総務省調査で耐震化率90%なのに空き家385万戸残る
全国の住宅耐震化率は2023年時点で90%に達した。裏を返せば、残る10%——570万戸は震度7クラスの揺れで倒壊するおそれがある家だ。国土交通省の調査による数字である。
消えていくのは「危険な家」というより「住民のいない旧耐震の空き家(『都市をたたむ』(饗庭伸) ※広告)」が中心だ、というのが公開データを重ね合わせて見えてくる構造だ。その理由を、公表されている統計から追ってみる。
「旧耐震住宅」とは何を指すのか

旧耐震住宅とは、1981年(昭和56年)6月の新耐震基準施行より前——いわば「昭和55年以前」の基準で建てられた住宅を指す。総務省の令和5年住宅・土地統計調査は、空き家(売却用・賃貸用・別荘を除く)の「3/4超が昭和55年以前に建設」されたと明記している。
570万戸のうち、どれだけが「空き家」なのか
総住宅数6502万戸のうち、空き家は900万戸(13.8%)。そのうち賃貸にも売却にも出ていない「その他空き家」は385万戸ある。この385万戸に「3/4超が旧耐震」という総務省の記述を掛け合わせると、約289万戸が「人が住んでいない旧耐震の家」という計算になる。国交省が示す要耐震化570万戸のおよそ半分が、この空き家層と重なる可能性が高い。
用途別では一戸建て85%・共同住宅96%と、耐震化の遅れは一戸建てに偏っている。旧耐震の木造戸建てが、この構造の主役だ。
なお「旧耐震住宅40万戸が消える」という数字がまちづくり界隈で語られることがあるが、その一次資料は今回、公開情報の範囲では確認できなかった。本稿では確認できた570万戸・289万戸という数字で構造を追う。
何が「消える」を後押ししているのか
2023年12月13日、改正空家法が施行された。放置された空き家が「管理不全空家」に指定され勧告を受けると、固定資産税の住宅用地特例(最大1/6軽減)が外れる。"持っているだけ"の方が得だった空き家が、初めて"持ち続けるコスト"を背負う形になった。
国は除却一辺倒ではない。2024年度補正予算では耐震改修補助の上限を100万円から115万円に引き上げ、高齢者向け改修費融資の利払い軽減策も用意した。国交省は令和17年(2035年)までに耐震性不十分な住宅をおおむね解消するという目標を掲げている。あと9年で、この570万戸の大半が改修されるか除却されるかのどちらかに振り分けられる計算だ。
古い家が担っていた「防御力」とは何だったのか
ここで一度、立ち止まりたい。除却が進めば、統計上の耐震化率は上がる。だが「古い家が消える」ことに地域から不安の声が出るとしたら、それは建物の耐震性能の話ではないはずだ。
顔の見える近所付き合い、空き地・空き家を互いに見守る関係、災害時に真っ先に様子を見に行く隣人——旧耐震の家が並ぶ地域には、統計に乗らない共助のネットワークが根を張っていることが多い。除却が消すのは建物であって、共助そのものが自動的に消えるわけではない。だが、家という「拠点」を失った関係は、更地の上では続けにくい。ここが最大の弱点だと思う。
木密地区は逆の実例ではないか
一方で、この見方には強い反論が成立する。東京都の木造住宅密集地域(木密)整備事業は、老朽建物の建替え・道路拡幅・公園整備を通じて、消防車が入れない・延焼が広がるという物理的リスクを解消する目的で進められている。古い木造密集家屋は、震災時にはむしろ延焼・倒壊・救助活動阻害の主因になり得る。「古い家=守り」と情緒的に語りすぎると、木密対策の現場で積み上げられてきた実務と正面から矛盾する。
つまり「防御力」という言葉が指すべきは建物の耐震性能ではなく、その建物を拠点に成立していた共助・空間認知の方だ、と切り分けて考える必要がある。同じ「古い家」でも、空き家活用の文脈では資源として語られ、防災の文脈ではリスクとして語られる。この温度差そのものが、この10年のまちづくり行政が抱えている宿題だと思う。
あなたのまちではどうか
あなたの自治体の「その他空き家」率と、木密・老朽住宅密集地域の指定エリアは重なっていますか、それとも別の場所にありますか。重なっていれば、除却と改修の優先順位づけは一段複雑になるはずだ。
調べ方は難しくない。総務省統計局の「住宅・土地統計調査」は都道府県・市区町村単位でその他空き家数を公表している。自分の自治体名+「空き家 管理不全 指定」で検索すると、改正空家法に基づく指定状況が公開されているケースが多い。
FAQ
**Q. 旧耐震住宅とは何ですか。**
1981年(昭和56年)6月の新耐震基準施行より前、旧耐震基準で建てられた住宅を指す。震度6強〜7の揺れで倒壊するおそれがあるとされる。
**Q. なぜ「空き家」に注目する必要があるのですか。**
総務省統計と国交省の要耐震化戸数を重ねると、要耐震化住宅のおよそ半分が誰も住んでいない空き家と推計できるからだ。住民の生活がかかっていない空き家の除却の方が本来は優先度が高いはずだが、除却補助のメニューは自治体ごとにばらつきが大きい。
**Q. 除却すれば防災上は良いことばかりですか。**
物理的な倒壊・延焼リスクは下がる。ただし家という拠点を失うことで、そこに根づいていた近所付き合いや見守りの関係が続けにくくなる面もある。
※ 出典
国土交通省「住宅の耐震化の状況について」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html
総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html
東京都都市整備局「木造住宅密集地域整備事業」https://www.funenka.metro.tokyo.lg.jp/initiatives/wooden-house/
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