見出し画像

連載小説「オボステルラ」 【第七章 「西へ、東へ」】  16話「東へ」(6)

<< 前話  ||話一覧||  次話 >>

第七章の登場人物
第七章の地名・用語



16話「東へ」(6)


 ドルヴァ河と『国渡りの橋』観光を楽しんだ一行は、メインロードを戻り、徒歩で宿へと向かっていた。ディルムッドに今日の宿の場所をまだ伝えていないので、なんとか連絡を取る方法を考えている(といっても、いつもディルムッドの優れた追尾能力で、連絡するまでもなく一行が泊まる宿へとたどり着くのだが)。

 と、ここで……。

「おうい、またまた会ったな」

 と、すでに聞きなじみになった声が聞こえた。そしてヨークとエルマのカップルが姿を現す。

「あら、今着いたの? ……今着いたところか?」

 いつもの女性口調に戻っていたナイフが慌てて取り繕う。ヨークは首を傾げつつ、ナイフに答えた。

「ああ、明日国境を渡ることにして、さっき宿を決めてきたところだ。あんたらは?」

「私……、オレ達も明日、越境だ。下見がてら大河と橋の観光をしてきたところだよ」

「まあ、それもいいわね。明日はゆっくり見られないかもしれないわよ」

 エルマがそう、腕を組むヨークに尋ねるが、ヨークは「別に橋なんて見なくても……」と冷めた雰囲気で呟き、「もう、つまんない男ね」とエルマが怒るなどしている。夫婦漫才のようなやり取りをナイフは微笑ましく見ていた。

 ここで、ヨークが「ああ、そういえば」とエルマの腕を一旦外し、小声で神妙に尋ねてきた。

「ときに忠告だが、貴方達は本当に厄介事に巻き込まれているわけではないんだな?」

「? どういうことだ」

「いや、昨日伝えた例の巨漢のストーカー……、ではなかった男。彼が先ほど、あっちの通りで殴られているのを見た。手も足も出ないようだった」

「……えっ?」

 そのヨークの報告に、ナイフだけでなく他の皆も驚きの声を上げる。ナイフはさらに尋ねる。

「その……、本当に、その、ストーカーっぽかった男? 間違いないの? 彼が手も足も出せず殴られるだなんて、信じられないんだけど」

 ヨークは深く頷く。

「間違いない。相手は……、貴族のようだったな。結構、歳は行っている感じで……。高貴な身なりではあったが、まるでギャングの親玉のような雰囲気だった」

「ギャング……」

 ゴナンがそう呟き、気づく。恐らく先ほどの豪快貴族のことだろう。リカルドとナイフも同じ結論に達したようだ。ナイフはヨークに頭を下げた。

「……なんとなく状況は分かった。教えてくれてありがとう」

「……ん? 何がどう分かったんだ?」

「まあ、詳しくは話せないが……。おそらく問題は無い、大丈夫だ」

「そうか?」

 まったく状況が分かっていないヨークに笑顔を返すナイフ。釈然としない様子だったが、「大丈夫なら結構だ、じゃあな。また明日も会うかもな」などと言いながらカップルは一行から離れていった。

 ゴナンはナイフに尋ねる。

「ナイフちゃん。ディルを助けに行かないと……」

「あら、ゴナン。大丈夫よ、心配しないで」

「でも、ディルが殴られるなんて……」

 そう、心配でたまらない表情のゴナン。その肩にナイフはそっと手を置いた。

「さっきの豪快さんは恐らく、グラン辺境伯よ」

「グラン辺境伯……?」

「ツマリ、カミラさんのパパだね。ディルさんの元・義父」

「あ……」

 ルチカの補足に、状況がなんとなく腑に落ちるゴナン。「そうか、なるほど」とリカルドも続ける。

「さっき、ゴナンに家名を名乗らせた上に武官として面倒を見るとまで言っていたのに、自分は名乗らなかっただろう。つまり、この街でわざわざ名乗る名ではないということだ。知らないはずがないと」

「で、ディルと遭遇して、不義理を鉄拳で制裁したのかもね。それにしても、『離縁をすんなり受け入れてもらった』って言ってたはずだけど」

 状況を分析するナイフに、ミリアは心配そうに話した。

「グラン辺境伯は、王家との関係は良好だけれども、武の人でとても苛烈な人柄だと聞くわ。とはいえお歳も召しているはずだし、ディルに腕力でかなうとは思えないのだけれど」

「まあ、ミリア。あの堅物騎士が、自分が放り出した元奥さんのお父さんにやり返すようなこと、するわけないじゃないの。ロス島を初めて訪問した時のことを忘れたの?」

 ルチカを追ってロス島のゴードン邸を訪問した際、ルチカのケガの責任を負ってゴードンの鉄拳を甘んじて受けたディルムッド。

「……そうね……。でも、そうなれば、逆にやられっぱなしになっているディルが心配になってくるわ。とにかくグラン辺境伯は、武の人でとても苛烈な人柄だと聞くから」

 同じ情報を繰り返すミリア。よほど武の人で苛烈な人柄と評判なのだろう。リカルドは気づく。

「あっちの通り……、ということは、もしかしたら僕らが泊まる宿のあたりかも知れないな。ともかく、向かってみようか」

 そうして一行は足早に、宿へと急ぎ始めた。

*  *  *

 宿に近付くと、往来に人だかりがあり、何かの騒ぎが起こっているのが聞こえる。皆で人をかきわけて騒ぎの中心地へと行ってみると……。

「うわ……」

 その惨状に、ゴナンは思わず声を漏らす。先ほどの豪快貴族がディルムッドに馬乗りになり、顔をボコボコと殴っているのだ。先ほどヨークが知らせてくれたときにはすでに殴られ始めていたはずだから、随分と長時間、この状態なのかもしれない。流石に周りの護衛が止めに入ろうとはしているが、その豪快貴族・グラン辺境伯は彼らを撥ね除けては殴り続ける。ディルムッドは防御もしておらず、顔は腫れ上がっていた。

「おい、いくら殴っても気が済まないよ、ディルムッド坊よ。俺の娘を悲しい目に遭わせた報いは、どうするつもりだ?」

「……」

「カミラがどうしてもというから、俺は仕方なく離縁を許可したんだ。俺自身が許したわけではないのだぞ」

「……それは、承知しております……」

「それを、のこのこ俺の前に現れやがって。こんなことなら、最初からフランク坊のところに嫁がせておくべきだったな」

「……」

 そうディルムッドを責めながら、さらに拳を振るグラン辺境伯。いつになったら止まるのか、誰にもどうすることもできない。と……。

 拳を振り回す辺境伯の腕に、そっと触れた小さな手があった。

「辺境伯、どうかそのあたりで収めて。いかに勇猛果敢の誉れ高い貴方でも、度を越せば野蛮の徒との謗りを免れないわ」

 ミリアである。あまりの惨状に、思わず止めに入ってしまったようだ。思わぬ介入者に辺境伯の手は止まる。そして不思議そうに、背筋をすっと伸ばし凛とした口調で語ったミリアを見た。

「……お主は……?」

「あっ、ミリア……ン!」

 慌てる一行。辺境伯の下に敷かれたままのディルムッドも、どうすべきかと脳内をアタフタさせる。グラン辺境伯は王女ミリアと直接会ったことは無いはずだが、王太子アーロンとは面識がある。何かに感づかれはしないか、どう振る舞うべきかと一瞬でいろいろなことを考えた。



↓次の話↓



#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に


いいなと思ったら応援しよう!