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「5月に売れ」をBotに入れたら、下げ幅は縮んだ。でも年利がそれ以上に減った

こんにちは、クロンです。インフラエンジニアの管理職をしながら、AI(Claude Code)と一緒に日本株のスイングBotを自作しています。プログラミングもデイトレも素人です。

これは連載の8本目です。前回まではこちら↓

「月1%」が「月0.6%」に。バックテストの数字を26年でならしたら
バックテストの次は「フォワードテスト」。口座ゼロでも今日から始められる
損切りもショートも効かない。効いたのは地味な「分散」だけだった
「ツキイチ」を「シューイチ」にしたら、成績が半分になった
バックテストで"効いた"のに、手数料を入れたら消えた
"炭鉱のカナリア"を見張り番にしたら、暴落の痛みが浅くなった
銘柄を増やしたら年利がほぼ倍になった。でも、それは「未来のカンニング」だった

「Sell in May and go away(5月に売って夏は相場から離れろ)」。
株をやっていると一度は聞く格言です。
毎年5月が近づくとニュースにも出てきます。

僕のBotに、これをルールとして組み込んでみました。結果はこうです。

暴落したときの下げ幅は、たしかに浅くなった。でも、それ以上に年利が削れて、差し引きマイナスだった。

守りとしては効いているのに、採用できない。今回はその「なぜ」の話です。

この記事で分かることは3つです。

  • 「Sell in May」の本当の意味(「5月に暴落する」は誤解)

  • 守りが効いたのに却下した理由。「下げ幅が縮んだ」だけでは足りない

  • 有名な格言や手法を自分のルールに足すか決めるときの、判断の型

そもそも「Sell in May」って何なの

まず、格言の中身を整理します。ここを勘違いしている人が多い(僕も最初そうでした)。

「5月に株が暴落する」という意味ではありません。

もとの言い回しは「Sell in May and go away, but remember to come back in September(5月に売って離れ、秋に戻ってこい)」。
意味は「冬の半年(11〜4月)のほうが、夏の半年(5〜10月)よりリターンが高い」という"差"の話です。

これには学術的な裏付けもあります。2002年の有名な論文(Bouman & Jacobsen)では、世界37の市場のうち36で「11〜4月」の株の成績が「5〜10月」を上回っていて、その差は半年でおよそ10パーセントポイント。イギリスでは1694年から観測できる、という話まで出てきます(出典:American Economic ReviewWikipedia "Sell in May")。

だから「5月に売る」というより「夏は分が悪いから軽くしておく」が本来のニュアンスなんですよね。

ただ、日本株では最近ぼやけている

もうひとつ先に言っておきます。この効果、日本株では近年ハッキリしなくなっているという指摘が多いです。

  • 過去30年の日経平均で見ると、5月そのものは上昇16回・下落14回で、平均するとむしろプラス(+800円ほど)。「10月末に買って翌年5月末に売る」をくり返すと30年で+328%という検証もあります(出典:日経予想のブログ)。

  • 別の運用会社のコラムでは、直近15年の日経平均で6〜9月がプラスだった年は8年/15年。「下落の傾向は見られない」「古くから言われるアノマリー(=経験則)は近年の傾向と違うものが少なくない」と結論づけています(出典:ニッセイアセットマネジメント)。

出発点からして怪しい。それでも「検証コストが安い」ネタだったので、一度きちんと自分の数字で確かめておくことにしました。連載1本目に書いた通り、もっともらしい話ほど自分のデータで殴ってみる、が僕のスタンスなので。

おさらい:僕のBotがやっていること

ざっくりだけ。僕のBot「ツキイチ」は、毎月1回、その時いちばん勢いのある大型株の上位数銘柄に入れ替えるだけです。過去の値動きの強さ(モメンタム=勢い)だけで機械的に決めます。

そして、相場が崩れてくると株の持ち分(0〜100%)を自動で下げる安全弁がいくつかついています。指数が下向きになったら減らす、値動きが荒くなったら減らす、あと連載6本目で書いた「新興国株を見張り番にして、そこが弱ったら減らす」という仕組み(=カナリア)もこの一種です。

今回やったのは、この「株の持ち分」を決めた後に、もうひとつ掛け算を足すことです。

やったこと:カレンダーの月で持ち分を減らす

安全弁を全部通した後の株の持ち分に、その月がいつかだけで決まる係数を最後に掛けました。中身はカレンダーを見るだけ。相場は一切見ません。

試したのは5パターンです。

  • 5〜10月の持ち分を「半分」にする(11〜4月はそのまま)

  • 5〜10月を「ゼロ」にする(夏は全部現金)

  • 5〜10月を「7割」にする(マイルド版)

  • 8〜9月だけ「半分」にする(日本株の夏枯れを狙い撃ち)

  • 8〜9月だけ「ゼロ」にする

これを、現行のツキイチと、手数料あり・なしの両方で、さらに期間を前半・後半に割って比べました。全部で36通りです。

結果:下げ幅は縮んだ。でも年利がそれ以上に減った

数字はすべて僕の実測で、2005〜2026年の21年ぶんのバックテスト(=過去のデータで作戦を試すこと)。
過去データ上の結果で、将来を保証するものではありません。

現行のツキイチは 年利 +11.2% / 暴落時の最大の落ち込み -25.4%
ここに季節ルールを足すと、こうなりました(手数料あり・全期間)。

足したルール 年利 最大の落ち込み 現行(何もしない) +11.2% -25.4% 5〜10月を半分に +7.6% -22.2% 5〜10月を7割に +9.1% -21.9% 8〜9月だけ半分に +9.7% -25.7%

「5〜10月を半分・7割に」した版は、最大の落ち込みが -25.4% から -22.2%/-21.9% へ、はっきり浅くなりました。前半・後半に期間を割っても、どちらでも 2〜5ポイントぶん浅くなっています。守りとしては、ちゃんと効いています。

でも、年利が同時に 2〜4ポイント落ちました。落ち込みを 3ポイント浅くするために、年利を 3〜4ポイント手放している。しかも「夏を全部現金に」した極端版だと、年利は +3.9% まで落ちます。

僕のBotの採用ライン(年利は0.5ポイント以内の低下まで/落ち込みは減らす/前半・後半の両方で通る)には、まったく届きません。5パターンとも却下でした。

「リスクの取り方の効率」も良くならなかった

年利だけじゃなく、もうひとつ見る数字があります。リスクの取り方の効率(リターン ÷ 値動きの荒さ。専門的にはシャープレシオと呼ばれます)。

  • 現行:0.81

  • 5〜10月を半分に:0.69

  • 5〜10月を7割に(マイルド版):0.75

効率はむしろ下がりました。 落ち込みが浅くなったぶん「リスクを抑えた」ように見えるけど、その割にリターンの減りが大きくて、率で見ると割に合っていない。

これ、要するに「ただ株を減らしただけ」なんですよね。同じことは、カレンダーなんて見なくても「1年中ずっと株を少なめに持つ」だけでできる。季節ルールは何も足していない。

なぜこうなったのか

ここが今回いちばん腹落ちしたところです。

僕は検証を始める前、こう予想していました。「Bot の深い谷は冬(2016年1月の中国ショック、2018年12月、2020年のコロナ)に集中しているはずだ。だから夏を軽くする Sell in May は、そこを守れないんじゃないか」と。

この予想は外れました。

Bot の過去いちばん深い下げがいつだったか、あらためて調べたら——2024年8月でした。おととしの夏、日経平均が1987年以来の下げ幅を記録した日(円を売って株を買う取引が一気に巻き戻った、あの週)です。2番目に深かったのは2019年6月(米中の貿易摩擦がこじれたとき)。どちらも夏です。

つまり、Sell in May が「株を軽くしろ」と言っている時期に、Bot の最悪の下げがちゃんと入っていた。
だから下げ幅は本当に浅くなった。予想と逆でした。

でも——それでも却下なんです。理由はシンプルで、5〜10月も、平均すればリターンはプラスだから。「冬よりは弱い」というだけで「マイナス」ではない。半年ぶん株を減らせば、たまに来る夏の急落を避けられるかわりに、毎年の夏の上げも取り逃す。差し引きすると、避けた損より逃した利益のほうが大きかった。それが「年利 -3〜4ポイント」の正体です。

手数料をゼロにして回しても、年利は 1.6〜7.7ポイント落ちたままでした。売買の回数もほとんど変わっていません。つまり手数料のせいじゃなく、夏に株を減らすこと自体が効いてこうなっている。

格言を足すか決めるときの、判断の型

今回の学びを一般化すると、これです。

「守りが効いた」だけで飛びつかない。手放したリターンとセットで見る。

下げ幅が 3ポイント浅くなった、は良いニュースに見えます。でもそのために年利を 4ポイント、効率の数字まで落としていたら、それは「守りが強くなった」んじゃなくて、ただ臆病になっただけです。

見分け方は、次の3つ。

  1. 落ち込みの改善幅と、年利の低下幅を並べる。 改善幅より低下幅が大きければ、割に合っていない。

  2. リスクの取り方の効率(リターン ÷ 値動きの荒さ)が上がったか下がったか。 下がっているなら「リスクを減らした」んじゃなく「リターンをそれ以上手放した」だけ。

  3. 同じことが、もっと単純な方法でできないか。 今回なら「1年中ずっと株を少なめに持つ」で同じ効果。カレンダーが何も足していないなら、足す意味がない。

もうひとつ、恥ずかしい話も書いておきます。この検証、最初に結果をまとめたとき、落ち込みの数字を読み間違えていました。「-22.2% は -25.4% より小さいから悪化」と勘違いして、「下げ幅も悪化した」とメモに書いていたんです(マイナスの数字なので、-22.2% のほうが浅い=改善が正しい)。気づいたのは、この記事を書くために数字を1個ずつ検証メモと突き合わせたとき。自分の書いた数字にすら、普通にだまされる。連載1本目の「バックテストの数字を疑え」は、他人の数字だけじゃなくて自分のにも刺さります。

次にやること/同じところで迷っている人へ

これで、ツキイチ本体に何かを「足す」試みは9連敗になりました(連載3本目・4本目からの通算)。損切り、ショート、頻度アップ、重み付け、季節ルール……ことごとくダメ。効いたのは「金を混ぜる」「新興国株を見張り番にする」という、足し算というより分散の2つだけ。

正直、そろそろ「これ以上いじらない」が答えなんだろうな、と思っています。次はしばらく、動いているBotがバックテスト通りに走っているかの定例点検に軸足を移します。

同じところで迷っている人へ。守りを足して「下げ幅が縮んだ!」と思ったら、その隣に「年利がいくら減ったか」も書いておくといいです。 減ったリターンのほうが大きければ、それは強くなったんじゃなく、ちぢこまっただけ。僕は36通り回して、それを確かめました。


※この記事は僕の開発記録です。特定の銘柄や手法をすすめるものではありません。投資は自己判断で。

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