この行が誰の何なのかが出てこない。伝票を遡ると、原因は春先に出した仮払いの清算漏れでした。渡した相手も理由も、その頃には記憶が薄くなっていました。
仮払金は、処理すべき科目や金額が確定しない場合の支出を一時的に置いておく科目です。立替金は、一時的に立替払いをしたときの債権額。どちらも貸借対照表の流動資産に並びます。定義のうえでは「確定していない支出」の置き場なのに、私の手元ではいつのまにか「まだ誰も決めていないこと」の置き場になっていました。
以前、月次決算では少額の経費まで一律に合わせるのをやめた、と書きました。その線引きは変えていません。ただ、仮払金と立替金だけは例外にしています。金額の大小ではなく、相手がいるからです。返す人と返してもらう人がいる行は、時間が経つほど言い出しにくくなります。
この件で学んだこと:金額が小さいから後回しにできるのではなく、相手がいる行だけは金額に関係なく後回しにできない。
② 未収と未払の洗い出しを、四半期で一度やっておく
社福の未収は、事業収益に対するものが事業未収金、それ以外が未収金と置き場が分かれています。未払側も、事業活動に伴う費用等の未払い債務が事業未払金、役務は受けたけれど支払債務がまだ確定していない分が未払費用です。区分そのものは、基準を見れば分かります。
分からないのは、いつも一点だけでした。この取引は、どちらの期のものなのか。サービスの提供はいつ終わったのか。検収はいつだったのか。ここが決まらないと、科目が分かっていても入れられません。
昔の私は、これを決算のときにまとめてやっていました。半年分を一度に見ると、材料を集める作業が別に発生します。いまは四半期ごとに残高の一覧を出して、説明できない行だけを潰します。6月にやっておけば、9月に残るのは7月から9月分だけです。
この件で学んだこと:期ズレは金額の間違いではなく、どちらの期か誰も決めていないだけのこと。決めるのは早いほど安い。
③ 拠点間の内部取引は、その月のうちに相手と突き合わせる
拠点をまたいでお金を動かすと、片側に収益、もう片側に費用が立ちます。貸し借りの形にすれば、拠点区分間貸付金と借入金が両側に残ります。いずれも法人全体の計算書類では相殺して消える取引です。繰入金の形なら、事業活動計算書の特別増減の部に並びます。
問題は、片側だけを見ると、いつも正しく見えることです。自分の拠点の帳簿の中では筋が通っているので、突き合わせるまで気づけません。しかも合わない理由は、たいてい金額ではなく、相手側が別の科目で受けていた、翌月に入れていた、という判断の食い違いです。
つまりこの仕事は、判断が2人ぶん要ります。片方の記憶が薄れた時点で、終われなくなる。だから私は、月をまたがせないと決めました。動かした月のうちに、相手側の担当と金額と科目をそろえておく。それだけで、9月に「これは何の入金でしたっけ」と聞いて回る時間が消えました。
この件で学んだこと:ひとりで完結しない仕事は、寝かせた分だけ相手の時間も奪う。
④ 固定資産の増減は、買った月のうちに台帳へ入れる
先日、固定資産でやらかした失敗を3つ書きました。「一式」で登録したら実は複数台あった話、直したのか良くしたのかを聞かなかった話。どれも、請求書を見るだけでは決められないことばかりでした。
台帳への反映を後回しにすると、この「聞かないと決まらない部分」が丸ごと持ち越されます。買った直後なら、現場に電話して30秒です。何台ですか、どこに置きましたか、前のものはどうしましたか。半年後に同じことを聞くと、たいてい「たぶん」から始まる答えが返ってきます。たぶんで入れた行は、翌年の私がまた迷います。
それに、減価償却の計算は台帳が母体です。私は半期で計上しているので、9月末の時点で台帳に載っていない資産は、その半期の償却から丸ごと抜けます。判断を持ち越す以前に、数字が出てこない。金額の判断がつかなくても登録だけは必ずやると決めているのは、そのためです。
登録だけ先に済ませて、聞くべきことは行の備考に書いておく。判断は後でも、相手が覚えているうちに聞いておきます。先に片づけているのは、処理ではなく聞き取りのほうです。
この件で学んだこと:固定資産台帳は処理の記録である前に、聞き取りの記録。金額が決まらなくても、行だけは先に作る。
判断の材料が請求書に載っていない話は、こちらに書きました。
⑤ 現場の手元にあるものは、9月末より前に見せてもらう
最後まで残るのは、自分の作業ではありませんでした。現場から上がってこない領収書、まだ出てきていない立替の精算書、小口現金や預り金の手元残高。どれも、こちらの机の上だけでは終わりません。
私は一度、期末が来てから催促を始めて、返事待ちで数日溶かしたことがあります。急かしている側なのに自分は何も進んでいない、というのがいちばん消耗しました。
だから、突き合わせる日を8月のうちに現場と決めておくようにしました。9月の何日に、誰と、何を見るか。予定として入っていれば、向こうも準備してくれます。
自分ひとりで終われる仕事は、後ろに倒しても取り戻せます。最後は自分が頑張れば終わるからです。人を待つ仕事だけは、遅れた分をこちらの頑張りで取り戻せません。だから、人の手が要る仕事はいちばん先に置くと決めました。
ちなみに残高証明書は、基準日が来る前には出ません。あちらは年度末の仕事で、夏のうちにできるのは口座の棚卸しくらいです。
この件で学んだこと:先に出すべきなのは重い仕事ではなく、自分では終われない仕事。
夏に前倒しすると決めてから、置いた3つのルール
5つを並べてみて、決めたことが3つあります。
ひとつ目、判断は鮮度のあるうちに済ませる。処理はいつやっても同じ時間で終わりますが、判断の材料は日が経つほど手に入りません。前倒しの本体は、入力を早くやることではなく、覚えている人がいるうちに聞いておくことでした。
ふたつ目、「9月に固める」ではなく「9月までに固まっている」状態を作る。9月にやることをリストにしていた頃は、毎年そのリストが月末に寄りました。いまは、8月末の時点で説明できない行が何本残っているか、を見ています。数え方を変えただけですが、動き方が変わりました。
みっつ目、自分で終われる仕事と、人を待つ仕事を分ける。分けたうえで、人を待つほうから先に出します。逆にしていた頃は、自分の作業が終わってから依頼を投げていて、返事を待つ時間が丸ごと後ろに積み上がっていました。
それでも、夏に前倒しする理由
前倒しの話を5つも並べると、夏まで働き詰めのように見えるかもしれません。私の実感は逆です。
前倒しは手を抜くための工夫ではなく、9月の自分を守るための段取りだと思っています。
判断が一度に集まると、決め方が雑になります。ひとまずこの科目に入れておこう、内訳は後で調べよう。その「後で」が、次の年度決算にそのまま持ち越されます。夏に決めておけば、9月の私は入力と確認だけをやればよくて、判断の質が落ちません。守っているのは時間より、決め方のほうかもしれません。
副産物もあります。8月に説明できない行を数えると、その時点で弱いところが見えます。毎年同じ立替が残るとか、同じ請求だけ遅いとか。9月に慌てて潰していた頃は、そこまで見えていませんでした。
おわりに
上期の締めは、外に期日がないぶん、自分で期日を作るしかない仕事です。作らなければ月末まで延びて、延びた先に判断が溜まります。
「9月に固めるのではなく、9月までに固まっている」。夏のあいだにやっているのは、たぶんこれだけです。
このあと10月には、上期の振り返りと年末調整の準備が控えています。そのあたりも、そのうち書きます。
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拠点別予実管理表
給付費突合せ管理表
月次決算チェックリスト
給与計算チェックシート
資金収支予算管理表
締めの前に説明できない行を洗い出すなら「月次決算チェックリスト」、下期の見通しを立てるなら「資金収支予算管理表」が、この記事と相性がいいと思います。
