私の不安が、勝手に管理職になっていた ― アドラーの「課題の分離」を職場で考える
「とりあえずユーザーインタビューを計画中です!」
プロダクトの改善について、どんな計画案を出す予定なのか尋ねると、20代の若手の彼女から、そう返ってきました。ユーザーに会う予定なのは分かった。でも、最後に何が出てくるのかは、よく分からない。計画案の話を聞いたつもりが、インタビューの予定が届いた。
その仕事には、プロダクトをどう改善するか、次の判断に使える計画案が必要でした。私としては、まずユーザーの課題について仮説を置き、いくつか案をつくって、それらを検討するために必要なことを確かめればよいと思っていた。小さく試して修正できる判断ですし、十分によい案があれば、どれが一番かを精密に決める必要もなさそうだった。
そこで、それとなく進め方を提案してみました。返ってきたのは「まずはユーザーに会うことが大事だと思っています」。たしかに、それは大事です。私も反対ではありません。意見は一致しているようなのに、なぜか話が進まない。
このままで大丈夫なのだろうか。もう少し言うべきか。それとも、本人の仕事なのだから任せるべきか。ここで思い出したのが、アドラー心理学の「課題の分離」でした。
私は、何がそんなに不安だったのか?
最初は、相手の進め方が気になっているのだと思っていました。でも、振り返ると少し違う。私が不安だったのは、ちゃんとした計画案が出てくるのか、そもそも完成形の認識が合っているのか、ということでした。
ユーザーに会うことで、想定していなかった課題が見つかることもあるでしょう。インタビューを先にする理由も、彼女なりにあるのかもしれません。ただ、成果物を確認した私に返ってきたのは、次の活動と、それを大切にする気持ちでした。
確認したかったことが残ったままなので、不安が増す。そして「まず仮案を出してからインタビューを考えようよ」と、進め方の話を始めたくなる。私にとって仮案は、認識を合わせるための手段だったのです。
ここで一度、反省しました。最初から期限や品質条件を明確にして、仮案を確認する節目をつくっておけばよかったのではないか。そうすれば、その範囲で進め方を任せられる。ずいぶん立派なマネジメントの反省です。
ただ、一つ問題がありました。私は、この仕事の実行責任者でも、彼女に仕事を依頼した人でもなかった。資料をつくって会議で改善の方針を提案した。それだけです。いつの間にか、頼まれていない進捗管理まで脳内で始めていました。
提案したら、成功するまで私の責任?
自分の提案が採用されると、うまくいってほしくなる。すると、実行が気になり、進め方が気になり、最後には相手の考え方まで気になってくる。提案しただけなのに、心の中ではすっかり管理職です。辞令は、不安が発行していました。
もちろん、他人事で済む話でもありません。彼女が失敗すれば私にも影響はありますし、会社では担当を越えた貢献も求められています。「私の担当ではありません」で毎回閉店していたら、仕事はなかなか進まない。
でも、気づいた問題を伝えることと、その問題が解決するまで自分が背負うことには、距離があります。計画づくりに協力することと、相手が自分の考える方法を採用するまで説得することにも、距離がある。
私はその距離を、不安に押されて一気に渡りそうになっていたのかもしれません。
協力する範囲と、相手に任せる範囲
課題の分離では、まず、その課題の結果を誰が引き受けるのかを確かめます。そして、必要なところを共同の課題として扱います。仕事では影響が複数人に及ぶので、「全部あなた」「全部私」とは分けにくい。だからこそ、具体的な行動に分けて考えると使いやすくなります。
今回なら、気づいた懸念や改善案を伝えるのは私にできること。計画案をつくり、進捗や問題を説明するのは彼女が担うこと。方針の修正や支援の分担は、会議で一緒に決めること。必要なら私も手伝いますが、どこを手伝うかは明確にする。
ここで手放せるのは、「相手に自分と同じ考え方をしてもらわなければ」という責任です。こちらの提案を伝えても、相手が別の方法を選ぶことはある。それだけで、自分の説明や貢献が足りないとは限りません。
そして、任せる期間にも区切りを置けます。次の会議で計画案や見通しを確認でき、そこで修正が間に合うなら、それまでは本人に任せる。待つことで大きな遅れが生じる具体的な兆候があれば、早めに伝える。「課題の分離だから黙る」と決める必要はなく、実際の影響を見て関わり方を選べばよいのです。
口を出す前に、四つのことを確かめる
今回のように、他人の仕事が気になったときは、四つのことを確認すると整理しやすそうです。
自分は、何を担う立場なのか。
提案者なのか、実行責任者なのか、判断する人なのか。提案したという理由だけで、実行管理まで引き受けていないかを確かめます。役割が曖昧なら、関係者と確認するところからです。何が、誰に、どう影響するのか。
「自分なら違うやり方をする」と「このままだと次の判断に必要な案が間に合わない」を分けます。認識が合っているか分からないなら、その点を確認する。具体的な影響が見えているなら、それを伝えます。自分は、どこまで協力するのか。
懸念を伝える、仮案を一緒につくる、会議で比較を手伝う。協力する内容を具体的に決めます。手伝う場合も、相手と分担を合わせる。相手が納得するまで説得し、成功するまで背負う、という無期限契約にはしません。次に、いつ、何を見て判断するのか。
次の会議で計画案や見通しを確認し、必要なら修正を提案する。それで間に合うなら、今は任せます。待てない影響が見えたら、早めに相談する。不安の強さだけで、介入の回数を決めないようにします。
この整理をしたとき、ようやく落ち着く言葉が見つかりました。
「自分ができる働きかけはした。次に判断する機会もある。今は彼女が進める時間だ」
不安が消えたわけではありません。でも、不安があるたびに、相手の仕事へ出動する必要はない。次の会議で必要なことを提案するために、今は自分の仕事に戻ってよい。
越境はする。帰ってもくる。私の不安には、そこまでの人事権を与えなくてよさそうです。
あわせて読みたい
仕事を面白くする人が伸びる
小さな行動から、仕事と成長の可能性を広げる有料マガジンです。自分から仕事を動かすこと、周囲に働きかけること、経験を次につなげることを体系的に整理しています。「どこまで背負うか」を考えた後に、「どう貢献するか」を深めたい方へ。
「率直に言って」は、なかなかの無茶ぶりだった - Netflixの4A
助言に感謝することと、助言を採用することは別です。伝える側と受け取る側の作法に加え、仕事の目的や判断基準を共有する必要性を考えます。「伝えたのだから変わってほしい」と思ったときに。
大企業病は、みんなが自分の仕事をちゃんとやると起きる
全員が担当範囲を守るほど、部門の間に落ちた問題が拾われなくなる。越境する個人の役割と、その貢献を善意だけで消費しない組織の責任を考えます。今回の「越境にも、帰り道がいる」を、組織の側から掘り下げる一編です。
その戦略、本当に失敗したんですか? - Disagree and Commitの重要性
意見が違っても、決まった方針の実行には協力できる。実行し、結果を見て、考えを更新するためのDisagree and Commitを解説します。「自分の案を通すこと」と「チームの成果に貢献すること」を分けて考えたい方へ。
