『さよならの向こう側』第3回 いつもの朝(孝輔視点)#創作大賞2025 #恋愛小説部門
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6月の朝の光がカーテン越しに差し込み、薄く柔らかな影を落としている。
キッチンに立つ僕は
フライパンの中の卵焼きをトントンしながら形を整え
コンロ脇に置いたスマホで時間を確認した。
「あと15分か……」
白い弁当箱には、既に色とりどりの
野菜と唐揚げが詰められている。
最後のスペースに、切ったばかりの卵焼きを
丁寧に収め、あら熱を取る。
「晴美、お弁当、ここ置いとくぞ。
5分経ったら蓋を閉めてくれ」
そう声をかけると、あー、とも
うー、ともつかない返事が聞こえ
リビングでは晴美がランドセルを背負い
姿見の前で髪を直していた。
「今日、図書委員だから、ちょっと早めに行く」
小さく言って、彼女はバタバタと玄関へ。
「行ってら。気をつけてな」
「うん、いてきまー!」
ドアが閉まる音とともに、家の中がふっと静かになる。
僕はひと息ついてから、
ダイニングテーブルでPCを開く。
会社のTeamsには
既に数件の通知が来ていた。
週に二日の在宅勤務。時間を区切って
効率的に働くことが求められるぶん
開始時刻には神経を使う。
「よし……切り替えるか」
着席と同時に自動的にログインされる仮想オフィス。
イヤホンをつけて、最初のミーティングへと入る。
画面の向こうでは、部下が進捗報告をはじめる。
僕は頷きながら、時折メモを取りつつも
どこか心ここにあらずの時間もあった。
ふとした瞬間に浮かんでくるのは
あの休日の昼下がりのこと。
明日香と映画を観たあとの、あのやわらかい沈黙。
「昔、俺……明日香のこと
ちょっと好きだったと思う」
「あー……いや、わりと、だったかも」
自分が口にした歯切れの悪い言葉を、思い出すたび
気恥ずかしさで自分が嫌になる⋯
けれど、あのときの明日香の反応を思い出すと
無駄じゃなかったことだけは、確かにわかる。
午後、仕事の区切りがついたタイミングで、
晴美の好きな焼きおにぎりを作りはじめる。
炊きたてのご飯に、市販のラーメンスープ。
ご飯にスープの脂が適度にまわって、焦げ付かずにこんがり焼けるのだ。
ああ、いい匂い。
今日は午後6時までにすべて終わらせて、娘と近所の図書館に寄る約束がある。
短くアラームをセットし、画面に向かって指を動かしながら、心の片隅に、明日香の存在が静かに滲んでいた。
(つづく)
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※このお話はフィクションです。実在するお店や施設が登場しますが、メニュー、営業時間などは事実と異なる場合があります。
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