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戦略が実行されない会社ほど、戦略会議が増えていく

会社というものは、なぜあんなにも戦略を考えるのが好きなのでしょうか? 経営会議で議論して、資料を作って、重点市場を決めて、全社集会で説明する。「今年はこれでいきます」と宣言すると、なんとなく大きな仕事をひとつ終えたような気分になります。

ところが、現場を見ていると少し不思議なことが起きます。戦略はちゃんと決まっているのに、思ったほどその通りには動いていない。しかも、誰かが露骨に反対しているわけでもありません。みんな話は聞いています。うなずいてもいます。でも、なぜかそうはならない。

たとえば経営陣が、「製品AをカテゴリーBの企業に重点的に売ろう。そこには営業インセンティブもつけよう」と決めたとします。かなり戦略っぽい話です。会議室でも反対は出なさそうです。数カ月後、ある営業担当者がたまたまカテゴリーBの会社に製品Aを売りました。そして後から「それ、今インセンティブ対象ですよ」と言われ、「え、そうなんですか。ラッキーですね」となる。たしかにラッキーです。ただ、戦略として見ると、かなり悲しい。その人はインセンティブがあったから売ったわけではありません。もともとやっていた営業活動に、あとから賞金がついただけです。「販売強化策」というより、「偶然売れた方、おめでとうございますキャンペーン」に近い。

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なぜか「実行しました」ということになる

こういうことは、なぜ起きるのでしょう。戦略を考える人と実際に動く人の間には、たいてい何層かの人がいます。経営から部門長へ、部門長から課長へ、課長から現場へ。階層をひとつ降りるたびに、戦略の意味が少しずつ変わります。しかも、単なる伝言ゲームでもありません。持っている情報が違うので、同じ言葉を聞いても、頭の中に浮かぶ景色が違います。経営にとって「カテゴリーBを強化する」は、数年後の市場構造や競争優位まで含んだ話かもしれません。でも現場には、「今月、B社にも何件か声をかけておいて」というくらいに聞こえることがあります。

さらに困ったことに、現場はだいたい忙しい。新しい戦略が始まったからといって、昨日までの仕事がきれいに消えてくれるわけではありません。「今期はこれが最優先です」と言われても、先月の最優先も、その前の最優先も、まだ普通に生きている。最優先が七つくらい並んでくると、そろそろ「優先」という言葉のほうに謝ってほしくなります。

それでも四半期が終わると、経営には「戦略Aを実行しました。結果は○○でした」と報告が上がります。ここで、少し気になります。本当にAを実行したのでしょうか。

実行していない戦略を、なぜ評価しているのか

戦略がうまくいかなかったとき、本来はいくつかの可能性があります。戦略Aそのものが悪かったのかもしれない。戦略は悪くないけれど、やり方がまずかったのかもしれない。あるいは、そもそもAはほとんど実行されていなかったのかもしれない。ところが組織の中では、これらが混ざったまま、わりと簡単に「Aはあまり効果がありませんでした」という一文になります。

すると経営陣は次を考えます。「ではBでいきましょう」。ここから、少しややこしくなります。現場にはまだAが残っています。「Aをやるんじゃなかったでしたっけ」という人もいれば、「いや、今はBらしいですよ」という人もいる。一部の人はAを続け、一部はBへ移り、忙しい人はどちらも後回しになります。そして数カ月すると、今度はBの結果が報告される。ただ、そのBもどこまで実行されたのか、やはりよくわかりません。なのでCを考える。

こうして戦略だけを見ると、AからB、BからCへと進化しているように見えます。でもよく考えると、AもBもまともに試していない可能性があります。トップから見ると、「状況に応じて戦略を柔軟にアップデートしている」。現場から見ると、「また何か新しいことを言い始めた」。この二つ、意外と両立します。

一番困るのは、売上が足りないことではない

私は以前、戦略が実行されない会社の問題は、単純に「成果が出ないこと」だと思っていました。でも、考えてみると、もっと困ることがあります。戦略そのものについて学べなくなることです。

Aがよかったのか悪かったのか。どこを直せばいいのか。何が効いて、何が効かなかったのか。それを知るためには、まずある程度きちんとAを実行してみないといけません。実行していないものからは、あまり学べません。

料理で考えるとわかりやすいです。レシピには「180度で40分」と書いてある。でも120度で15分しか焼かずに食べてみて、「このレシピ、あまりおいしくないですね」と評価する。レシピが悪い可能性はあります。ただ、その実験ではわかりません。会社では、これとかなり似たことを、大人数で、会議室を予約して、立派な資料を作りながらやっていることがあります。

説明しても動かないなら、仕組みのほうを動かす

では、どうすればいいのでしょう。説明は必要です。ただ、説明さえすれば人が動くのであれば、組織運営はもっと簡単だったはずです。世の中の経営課題のかなりの部分が、PowerPoint数枚で解決してしまいます。実際には、そうはいきません。

だから場合によっては、戦略を「理解してもらう」だけではなく、組織の仕組みに埋め込んだほうが早いことがあります。採用基準を変えたいのに、現場がいつまでも昔の基準で採ってしまう。それなら、最終面接の意思決定者を変えてしまう。AIで業務効率を上げたいのに、誰も本気で工程を変えない。それなら、予算や人員を段階的に変えていく。そうすると現場は、好き嫌いとは別に、今までと同じやり方を続けにくくなります。

かなり乱暴に見える方法ではあります。ただ、「来期からAIを積極活用してください」と全社メールを送って半年待つより、何かは起きます。戦略は、本来「私たちはこう考えています」と説明するための作文ではありません。これまでとは違う行動を起こすためのものです。

そう考えると、良い戦略を考える能力より先に、一つの戦略をある程度きちんと実行して、その結果を観測できる組織を作るほうが大事なのかもしれません。Aをやる。ちゃんとやる。結果を見る。その結果からAを少し直す。地味です。戦略会議で新しい横文字を発表するほど華やかでもありません。でも、これができれば戦略には連続性が出てきます。

反対に、これができない会社では、戦略会議だけがどんどん上手になっていきます。なので、やたら頻繁に新戦略が発表される会社を見たら、「ずいぶん戦略的な会社だな」と感心する前に、ほんの少し別の可能性も考えてみたくなります。

もしかして、前の戦略、まだ一度もちゃんとやっていないのでは。


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