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『さよならの向こう側』第5回 萌との再会(明日香視点)#創作大賞2025 #恋愛小説部門

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代官山の閑静な住宅街の一角。

アーチをくぐると、緑ゆたかな庭園に護られるかのように
白亜のチャペルがそびえ、邸宅が広がっていた。

季節の花々が彩る中庭。

噴水が陽を受けてきらめき、
石畳の上をドレスの裾が優雅に揺れる。

控えめに流れるクラシックの生演奏と、
グラスに注がれるシャンパンの音。

すべてが洗練されていて、眩しかった。

その会場の中央で、花嫁が微笑んでいた。


レースのロングスリーブに包まれた華奢な肩。
髪は緩やかに巻かれ、
耳元で揺れる真珠が午後の光を反射している。

「…変わってないですね、明日香…先輩」


そう声をかけてきたのは、新婦――新藤萌だった。

「ほんと? 10年ぶりなのに? ありがとう」

少し照れたように微笑むわたしに、
萌もにっこりと返す。
だがその瞳の奥には、ほんのわずかな光のゆらぎがあった。

「来てくださって、うれしいです。
 てっきり…来ないかと思ってました」

「そんなことないよ。萌の晴れ舞台だもん。
 招待してもらえて光栄だよ」

「でもちょっとびっくりしました。
 明日香先輩、最近あんまり…
 人前に出る感じじゃなかったから…

 なんていうか、お忙しそうなのかなって。
 少し…お疲れ気味ですか?」


あくまで柔らかい声のトーン。けれど、棘は確かにあった。


「ありがとう、心配してくれて。
 まあね、転職してからは色々と。地味な仕事ばかりよ」

「へえ…、そうなんですね。
 でも先輩って昔から、どんな環境でも“結果”を出す
 タイプだったじゃないですか。
 …わたし、いつも敵わなくて」

「そんなことないよ。萌は、すごく頑張ってた」

「頑張っても、先輩には勝てなかったです。
 仕事も、恋愛こいも。

 でもいま、こうして皆さんに祝福してもらえて…
 やっとちょっとだけ、報われた気がします」

笑顔のまま言うその言葉に、
わたしは一瞬だけ返す言葉を失った。

当時の萌が誰を好きだったのか、気持ちには気づいていた。
でも、わたしにどうこう出来ることじゃないのに
こんなに根に持っていたなんて。

こちらの空気を読んだのか、
すこし離れた場所にいた男性がにこやかに声をかけてきた。

「はじめまして、新郎の拓郎です」
「明日香さんですよね?
 妻が、仕事では明日香さんに育てていただいた、って
 いつもお噂は聞いています」

背の高いスーツ姿の男性、穏やかな笑顔。
どこか孝輔の面影を感じるのは、考えすぎだろうか。

わたしは精一杯の笑顔で、
「おめでとうございます」と言うのがやっとだった。

「ありがとうございます。今日は、思い出に残る一日にしたいですね」

「……ええ。きっと、忘れられない日になると思います」

拓郎さんに微笑み返しながら、
わたしはほんの少しだけ
胸の奥がざらつくのを感じた。

まるで合わせ鏡のようだ。
過去の自分と、今の萌。
過去に彼女を“負かしていた”自分と、今こうして“勝ち誇っている”彼女。

グラスのシャンパンが少し揺れた。

外では鐘が鳴り始め、
新郎新婦がフラワーシャワーの中を歩き出した。

きらびやかな祝福の渦のなか、
わたしは、胸に小さな棘を抱えたまま拍手を送った。

(つづく)

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※このお話はフィクションです。実在するお店や施設が登場しますが、メニュー、営業時間などは事実と異なる場合があります。


【今回の舞台】
全館貸切ゲストハウス「代官山アーカンジェル」



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