『さよならの向こう側』第18回 晴美 #創作大賞2025 #恋愛小説部門
毎日更新中、あと5回で最終話です。ぜひ最後までお楽しみください。
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リビングに入ってきた孝輔は、明日香の手元のアルバムに目をやった瞬間、表情をこわばらせた。
「それ……見たのか」
明日香は、うなずくより先に孝輔の肩に強くしがみついた。涙が、そのあとを追うように溢れた。
「あ、あたし⋯ あたしの⋯
と、とらないで⋯
つれて、つれていかないで
おねがい⋯」
孝輔は、痙攣するようにガクガク震えはじめた明日香を強く抱きしめた。
「ごめん。話すべきだった。でも、どうしても、できなかった」
突然、明日香は暴れようとした。彼女の脊髄に電流が走ったように、強い力で孝輔の背中を引きむしった。
「できない!ちがう!
できないちがう!!
よくも!おまえ!!
うらんでた!あ⋯あたしうらんでた!
いち⋯いちにちだって、わ⋯すれない!
おまえ!」
孝輔は一瞬うめき声をあげたが、明日香の背中をさすりながら、穏やかな声で耳許でささやき続けた。
大丈夫、生きてるよ。
大事に、そだててる。僕がそだててる。
明日香の、たからもの。
誰も、とったりしないよ。
きみに、返すために、大事にそだててきたんだ。
「だ、だいじ⋯
こうすけ、だいじ⋯
あたし、こうすけ、だいじ」
とらない、こうすけ、とらない」
そうだよ。
明日香、おかえり。
きみが、帰ってくるのを待ってた。
きみの赤ちゃんと、ずっと待ってた。
「まってた⋯
あかちゃん、まってた⋯
わたしの、あかちゃん⋯」
子守り歌を歌うように。
祈りを捧げるように。
明日香の背中をさすりつづけるうちに
痙攣のような震えが遠のいていく。
孝輔の背中につけられた無数の傷はまだ熱を帯びて痛んだが、安堵と疲労から、いつしか二人とも眠りに落ちていた。
夜が白々と明けはじめた頃、明日香は目を覚ました。
なぜか自分の部屋に孝輔がいて、しかも抱きしめられたまま眠っていた。
覚えていない。
孝輔のシャツの背中は引き裂かれ、黒ずんだ血がべっとりと、張り付いて乾いている。
⋯レイプ?
思わず嫌な想像をしたけれど、わたしの服装はどこも乱れていない。
わたしが、やったの⋯これ?
「孝輔。
ねえ、孝輔。
⋯死んでないよね?」
両手で肩を揺すると痛みがよみがえるのか、苦痛にゆがみながらも、わたしの顔をみて笑顔をつくろうとする彼。
床に目をやると、アルバムの中の少し若い孝輔が、眩しそうに目を細めてわたしを見たように感じた。
「⋯あなたなのね⋯育ててくれたのは?」
「……ああ。
あの子は、きみの子としては、どうしても育てられない事情ができたと、きみのご両親から、たってのお願いがあった。
詳しい事情は話してもらえなかったけど、晴美は、子供がいなかった僕たちのもとに来てくれて……
そして、僕と妻のかけがえのない存在になった」
明日香は、顔を覆った。
涙があとからあとからあふれて止まらなかった。
光の向こうに隠れていた真実。
それは、痛みと後悔に満ちていたけれど、
同時に、確かに愛されていた日々の証だった。
アルバムの最後のページに、幼い晴美が、砂浜でこちらに手を振る写真があった。 その笑顔が、明日香の胸の奥に、優しく、痛いほど沁みた。
(つづく)
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