ビジネスモデルを「見抜く力」が、あなたの仕事を変える #03
成功している企業を目にするとき、私たちはつい「あの商品が良かったから」「あのサービスが画期的だったから」と考えがちです。
しかし、成功の本当の理由はそれだけではありません。
多くの場合、すぐれた商品・サービスの背後には、それを支える「ビジネスモデル」の巧みさがあります。
仕組みを見ずして、成功の本質は見えてこないのです。
このビジネスモデルを「見抜く」視点は、事業を立案・変革する人はもちろん、商品・サービスを企画・開発する人、そして、法人営業を担当する人にとっても、非常に重要な意味を持ちます。
では、その「視点」を持つ人と持たない人とでは、日々の仕事にどのような差が生まれるのでしょうか。

「選ばれる人」と「選ばれない人」を分ける、たったひとつの視点
あなたのまわりに、こんな人はいませんか?
特別に声が大きいわけでも、突出したキャリアがあるわけでもないのに、クライアントから真っ先に連絡が来る営業担当者。
社内でいちばん声高にアイデアを主張するわけでもないのに、企画会議でいつも真剣に耳を傾けられる商品開発者。
華々しい肩書きがあるわけでもないのに、重要な経営判断の場に自然と呼ばれる事業担当者。
彼らに共通しているものは、いったい何でしょうか?
長年、多くのビジネスパーソンとともに仕事をしてきた私が気づいたのは、ある「視点」を持っているかどうか、その差でした。
それが、ビジネスモデルを「見抜く力」です。
目の前の仕事を単なるタスクとしてこなすのではなく、「この仕事は事業全体のどこに位置し、誰にどんな価値を生み出しているのか」を構造的に捉えられるかどうか。
その差こそが、「選ばれる人」「頼られる人」と、「そうでない人」を分けているのです。
「ビジネスモデルなんて、自分には関係ない」と思っていませんか?
ビジネスモデルというと、経営者や事業企画者だけが必要とする知識だと思われがちです。しかし、それは大きな誤解です。
もしそう感じているなら、それはとてももったいないことです。
法人営業を担う人にも、商品やサービスを企画・開発する人にも、そしてあらゆる職種のビジネスパーソンにとっても、この力は「明日の仕事を変える、強力な武器」になります。
本記事では、このビジネスモデルを「見抜く」視点を持つことで、仕事がどう変わるのかを、①法人営業、②商品企画・開発、③事業開発という3つの職種を通じて、具体例を交えながらお伝えしていきます。

【①法人営業】「売り込む営業」から「選ばれるパートナー」へ
💡ポイント
クライアント企業の「構造」を理解し、信頼の質を劇的に変える
法人営業の最優先事項は、もちろん商品やサービスを売ることです。しかし、クライアントのビジネスモデルを「構造的」に理解できれば、営業活動の質は一段上のステージへと引き上がります。
「また来たのか」と思われる営業、「会いたい」と思われる営業
法人営業に携わる人にとって、日々の目標は「商品やサービスを売ること」です。
しかし、どれだけ熱心に足を運んでも「なぜか話を聞いてもらえない」「いつも価格競争に引き込まれる」という壁にぶつかっているなら、今こそ「視点」そのものを見直す時かもしれません。
ここで、ある知人のエピソードをご紹介します。
独立して事務所を構えた彼のもとには、定期的に大手銀行の行員が飛び込み営業に訪れていました。行員はいつも丁寧に頭を下げ、「何かございましたらぜひ」と名刺を置いて帰っていきます。
熱心ではあるのですが、忙しい最中に来られることも多く、知人は正直なところ「また来たのか……」と内心うんざりしていたそうです。
そんなある日、別の銀行の営業担当者から一通のメールが届きました。
「貴社のウェブサイトを拝見し、現在のビジネスの仕組みを推察しました。その上で、貴社の収益スピードをさらに加速させるために、次のようなご提案を考えております。一度お話のお時間をいただけないでしょうか」
知人はその内容に感心し、すぐに面会の約束を取り付けました。「次に何かあれば、間違いなく彼に相談するだろう」と彼は確信を持って語っていました。
成約率を劇的に変える「対等な対話」
自社商品のアピールに終始する営業と、「御社のビジネスモデルはここが収益のポイントですよね。そこを強化するために、私たちはこんな力を提供できます」と提案する営業。
クライアントがどちらと深い関係を築きたいと思うか、言うまでもないでしょう。

営業のファーストステップとして最も重要なのは、クライアントのビジネスについて「深く、対等に語り合える」ことです。
信頼を得るために必要なのは、とにかく足を運ぶ「熱意」よりも、相手の事業構造を理解した上での「的確な会話」です。
クライアントのビジネスモデルを俯瞰し、相手にとっての本当のメリットを提示できれば、たとえ商品が競合と同じであっても、成約までのプロセスに劇的な差がつきます。
相手はあなたを「単なる売り子」ではなく、「自社の成長を共に考えるパートナー」として認識するようになるからです。
実践のための3つのステップ
そのために、次の3つのステップを意識してみてください。
ステップ①:顧客のビジネスモデルを深く理解する
ステップ②:収益が生まれるポイントを可視化する
ステップ③:顧客の強みをさらに加速・拡大するサービスを提案する
営業はときに「根性や体力」が不可欠な仕事のように語られますが、本来の武器は「ソリューションの蓄積」です。
ビジネスモデルを「見抜く力」を身につけ、目先の数字を追いかけるステージを脱け出して、ワンランク上の法人営業を目指しましょう。

【②商品企画・開発】アイデアを「事業」として成立させるために
💡ポイント
「Before-After形式」で未来像を描き、成功の確率を高める
商品やサービスを成功させるには、顧客ニーズを捉えるだけでなく、収益構造を含むビジネスモデルを理解することが重要です。目指す未来の姿を明確に可視化することで、企画の「実現性」は飛躍的に高まります。
「すぐれた商品」があれば、事業は成功する?
商品やサービスの企画・開発において、顧客ニーズを捉えることは大前提です。しかし、それだけでは十分ではありません。事業として成功させるためには、ビジネスモデルを理解し、分析・設計する視点も欠かせないのです。

私が30代前半の頃、リクルートで「デジタルKIDS教育事業」というプロジェクトに携わったことがありました。当時の私は「良いものをつくる」ことに意識が偏ってしまい、それを継続的に回していくビジネスモデルの理解が浅かったために、大きな失敗を経験しました。
この苦い経験から痛感したのは、「顧客ニーズの視点」と「ビジネスモデルの視点」、その両方を持つことの重要性です。どれほど優れた商品・サービであっても、それを支えるビジネスモデルがなければ、事業として続けていくことはできません。
成功への鍵は「Before-After」による可視化
そこで今、私が商品・サービスを企画する方々にお勧めしているのが、ビジネスモデルを構造的に整理して可視化するアプローチです。
なかでも特に有効なのが、「Before-After形式」のピクト図解®(ビジネスモデル専用の図解)を使って、事業の未来像を明確に記述する方法です。
自分が携わっている事業のビジネスモデルを、現在の姿(As-Is)と3年後の理想像(To-Be)で整理してみましょう。
ステップ①:現状のビジネスモデル(As-Is)を整理する
現在の顧客、提供価値、収益構造、チャネルなどを明確にします。
ステップ②:3年後の理想的なビジネスモデル(To-Be)を記述する
進化させた提供価値や、新しい収益モデルを検討します。

このプロセスでは、「図」を使って構造を可視化することが不可欠です。複雑な仕組みであっても、チーム全体が直感的に理解でき、「共通言語」として共有できるようになるからです。
単なる「アイデア出し」で終わらせないために
理想のビジネスモデル(To-Be)を起点に考えることで、開発すべき商品・サービスのあるべき姿や優先順位を、単なる思いつきではなく、「収益性や成長戦略」という経営的な裏付けを持って検討できるようになります。
この「構造的な思考」こそが、企画の実現性と成功確率を飛躍的に高める鍵です。
あなたが温めているその企画は、未来の事業構造まで描けているでしょうか?
いいアイデアだけで終わらせないために ── ビジネスモデルの設計と可視化を、ぜひ日々の仕事に取り入れてみてください。

【③事業開発】論理的な意思決定を支える「設計図」を描く
💡ポイント
事業の仕組みを「設計図」として捉え、本質的な課題を見極める
ビジネスモデルは、事業の仕組みを示す「設計図」です。これを構造的に理解することで、感覚に頼らない論理的な意思決定が可能になります。また、チームや関係者と進むべき方向を共有するための「共通言語」としても機能します。
事業の立案・変革に欠かせない「設計図」という考え方
新たな事業を立ち上げるとき、あるいは既存の事業を見直すとき、ビジネスモデルの理解は欠かせません。ビジネスモデルとは、事業の仕組みを体系的に示す「設計図」であり、成功への道筋を描くための基本的なツールです。

この「設計図」を持つことで、事業の構造を俯瞰的に捉えられるようになり、課題の発見や変革の方向性を論理的に導き出せるようになります。
特に既存事業の「ビジネス変革」においては、感覚的な判断ではなく、構造的な「分析」と「設計」が求められます。
ビジネスモデルを構造分解して考えることで、「どの要素を変えるべきか」「どの要素は維持すべきか」が明確になり、意思決定の精度が高まります。

こうした変革を検討する際に欠かせないのが、「Before–After形式」のピクト図解®によるビジネスモデル設計図の作成です。
設計図がなければ、変更が事業全体にどのような影響を与えるのかを正確に予測することは困難です。
この設計図があるからこそ、変更をシミュレーションしながら、リスクを管理しつつ変革を進めることができるのです。
社内外とのコミュニケーションを円滑にする
「ビジネスモデル設計図」は、社内外の関係者とのコミュニケーションにおいても大きな威力を発揮します。
投資家や経営陣に対しては、事業の全体像をわかりやすく説明できるため、理解や信頼を得やすくなります。チーム内でも、認識を揃えたり戦略の方向性を一致させたりするための「共通言語」として機能します。

アイデアを成果につなげる「構造的な設計」
事業を成功に導くには、斬新なアイデアだけでは不十分です。それを現実のものにするための構造的な設計が伴って、初めて事業は動き出します。
事業の立案や変革において、「ビジネスモデルの知識」は単なる理論ではありません。実務に直結する、実践的な武器です。
ビジネスモデルを「構造」的に捉える力を養うことで、論理的な意思決定ができるようになります。
そしてそれこそが、アイデアを確かな成果へと変えていく原動力となるのです。

自分の仕事に、どうつながるのか
ここまで、①法人営業、②商品企画・開発、③事業開発という3つの職種を通じて、ビジネスモデルを理解することの重要性をお伝えしてきました。
しかし、この「視点」が必要なのは、現場の最前線に立つ人たちだけではありません。
プロダクトやサービスを形にするクリエイターやエンジニアはもちろん、知財法務・人事・経営企画・財務経理・情シスといったコーポレート部門のスタッフにとっても、
ビジネスモデルを見抜く力は、「明日の仕事を変える、強力な武器」になります。
テクノロジーの進展とともに、ビジネスモデルは絶え間なく変化しています。特に生成AIの登場により、ビジネスはより複雑かつスピーディーなものへと変貌しました。
AIがルーチンワークを代替していく時代だからこそ、単なる「作業」をこなすスキル以上に、「事業の仕組み」そのものを理解する力がいっそう求められています。
「他人ごと」から「自分ごと」へ
「ビジネスモデルなんて自分には関係ない」── もしそう感じているなら、それはもったいないことです。
目の前のタスクをこなすことに追われるあまり、時代の急激な変化に、気づかないうちに取り残されてしまうかもしれません。
今、磨くべきは、「全体像を捉えながら価値を生み出す力」です。
ビジネスモデルを理解すると、自分の仕事が「事業のどこに、どのように貢献しているのか」という位置づけが明確になります。
それによって、チームとの連携がスムーズになり、判断の質も変わってきます。
ほんの少し「視点」を変えるだけで、成果や価値の生み出し方が大きく変わることも珍しくありません。
・あなたの仕事において、ビジネスモデルを理解したとき、どんな判断が変わるでしょうか?
・競合のビジネスモデルを見抜けたなら、どのような一手を提案できるでしょうか?
・自社のビジネスモデルを深く掘り下げたとき、どんな変革のヒントが見えてくるでしょうか?
ビジネスモデルを「見抜く力」は、単なる分析スキルではありません。
それは、
あなた自身の仕事の意味をより深く理解し、未来をより良くしていくための「視点」そのものです。
ぜひ一度、「自分ごとの問い」として、じっくり考えてみてください。


(第4話につづく)
まとめ
ビジネスモデルを「見抜く」ことで、商品企画や事業開発、ソリューション営業の精度が格段に高まります。
自分が所属する事業部のビジネスモデルを「Before-After形式」で整理し、目指すべき未来の姿を明確に描いてみましょう。
ビジネスモデルの知識は、ビジネス職種に限らず、クリエイターやエンジニア、コーポレートスタッフにとっても「明日の仕事を変える、強力な武器」となります。
〈次回の予告〉
(第4話)事業を「商品・サービス」と「ビジネスモデル」の2つに分けて考える
9月15日(火)11:00 ごろ公開予定
「商品・サービス」は、目に見えます。手にとって触れる、あるいは体験することができます。一方、「ビジネスモデル」は、目に見えません。触れることも、体験することもできません。
この「見えない」という性質こそが、ビジネスモデルをわかりづらいもの、イメージしづらい「難解なもの」と誤解させている最大の原因です。
しかし、目に見えないビジネスモデルは、適切な手法やフレームワークを使えば「可視化」することができます。難しいのではなく、ただ「可視化の手法」を知らないだけなのです。
いったん可視化できてしまえば、ビジネスモデルの理解はそれほど難しいものではありません。第4話で詳しく解説します。



▼本連載のもとになっている書籍はこちら
<リクルートで学んだビジネスモデル発想法>
ビジネスモデルを見える化する ピクト図解 目次
はじめに
Part-1 ビジネスモデルを見抜く
1 ビジネス想像力クイズ
2 ピクト図解とは
3 ビジネスモデルを解読する
Part-2 ビジネスのアイデアを発想する
4 ダイアグラム発想法
5 アナロジー発想法
6 アイデアの風呂敷をたたむ
おわりに

📘「ビジネスモデル思考」が身につくnote
事業における「儲けのメカニズム」を体系的に理解し、実務に活かす思考法 ── 「ビジネスモデル思考(Business Model Thinking)」を、ピクト図解®(ビジネスモデル専用の図解)を使って深く掘り下げていきます。全20回連載(予定)。
▼こんな方におすすめ
商品やサービスの企画・開発に携わっている方
新規事業の立ち上げを担当している方
経営者や事業責任者と仕事をする機会の多い方
ワンランク上の法人営業を目指している方
ビジネスモデルそのものに強い関心をお持ちの方
▼第1話から順に読みたい方はこちら
「ビジネスモデル思考」が身につくnote【第1話】
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