『さよならの向こう側』第19回 明かされた秘密(前編) #創作大賞2025 #恋愛小説部門
毎日更新中、あと4回で最終話です。ぜひ最後までお楽しみください。
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夜が明ける頃には、雨も止んでいた。
灰色の空の下、明日香は母・佐倉澄江の暮らす家を訪れていた。
玄関の呼び鈴を押す手が、少しだけ震える。
ドアが開くと、澄江は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を和らげた。
「……上がってちょうだい」
母娘が向かい合って座るのは、何年ぶりだろう。明日香の前には湯気の立つ湯呑が置かれ、澄江は少し迷うように目を伏せた。
「……アルバムを、見たのね」
明日香は小さくうなずく。
「晴美は、わたしの子なの?」
しばらくの沈黙のあと、澄江は静かに語り始めた。
「あの子は……あなたと、別の人との間にできた子よ」
明日香は息を呑んだ。
「あなたは由紀夫さんと婚約中だった。でも、そのころ精神的に不安定で……私たち、ずっと心配していたのよ」
言葉を選ぶようにしながら、澄江は続ける。
「妊娠がわかったとき、正直どうすればいいか分からなかった。
でも、あなたは誰の子かすら、私たちに教えようとはしなかった。
由紀夫さんに話したら……それでも彼は結婚したいと言ってくれたの。
ただし、『自分はその子を育てない』という条件でね」
明日香は膝の上で手を握りしめた。
「結婚は予定通りにする。そのかわり、子どもを育てることは認めない。
……そう由紀夫さんは言ったの。
私たち夫婦は悩んだけれど、あなたの将来を考えて、その条件をのむしかなかった」
澄江の手が震えていた。
「生まれた子は、あなたには『死産だった』と伝えることにした。……ごめんなさい、本当に……」
明日香の目に、涙が溜まる。
「じゃあ……なぜ涼下さんのところに?」
「孝輔さんのご両親とは昔からの親しい付き合いがあってね。
事情をすべて話して……この子を、
あなたの人生から切り離して育ててほしいって、お願いしたの」
「……孝輔も、知ってたの?」
「あなたの子だと言うことだけ、伝えたみたい。
それ以上の事情は、彼のご両親しかご存知ないわ」
明日香は息を詰める。
母の言葉は、突き刺さるような痛みと、どこか懐かしい安堵を伴って胸に沈んだ。
——わたしは、母親だったんだ。
その事実が、じわりと体の奥に染み込んでいく。
ふと、スマートフォンが震えた。 画面には「涼下孝輔」の文字。
明日香は涙を拭って、電話を取った。
「……もしもし」
『あの、今どこ?無理しなくていいけど……大丈夫なのか?
会社も休んでるって聞いたから』
明日香は、深く息を吸った。 そして、声を震わせながらも、はっきりと答えた。
「……うん、大丈夫。明日には帰るよ
母を、東京に連れていく。
三人で、話そう、全部」
(つづく)
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※このお話はフィクションです。登場するお店のメニュー、営業時間などは事実と異なる場合があります。
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