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思考力が同じでも、考え続けられる人が強い

若手の仕事を見ていて、不思議に思ったことがあります。同じくらい頭がよく、最終的に作るプレゼン資料の品質もそれほど変わらない。それなのに、資料を作るスピードがかなり違うのです。

Aさんは、なかなか資料が完成しません。少し考えてPowerPointを作り始め、何枚か作ったところで「やっぱりこの構成ではない」と気づいて消します。また考えて、今度は過去資料を調べたり、数字を集めたりする。少しするとまた考え始め、構成を変えます。考える、作る、消す、また考える。これを何度も繰り返します。

Bさんは、最初の数時間、なかなかPowerPointを開きません。「この資料で何を伝えるのか」「結論は何か」「その結論を支える根拠は何か」「相手はどこに反論するのか」と、ずっと考えています。そして考えが固まると、一気に資料を作ります。

最終的にできあがる資料の品質は、それほど変わりません。それでもBさんの方がかなり速い。そこでAさんに「Bさんのように最初に数時間考えてからPowerPointを開くように」と指示しても数時間が考えることができません。この違いは何なのだろうと、以前から考えていました。

これは単純な「思考力」の差ではありません。思考をどれだけ長く続けられるかの差なのです。

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仕事をしている時間と、考えている時間は違う

この話をするためには、まず「考える」という言葉を少し狭く捉えた方がよさそうです。例えば、プレゼン資料を3時間作ったからといって、3時間考えていたわけではありません。

PowerPointを操作する。過去資料を探す。数字を転記する。グラフを作る。フォントを整える。Slackを読んで返信する。どれも必要な仕事ですが、ここではこれらを「思考」とは呼びません。

思考とは、「そもそも何を伝えたいのか」「本当に解くべき問題は何か」「この資料のキーメッセージは何か」「なぜこの結論なのか」「別の説明の方が正しい可能性はないか」と、自分の理解や仮説、判断を作ったり更新したりすることです。

会議も同じです。1時間の会議に参加していても、ずっと考えているとは限りません。人の説明を聞いたり、自分が知っていることを説明したり、決まったことを確認したりしている時間もかなりあります。

知的労働者は一日中頭を使っていると勘違いしてしまいがちです。しかし、本当に「考えている時間」は、思っているより短いのではないでしょうか。だからこそ、数時間ずっと難しい問いについて考え続けるのは、実際にやってみるとかなり疲れます。

30分考える人と、3時間考える人

先ほどの資料作成に戻ります。資料作成が遅い人も、考えていないわけではありません。最初の30分はしっかり考えています。ただ、ある程度のところで疲れてしまいます。

そこでPowerPointを開きます。過去資料からページを持ってきたり、関連する数字を探したり、グラフを作ったりします。しかし、まだ企画や資料の構造を考え切れていないので、作りながら「やっぱり違う」と気づきます。作ったページを消し、もう一度考える。少し頭が回復すると、また新しい考えが出てきます。そして資料を作り、また前提が変わって作り直します。

つまり、考える → 疲れる → 作業する → また考えるというサイクルを繰り返しています。

一方で、2時間、3時間と連続して考えられる人もいます。最初に思いついた答えで終わらず、「本当にそうなのか」「もっとよい説明はないか」「そもそも問いを間違えていないか」「この結論に反対する人なら何と言うだろう」と考え続けます。そして、キーメッセージや論理構造、必要な根拠まである程度固まってから資料を作ります。

そのため、資料を作り始めた後の大きな手戻りが少なくなります。

これはPowerPointを操作する能力の差ではありません。最初の30分で出せるアイデアの質にも、それほど大きな差はないかもしれません。違うのは、持っている思考力を、連続してどれだけ長く使えるかです。

この差は、仕事ではかなり大きいと思っています。

「考える能力」と「考え続ける能力」は違う

これに近い概念として、研究では cognitive endurance(認知持久力) があります。

2025年に『Quarterly Journal of Economics』に掲載された研究では、cognitive enduranceを、認知的努力を必要とする課題で、時間が経過してもパフォーマンスを維持する能力として扱っています。つまり、最初の問題をどれだけ正しく解けるかだけでなく、問題を解き続けたときに、後半でどれだけ能力が落ちるかを見るわけです。

インドの小学生約1,600人を対象にした実験では、継続的に認知活動へ取り組む時間を増やしたグループは、その後の知的課題で、時間経過によるパフォーマンス低下が22%小さくなりました。さらに、持続的注意の指標や学校成績にも改善が見られています。もちろん、小学生を対象にした研究なので、そのまま大人の仕事へ当てはめることはできません。それでも、「考える能力」と「その能力を長く発揮できること」は、分けて考えられることを示す興味深い研究だと思います。

参考:Cognitive Endurance as Human Capital

意識して訓練すると考える時間は伸ばせる

私は以前から、意識して「考える時間」を長く取るようにしています。何かを考えるとき、すぐに資料を作り始めない。簡単な答えが出ても、そこで終わらせないようにしています。

「本当にこれでいいのか」「別の見方はないか」「そもそも何を考えるべきだったのか」と、もう少しだけ考えてみます。もちろん、長時間考えれば必ずよい答えになるわけではありません。3時間考えれば、30分の6倍よい答えが出るわけでもありません。

それでも、難しい問題では、最初の30分で出てきた答えが最善とは限りません。最初の仮説を作る。疑う。別の仮説を作る。前提へ戻る。もう一度組み立てる。そこまでやるには、ある程度まとまった思考時間が必要です。

そのため私は、「どうすれば速く答えを出せるか」だけでなく、「どうすれば長く考えられるか」も大切にしています。

数時間考える人と、数年間考える人

そして、考える時間にはもう一つの長さがあります。一回に2時間、3時間と考え続けられることとは別に、同じテーマについて数か月、数年と考え続けられることです。

例えば、担当している製品について「この製品の理想的なUXとは何か」という問いを持ったとします。一度考えて理想像を決め、そこで終わることもできます。

一方で、ずっと考え続ける人もいます。ユーザーインタビューをすれば、そこで聞いた話をもとにまた考える。競合製品を触れば、自分たちとの違いを考える。新しい機能を出して、想定とは違う使われ方をすればまた考える。デザイナーから反論されたら、自分の前提へ戻って考え直します。

半年後も、一年後も、同じ問いについて考えています。その結果、最初に思い描いていた理想のUXと、一年後に考えている理想のUXは、かなり違うものになっているかもしれません。

一度答えを出した後も、再度考える

企画も同じです。企画書を作ってレビューを受け、「本当に顧客はこれに困っているのか」と指摘されたら、また考えます。「ニーズはあっても、事業として成立するのか」と言われたら、また考える。顧客へ話を聞いたら、そもそも想定していた課題が間違っていた。そうしたら、もう一度戻って考えます。

重要なのは、企画書を何回修正したかではありません。一度それなりの答えを出したテーマについても、何度でも思考を投入できることです。

ここは、一回に3時間考えられることとは少し違います。一回の思考を長く続けられる人が、必ずしも一つのテーマについて一年間考え続けるとは限りません。逆に、一回の思考時間はそれほど長くなくても、同じテーマを何年も持ち続け、何度も考え直す人もいます。

私はどちらも大切だと思っています。一回の思考を長く続けること。そして、同じテーマについて長期間、考え続けること。 この二つによって、同じ思考力でも投入できる思考の総量は大きく変わります。

思考力が同じでも、考え続けられる人が強い

私たちは「思考力」を、一つの問題についてどれだけよい答えを出せるかで考えがちです。もちろん、それは大切です。

ただ、一回の思考能力が同じだからといって、最終的な成果まで同じになるとは限りません。30分で疲れるのか。必要なら3時間考え続けられるのか。一度考えて終わるのか。それとも一つのテーマについて、数か月、数年と考え続けられるのか。

一回あたりの思考力が同じでも、考える時間が積み重なれば、最終的な理解の深さには大きな差が生まれます。

だからこそ、思考力そのものを高めることと同じくらい、考える時間を伸ばすこと、そして考えることを継続することを大切にしています。

思考力が同じでも、考え続けられる人が強い。

さらに、長い時間をかけて考えたことが蓄積され、次に似た問題へ向き合ったときの「頭の回転」にも影響します。この話は、別の記事で詳しく書いています。

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