使い道は先に決まっていた。社福経理20年が補助金と寄付金でやらかした失敗ベスト3
社会福祉法人で会計とICTを20年やってきた経理実務家です。
「寄付をいただきました。お礼状はもう出したんですが、経理のほうは何かありますか」
拠点から、こういう電話がかかってくることがあります。ありがたい話なので、まず素直にうれしい。ただ、そのあとに私が聞き返すのは金額ではありません。「どなたから、何のためにと言われましたか」。相手はたいてい、少し黙ります。金額なら振込の控えに書いてあるのに、と。
今日は補助金と寄付金について、私が実際にやらかした失敗を3つ、自分の反省として書きます。
「入金イコール収益」で済まないお金がある
先に結論を書きます。補助金と寄付金は、金額ではなく「出した人の目的」で科目が決まります。
給付費なら、ここで迷うことはありません。提供したサービスの対価なので、事業の種類が決まれば収益の入り口も決まります。ところが補助金と寄付金は対価ではなく、相手が「これに使ってほしい」と思って出したお金です。その思いは金額の欄に出てこないのに、会計のほうは、その思いに従って動くことを求めてきます。
しかもその目的は、たいてい紙に書いてあります。補助金なら交付要綱や内示の通知。寄付なら寄附申込書や、添えられた一筆。通帳を眺めても分かりませんが、別の紙には最初から書いてあります。
以前、固定資産の記事で「処理を決めるのに必要なことは、見積書にも請求書にも書いていない」と書きました。補助金と寄付金は、そこだけ逆です。私が見ていた紙のほうが違っていた、というだけでした。
ここから紹介する3つは、その代表例です。目的を読み違えた話、目的の置き場所を間違えた話、そもそも金額の欄がなかった話、の順です。
「紙に書いていない」ほうの失敗は、こちらに書きました。
補助金と寄付金でやらかした失敗ベスト3
① 施設整備の補助金を、もらった年の話で終わらせた
いちばん後から効いてきたのが、これです。
施設整備の補助金が入金されました。事業活動計算書の特別増減の部に施設整備等補助金収益として立て、資金収支計算書のほうは施設整備等による収入に入れる。ここまでは間違っていませんでした。
抜けていたのは、その先です。施設整備の補助金は、入金した年に受け取って終わりのお金ではありませんでした。
運用上の留意事項は、国庫補助金等を「主として固定資産の取得に充てられることを目的として」国や地方公共団体等から受けた補助金や助成金と定義しています。そのうえで、効果を発現する期間にわたり、支出対象経費(主として減価償却費)の期間費用計上に対応して、国庫補助金等特別積立金取崩額をサービス活動費用の控除項目として計上する、と続きます。
入金の年に純資産へ積んで、建物が使われているあいだ、毎年少しずつ取り崩していく。私はこの「その後ずっと」を、入金額の大きさに気を取られて薄く見ていました。県の監査で指摘されたのは、入職して間もない頃です。数年分をさかのぼって直すことになって、正直こたえました。
この件で学んだこと:補助金は、入金の伝票ではなく、その資産が使われる年数のぶんだけ続く仕事でした。受け取った日は、いちばん最初の一行にすぎません。
費用の欄にマイナスの行が並ぶ理由そのものは、こちらに書きました。
② 使途を指定された寄付金を、届いた口座で受けてしまった
これは、冷や汗をかいたほうです。
寄付が法人本部の口座に振り込まれました。振込先が本部なのだから本部で受ける。私はそう処理して、そのまま1年続けました。
気づいたのは決算のときです。公認会計士監査で指摘を受けました。寄付をくださった方は、特定の事業を名指しして「そこに使ってほしい」と伝えていた。目的が指定されている以上、帰属する拠点は本部ではない。結局、その年に受けた分をすべて振り替えました。
運用上の留意事項は、金銭の寄附について「寄附目的により拠点区分の帰属を決定し」と書いています。決めるのは目的であって、着金した口座ではありません。経常的な経費に対するものなら経常経費寄附金収入と同収益、施設整備や設備整備に対するものなら施設整備等寄附金収入と同収益。前者はサービス活動増減の部、後者は特別増減の部で、載る段そのものが変わります。
金額は1円も間違えていないのに、そのお金の居場所を間違えていたわけです。しかも寄付金は、寄附者・寄附目的・寄附金額を書いた寄附金収益明細書を残すことになっています。目的の欄がある書類を毎年つくりながら、その目的で帰属を決めていなかった。
この件で学んだこと:振り込まれた口座は、そのお金の住所ではありませんでした。住所を決めるのは、出した人の目的のほうです。
同じ留意事項には、寄付を収受したときは寄附者から寄附申込書を受けること、とも書かれています。お礼状は現場が出してくれます。申込書のほうは、こちらから頼まないと出てきません。
③ 物でいただいたものを、金額の欄がないという理由で後回しにした
3つ目は、いちばん間抜けなやつです。
物でいただくことがあります。備品だったり、行事に使うものだったり。現場は喜んで受け取って、お礼状も出す。ところが経理には何も来ません。入金がないので通帳も動かず、伝票を起こすきっかけがどこにもないわけです。
私はそれを、決算前まで置いてしまいました。忘れていたというより、いくらで計上するか決めかねているうちに次の月次が来ていた、というのが正確です。
寄附物品は、取得時の時価で計上することになっています。会計基準のほうにも、受贈で取得した資産には取得時における公正な評価額を付す、とあります。経常経費に対する寄附物品なら経常経費寄附金収入と経常経費寄附金収益。土地のように支払資金の増減に影響しないものは、事業活動計算書の固定資産受贈額として計上して、資金収支計算書には載せない。処理の道は、ちゃんと用意されていました。私が止まっていたのは、時価をいくらと置くかの一点だけです。
あらためて調べてみたら、その時価をどう求めるかまでは、会計基準にも通知にも書かれていませんでした。あるのは言葉までで、求め方は法人側に委ねられています。今の私は、ネット販売サイトで同じ品の販売価格を確認して、その画面を根拠として一緒に残しています。唯一の正解ではないので、自法人の経理規程や顧問の先生の見方は先に確認しておくところだと感じています。
ただし、なんでも計上するわけでもありません。留意事項には、飲食物等で即日消費されるものなどはこの限りではない、という但し書きがあります。線を引く場所が最初から用意されていることを知らないまま、私は全部を同じ重さで抱えていました。
この件で学んだこと:値段のついていないものに値段をつけるのも、経理の仕事でした。誰も金額を教えてくれないお金がある、と分かってから、後回しは減りました。
失敗から決めた、自分の3つのルール
3つとも、目的を後から知ったことが原因でした。だから線は、順番のほうに引いています。
ひとつ目、入金より先に「どなたから、何のために」を聞く。金額はあとで必ず分かりますが、目的は時間が経つほど分からなくなります。
ふたつ目、目的が書かれた紙を、必ず1枚もらう。補助金なら交付要綱や内示の通知、寄付なら寄附申込書。口頭で聞いた話は、翌年の自分には残りません。
みっつ目、物でいただいたものは、その場で金額をつける。時価は寝かせて精度が上がるものではなく、時間が経つほど根拠のほうが薄くなります。
この3つにしてから、補助金と寄付金で決算前に慌てることは、ほとんどなくなりました。やっているのは、紙を1枚もらって、聞くことを2つ決めただけです。
毎年使い回している経理規程のチェックシートにも、施設整備の財源という欄を作ってあります。監査で根拠を聞かれやすい処理を先に並べておく備え方は、こちらにまとめました。
それでも、補助金と寄付金は整えがいがあると思う理由
失敗を3つ並べると、面倒なお金だと読めてしまいそうですが、私の実感は逆です。
補助金と寄付金は、社福のお金のなかで、説明する相手の顔が見える数少ないお金です。
給付費は制度が決めた単価で入ってきます。相手は制度で、顔はありません。でも補助金には出した行政の担当者がいて、寄付には出してくださった方がいます。処理を整えておくと、その人たちに「いただいたお金は、こういう形になっています」と説明できる。寄附金収益明細書も補助金事業等収益明細書も、監査用の書類だと長く思っていましたが、そのまま説明の材料でした。科目を正しく置くのは、出した人の意図を会計の言葉で預かることなのだと、最近は思っています。
おわりに
補助金と寄付金でつまずいた3つは、制度が複雑だったからではありません。目的が書いてある紙を見ないまま、金額の欄だけで処理を決めていたのが原因です。
「使い道は、こちらに届く前に決まっている」。入金の通知を見るときに、今の私がいちばん先に思い出す一行です。
聞くのは2つだけです。どなたから、何のために。その2つをけちった分だけ、決算前の自分が固まることになります。また現場の話を書きます。
無料のExcelテンプレも置いています
社福経理の現場で「あったら助かる」と感じたExcelテンプレを、無料で配布しています。ダウンロードはnoteの記事から直接できます(登録不要)。
拠点別予実管理表
給付費突合せ管理表
月次決算チェックリスト
給与計算チェックシート
資金収支予算管理表
補助金や寄付金の取りこぼしも、結局はふだんの月次で気づけるかです。月次決算チェックリストあたりから、よかったら使ってみてください。
