見出し画像

その戦略、本当に失敗したんですか? - Disagree and Commitの重要性

会議では、ちゃんと決まったはずだった。新しい方針を説明し、懸念も出して、議論もした。最後には責任者が「では、これでいきましょう」と締めた。みんなも頷いた。

ところが数週間後、現場を見てみると、どうも様子がおかしい。あるチームは新しいやり方を始めている。別のチームは今まで通り。さらに別の人は「まあ、様子を見ながらですね」と言っている。
その「様子」とはいったい誰の様子なのか。

そして数か月後、期待していた成果が出ない。すると会議では、「やっぱりこの戦略、よくなかったんじゃないですか」という話になる。

そこで、ちょっと待てと思った。

「失敗した戦略」と「やらなかった戦略」は同じなのか

戦略というのは、ある意味では仮説です。「この顧客に、この価値を、このやり方で届ければ成果が出るのではないか」と考え、実際にやってみる。そして結果を見る。うまくいけば、「この条件ならうまくいくのかもしれない」と考える。うまくいかなければ、「どこが違ったのだろう」と修正する。

つまり組織は、

仮説 → 実行 → 観測 → 修正

という循環で学習していきます。

ところが、ここで実行が雑だと困ったことになる。成果が出なかったとしても、戦略が悪かったのか、実行が悪かったのか分からないからです。

新しい営業方針を決めたのに、半分のチームは従来のやり方を続けていた。新商品に集中すると決めたのに、営業は旧商品を売り続け、マーケティングは別の商品を宣伝し、開発は念のため全部作る。

これで成果が出なかったとき、「戦略が失敗した」と言えるでしょうか。私にはむしろ、「その戦略、まだ試してすらいないのでは?」と思えます。

Commitは「賛成しました」という意味ではない

ここで重要になるのが、Disagree and Commitという考え方です。意思決定の前には、反対していい。むしろ、ちゃんと反対したほうがいい。

「その前提はおかしい」
「こちらの案のほうがいい」
「その数字では判断できない」

そういうことは、決める前にできるだけ言う。でも、いったん決まったら、自分の案ではなくても、その方針が成功するように動く。

私は以前、Commitという言葉に、少し精神論っぽさを感じていました。「決まったんだから黙って従え」という話なのかな、と。

これは逆です。Commitが必要なのは、上司に忠誠を示すためではありません。戦略を検証可能な状態にするためです。

「私は反対だったので、本気ではやりません」という人がいると、本人としては非常に安全です。うまくいかなければ、「だから言ったでしょう」と言える。知的には無傷です。なかなか便利なポジションです。

しかし組織としては、何も学べません。その人の反対意見が正しかったのかさえ、検証できていないからです。

組織は、みんなで一つの実験をしている

しかも、組織の仕事は相互依存しています。営業だけ頑張っても、商品が間に合わなければ売れない。開発が頑張っても、マーケティングが別の顧客を狙っていたら届かない。

だから、一部の人がCommitしないということは、その人だけがサボっているという話ではありません。実験条件そのものを壊しているのです。

これは科学実験に少し似ています。「この条件で結果がどうなるか」を知りたいのに、人によって薬の量を変えたり、途中で別の薬を混ぜたり、「私はこの薬に反対なので半分しか飲ませません」とやっていたら、結果から何も判断できない。

組織では、わりと普通にこれをやっています。そして最後に「データを見ると、この戦略はダメですね」と真顔で言ったりする。
データ以前の問題では、と思う。

戦略を変えられる組織ほど、ちゃんとCommitする

ここで少し面白いのは、Commitとは「一度決めたことを守り抜く」ための考え方ではない、ということです。むしろ逆です。

ちゃんと戦略を変えるために、ちゃんと実行する。

しっかり実行した結果、うまくいかなかったのであれば、戦略を変えればいい。それは失敗ではなく、かなり価値のある情報です。

「この顧客には刺さらなかった」
「この価格では動かなかった」
「この販売方法では伸びなかった」

そこまで分かれば、次の打ち手を考えられる。

でも中途半端にしか実行されなかった戦略から得られるのは、「なんとなく、うまくいかなかった」という非常に扱いに困る感想だけです。これは学習ではありません。

意見を揃えるより、学習のサイクルを揃える

Disagree and Commitというと、組織の意思決定を速くするためのルールだと説明されることがあります。もちろん、それもあると思います。でも私がより重要だと思うのは、組織が正しく学習できることです。

意思決定前には、思い切り意見をぶつける。
決まったら、その案が成功する条件をみんなで整える。
結果が出たら、賛成した人も反対した人も、自分の考えを更新する。

必要なのは、みんなが同じ意見になることではありません。同じ学習サイクルに参加することです。

Commitとは、決めた戦略を守るためのものではない。間違った戦略を、ちゃんと間違っていると判断できるようにするためのものなのだと思います。




あわせて読みたい

⭐️⭐️⭐️仕事を面白くする人が伸びる

仕事を楽しむことから、経験、学習、成長へつながる循環をまとめた有料マガジンです。今回の記事で扱った「実行して、結果を見て、考えを更新する」という学習サイクルを、個人の成長という側面から体系的に掘り下げています。

「シンプルに考える人」と「短絡的な人」は、同じことを言う

シンプルな結論と、雑な結論は何が違うのか。重要なのは結論を短くすることではなく、「何を確かめ、いつ見直すのか」まで理解していることです。決めた方針を実行し、結果から次の判断へ進むという今回の記事にもつながります。

問題解決は問題文作成が9割

「売上が悪い」から、いきなり解決策を考えない。事実と仮説を分け、条件を絞り、何を確かめれば次の意思決定ができるかを考える記事です。戦略を仮説として扱い、観測可能な形にするという点で今回の記事とつながります。

戦略が実行されない会社ほど、戦略会議が増えていく

戦略Aをほとんど実行しないまま「効果がなかった」と評価し、次の戦略Bへ進む。これを繰り返すと、戦略だけが変わり、組織には学びが残りません。今回のDisagree and Commitを、組織の戦略実行という側面から考えた記事です。

挑戦で試されるのは自分ではなく、仮説である - 知るべきは実験の作法

挑戦を成功・失敗の一発勝負ではなく、「仮説を置く→試す→観測する→次を変える」という実験として捉えた記事です。価値があるのは失敗そのものではなく、一回の試行から次の選択肢が更新されること。今回の記事の「Commitは検証可能な状態を作る」という考えに近い内容です。

意見が合わないのに、なぜこの人とは「話が早い」のか

仕事の相性は、意見が一致することではありません。違う意見を、違うまま正確に理解できることです。反対意見を消さずに理解し、それでも一つの意思決定へ進むという、Disagreeの側を掘り下げた記事です。

会議は、あなたを納得させるためにあるのではない

意見を聞くこと、条件を交渉すること、最終的に決定することは別です。自分の意見が採用されなかったからといって、「話を聞いてもらえなかった」わけではありません。Disagreeした後に誰が決め、決定後にどう動くのかを考えるうえで、今回の記事と直接つながる内容です。


いいなと思ったら応援しよう!