生産性を上げるために仕事を減らす
以前書いた「仕事が速くなっても、生産性は上がらない」では、「仕事が速くなることは効率化であり、事業価値の向上になるかは別問題」ということを書きました。では、生産性を上げるにはどうしたらよいのでしょうか?
若いころ、ある製品のマーケティングを担当していました。マーケティング施策を考え、効果が見込めそうなものから順番に実施し、その四半期の目標を達成することができました。
次の四半期の施策を考えていたときです。効果が高そうなものは一通りやってしまったため、小粒とまでは言いませんが、そこそこの効果しか期待できない施策が並んでいました。それでも目標を達成するために、まずは残っているものの中で一番よさそうなものからやろうと考えました。
そこで上司に、「まずはこれらを実行しながら、もっと効果の高い施策も並行して考えます」と提案しました。
すると、「そこそこの施策はやらなくていい。効果の高い施策を考えることに専念して」と。
私が戸惑っていると、続けて
「そこそこの施策でも、実行すればあなただけでなく、デザイナーや営業などいろいろな人を巻き込むことになる。収支がプラスだからといって、やればいいわけではない。それをやっている間は、もっと効果の高い施策には人も時間も使えない。だいたいX倍くらいの費用対効果が見込めるものだけをやればいい」
私は、それまでの仕事の考え方をひっくり返されました。
一番よい案でも、十分によくなければやらない
それまでの私は、仕事を選ぶ基準は二つだと思っていました。まず、実行すればプラスになること。そして複数の候補があるなら、その中で効果が高いものから実行することです。最初の四半期もそうして成果が出たため、それが正しい仕事の進め方だと思っていました。
ところが、上司が教えてくれたのは別の考え方でした。候補の中で一番よいことと、実行する価値があることは別です。
例えば、残っている施策の費用対効果が、上から1.5倍、1.4倍、1.3倍だったとします。どれも収支はプラスですし、実行するなら当然1.5倍の施策からです。しかし、会社として人と時間を使う基準が3倍なら、1.5倍が一番よいからといって実行する必要はありません。どれもやらずに、3倍、5倍になる別の施策を考える必要があるのです。
私が考えていた選択肢は、「A、B、Cのどれをやるか」だけでした。しかし、本当はもう一つありました。AもBもCもやらず、Dを探す。 この選択肢が抜けていました。
プラスでも、機会損失は起きる
経済学には「機会費用」という考え方があります。何かを選んだことで失われる、別の機会の価値です。
1.5倍の施策を実行すれば、確かに利益は出ます。しかし、企画し、デザイナーへ依頼し、営業と調整し、実施して、結果を分析するには時間がかかります。その時間は、もっと大きな成果を生む施策を探すためには使えません。
つまり、収支がプラスだからといって、機会損失がないわけではありません。
ここで厄介なのが、「そこそこ良い仕事」です。赤字になる施策や、誰も読まない資料、何も決まらない会議なら、不要だと分かればやめられます。しかし、「少し売上が増える」「少し顧客が喜ぶ」「少し便利になる」という仕事には、必ずやる理由があります。しかし、やる理由があるからやると、仕事はいくらでも増えていきます。
必要なのは、「やれば意味があるか」ではありません。限られた人と時間を使ってまで、やるほどの価値があるかです。
そこそこ良い仕事が、もっと良い仕事を考える時間を奪う
当時の私が「まず施策を実行しながら、もっとよい施策も考えます」と提案したのには理由があります。施策を動かしていれば毎週何かが進み、「今週はこれをやりました」と報告でき、目標に近づきます。また「もっと効果の高い施策を考えています」と言いながら、何も実行しない時間が続くのは不安です。
目の前に1.5倍の施策があれば、「何もしないより、これをやった方がいい」と考えたくなります。しかし、それを繰り返せば、いつまでも1.5倍の仕事で時間が埋まります。より大きな成果を生む方法を探すことも、仕事なのです。
これはマーケティングに限りません。プロダクトには「少し便利になる機能」がいくらでもあります。営業には「少し売上が増えそうな施策」があります。社内業務にも「少し効率が上がる改善」は無数にあります。一つひとつには価値がありますが、それらを次々に始めれば、会議、レビュー、説明、進捗確認まで増え、チームは簡単に忙しくなります。
すると、全員が一生懸命働いているのに、もっと大きな成果につながる仕事を考える時間だけがなくなります。問題は単に仕事が多いことではありません。そこそこ価値のある仕事で、より価値の高い仕事を探す余地まで埋めてしまうことです。
生産性を上げるために、仕事を減らす
仕事を減らすというと、「無駄な会議をなくす」「誰も読まない資料をやめる」といった話を思い浮かべます。もちろん、それも必要です。しかし、本当に生産性を上げたいなら、それだけでは足りません。
そこそこ良い仕事も、やらないと決める必要があります。
少し売上が増える。少し顧客が喜ぶ。少し業務が便利になる。こうした仕事はいくらでも見つかります。そして一つひとつに価値があるからこそ、やめるのが難しい。しかし、それらを全部拾っていけば、人も時間も埋まり、もっと大きな成果を生む方法を考える時間がなくなります。
そこそこの仕事をいくら効率よくこなしても、そこから生まれる成果も「そこそこ」のままです。大きなインパクトを生み出したいなら、今ある一番よい案を実行するだけではなく、「これではまだ小さい」と捨てて、もっとよい方法を考える必要があります。
そのためには、予定に余白が必要です。
忙しい状態では、目の前の仕事を終わらせることで精一杯になります。次の企画を考える時間ができても、すぐに別の「やれば少しプラスになる仕事」で埋めてしまいます。それでは、3倍、5倍、10倍の成果につながる方法を考えることはできません。
だから、生産性を上げるために仕事を減らす。
楽をするためではありません。仕事量そのものを減らすことが目的でもありません。
そこそこ良い仕事をやらないと決め、もっと良い仕事を考えるための時間をつくる。
大きな成果を生み出すためには、まず目の前の仕事で予定を埋めないことが必要です。
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