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にんげんを洗う

「ほ〜、随分と立派なモノをお持ちですねぇ」

声には出さないものの、関心しながら視界に入った景色をただぼんやりと眺めていた。

眼前で、白髪も少なくなった全裸の老紳士がタオルで首元を拭いていた。膝と腰をやや曲げて立ち、悠然と次に向かう湯船を見定めるその姿は、樹齢80年を超えるサルスベリの木のようだった。

ブクブクと勢い良く泡が出る湯船に身体を深く沈め、やや上を向いていたわたしの視界の中心には、2つの小ぶりなゆで卵ほどのモノが、ゆらゆらとぶらめいていた。

一般に男性は女性よりもプライドが高めの生き物であるからして、A〜Eなどと安易にそのサイズを見える化してしまえば、俺が俺がとオレがホーンを突きつけ合い、ナニかを揺らす熱き戦いが始まってしまうため、これまでの長い人類の歴史の中で、男性諸君は示し合わせてきたかのように安易にそのサイズを分けることはせず、その存在の詳細は、歴史とズボンの闇の中に隠されてきた。

あの部位が人によって千差万別であるならば、この部分もまた、千差万別なのである。

それは大樹の年輪の様に次第に大きくなっていく代物ではない。一定の年齢になると成長が止まりゆらゆらとぶらめきながら、自分の意思とは無関係に伸びたり縮んだりを繰り返し、固有のカタチになっていく。

動物の研究者が、動物の模様で個体を識別するように、男性もこの部分で個体を識別可能なのだ。この部分をもって、ジョバンニ、カムパネルラ、ゴクウなどとニンゲンを識別研究する、モノ好きな宇宙人研究者もいるとかいないとか。

ただ、子ゾウの頃は状態変化が著しくて、識別は難しいかもしれない。子ゾウと言えば、最近息子のムスコを鼻に見たてたゾウを体に落描きして、キャッキャアハハしながらお絵描き遊びを愉しんだ。

マジックで描くと先端がこそばゆいようで、描かれている間中息子はゲラゲラと爆笑していて、ムスコもフルフルと大いに揺れふためいていた為に描きにくかった。ゾウの耳を大きめに内股辺りまで描くと、足が動く度に耳がパタパタと動いて見えて可愛かった。男児がいるご家庭ではぜひチャレンジしてみると、ごっこ遊びの幅が広がり知育になる。

かも知れない。

そんな息子は最近、わたしの尻に手をあげるだけでは飽き足らず、やたらわたしのゾウ目掛けてパンチを繰り出す様になった。その僅かな膨らみには、目を引きつけてしまう特別なナニかがあるのだろうか。しかし、マジで何度か生命の危機を感じたため、注意をした。

「なんでパパのチンチンパンチすんだよ?」と聞くと、

「だって、パパのことが大好きだから」

とニヤリと微笑みながら答えた。

もはや意味が不明である。

大人が言えばサイコパス容疑でお縄を頂戴する運びとなろう。好きな子が嫌がるようなチョッカイを出してしまう、男児特有のひねくれた愛情表現なのだろうか。もしかしたら、「パパ大好き」と言っておけばパパはご機嫌と分かっての確信犯なのかも知れない。事実、「大好き」と言われてキュンとなった気持ちのまま、それ以上パパは強く言うことも反撃することも叶わなかった。

ゾウ遊びをした後は、お風呂でボディソープを使って子ゾウを洗った。油性だったので簡単には落ちきらず、うっすらと子ゾウは残ったままだった。

「風呂は命の洗濯よ」
と、かつてミサトさんが言っていた。忘れられない言葉のひとつで、ちょっと人生に疲れて風呂に入る時、思い出しては染み入る言葉だ。

温泉に浸かるのが好きで時々スーパー銭湯などに行く。そこには老若様々なにんげんがいて、同じ湯船に浸かっている。ひとつの野菜よりも沢山の種類の野菜を使った方が味わい深いスープになるように、その湯船の湯には、沢山の人の人生も少しずつ溶け込んでいるのかもしれない。

風呂で体を洗うように、命である心や魂も洗えたら良いのになと思う。銭湯にある垢スリのように、にんげんの心や魂を洗う仕事があるのならばやってみたい。

くすんでしまったにんげんの魂を取り出して、柚子やヒノキを入れた温泉に優しく浸ける。手のひらと指で優しく撫で洗い、マイクロバブルのシャワーを掛けながら、くすみを薄めて浮き上がらせて取っていく。濁ったビー玉から透き通った水晶玉の様になるまで、洗浄コースによって料金を変えよう。アロマやエナドリの使用をオプションにしても良いだろう。どんなお客が来るだろうか。

本当に命を洗う程ではないが、熱い湯船に浸かっていると、世間の喧騒や悩みもいっとき忘れることができる。自分の身体が温まること以外、何も考えない。

いっときでもそういう時間を持つことは、デコボコ道の人生を歩み続けていく上で、案外大切なことなのかもしれない。

そしていつの間にか、悠然と佇むサルスベリのように、穏やかにぶらめけたら良いなと思う。













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今回は、「エッセイのタイトルでしりとりしよう」というエッセイしりとり企画で、ごまつぶさんからバトンのご指名を受けて筆を走らせました。
「ただ、尻を顔にしたかっただけなのに」から、
「にんげんを洗う」で書かせていただきました。

ごまつぶさんのエッセイのタイトルと中身のパンチが強すぎて、なにを書けば良いか数日愉しく悩んで書き下ろしました。ぶらめく機会をいただきありがとうございた。
ご査収ください。


もうひと方、別の企画でわたしの事をご紹介いただいていたまりもさん。ユーモアのあるショートエッセイの書き主さんです。
その節はご紹介いただきありがとうございました。


今回の #エッセイしりとり コンテスト主催者のマイキーさん。何かを企画して盛り上げるって凄いなぁと思います。
エッセイしりとり楽しかったです。ありがとうございました。
本日応募期間最終日ということで、他の審査員の方々共にお疲れ様です。
どうぞよろしくお願いします。


お読みいただきありがとうございました。
気軽にスキやコメント、フォローいただけると嬉しいです☺️


息子と初めての温泉記

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